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クリア済みゲームを今度はリアルで救う  作者: エスト
第三章 新たな街へ
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第53話 「白い女の子」

「ここは?」


 目を覚ますと俺の目の前には見知らぬ天井があった。

 いつも見ているボロボロの天井とは違う、綺麗に整われていて、日本にいたころの俺の部屋の天井によく似ている。

 しかも、俺は今フカフカのベッドの上に横たわっている。

 神に生き返らせてもらったのか?


「ツツ……イッテー」


 モンスターにやられた頭がガンガンと痛む。首もミシミシとやばい音を立てている。

 

 …………痛い?

 今まで生き返った時には痛みなど全くなかった。

 死ぬような、というか実際死ぬほどのダメージを受けても、その痛みが生き返った時にまで持ち越すようなことはなかった。

 ということは、俺は死ななかったのか?

 あれほどのモンスターに囲まれてなお死なないなんて、ありえるか? いいやありえない。何度も死んだ俺が言うんだ、間違いない。


「まあそれはそれとして……何だよこの有様!?」


 冷静になって自分のことをよく見てみると、俺は白い布でぐるぐる巻きにされていて、首から上以外、全く動かない状況だ。

 この状況から考えるに、俺は誰かに捕らわれていると見て、まず間違いなさそうだ。

 何とかこの状況から抜け出したいが、ガッチリと拘束されていて、身動きが取れない。

 魔法を放とうにも、周りに何があるか分からないこの状況では派手な動きは避けた方が良いだろう。

 まあ要約すると、待つしかない。




 目が覚めてから2時間ほど経った頃、ようやくこの部屋に誰かが来る音が聞こえる。

 音から察するに、モンスターの類ではなさそうだ。

 だが、モンスターの中には変化できるやつも存在し、なにより俺のことをこんな状態にしたやつだ、油断はできない……身動き取れない状況だけど。


 そうこう考えているうちに部屋のドアがガチャリと音を立てて開いた。


「……起きた?」


 入ってきたのはモンスターとは全然違う、はっきり言って人間だ。

 それもきれいな女の子、年は俺と同じぐらいに見える。

 第一印象を言えば、とにかく白い。

 真っ白な肌に、真っ白なワンピース、そして白に近い長くてきれいな銀髪、見ているだけで心が洗い流されていくような、そんな感覚さえ抱かせるほどの白、純白だ。


「あなた、ひどいけがだったけど、大丈夫?」


 その女の子は俺のケガを心配しているようなことを言いながら、俺に近づき顔を撫でる。

 俺を撫でる手は、人間の体温とは思えないほど冷たい、だけどなぜか、不思議と嫌じゃない。


 じゃなくて、この女が俺をこんな状態にしたのか?

 だとしたら魔法をぶっ放して、


「キズ、痛む?」


 女の子は俺を本当に心配しているような顔をしている。

 その顔を見て、俺は魔法を放つのはやめた。

 とりあえず様子を見よう。


「あんたが、俺をここに?」


「モンスターを倒していたら、あなたが倒れていたの。それで、ここまで運んできたの」


 ていうことは俺を助けてくれたってことか?


「それで、なんで俺、こんなぐるぐる巻きにされてんの?」


「前に見たの。人間が、怪我した時に白い布を巻いていたのを」


 えーっと、つまりこれは、包帯ってことか?

 ていうことはこの子は100%善意で俺を助けてくれたってことか。


「なんで助けてくれたんだ?」


「痛そう、だったから」


 女の子は俺の傷を痛ましそうに、まるで自分が傷ついているかのような顔をしている。

 少なくとも、俺に何か危害を加えようとかそんなつもりはないようだ。

 

「ありがとう、とりあえずこの布、取ってもらっていい?」


 医学的知識がない俺でもこの巻き方があまり効果のないことぐらい分かる。

 むしろ、ギチギチに巻かれて痛いぐらいだ。


「ごめんなさい、こんなこと、やったことないから」


 女の子は申し訳なさそうに俺の体に巻かれている包帯を取る。

 よし、これでだいぶ楽になった。


「ふう、これでだいぶ楽になった。ありがとう、えーっと、君の名前は?」


「わたし? 私は、マキナ」


「マキナか、本当にありがとう。俺はもう行くよ」


 一刻も早くナナ達のもとへ戻らなきゃいけないからな。

 多少の怪我くらいで泣き言は言ってられない。


「待って、あなた一人じゃ危険よ」


「平気平気。今は朝だろ? こんな時間に出てくるモンスターなら今の俺でも対処できるよ」


 ふらふらとおぼつかない足取りでドアの前まで移動する。

 ドアを開けると、目の前に信じられない光景が飛び込んできた。

 今の俺の目の前には今まで見た中でも最大級の大きさのモンスターがわんさかいる。

 俺の十倍以上はある青い体をしたドラゴン、サーベルタイガーのように立派な牙を持った獅子のようなモンスター、体に電気を纏い、角をはやした馬のような体をしているモンスターだ。

 しかもそのすべてが見た事もないモンスター。

 ゲームと現実で弱点が違うモンスターはいるが、ゲームに存在しないモンスターを見るのは初めてだ。

 

「私がいないと、あの子たち襲いかかってくるわよ」


 俺は無言でドアを閉める。


「何だあれ!? どうしてこんなとこにあんなモンスターがいるんだ!?」


「あの子たち、気付いた時にはここにいたから、どうしているのか分からないわ。だけど、私には襲いかかってこないから」


「ホントに!? ホントなんだな!? あいつらここを襲ったりしないんだな!?」


「……うるさい」


「あ、すいません」




 とりあえず現状を整理しよう。

 俺は夜のモンスターに襲われて殺されかけた。

 そしてそこをマキナに助けられた。

 それで連れてこられた場所は俺の知らないモンスターの巣窟。

 

 うん、わけわかんない。

 前半は分かる。マキナには感謝感激雨あられ、そんな感じだ。

 だが、どうして俺の知らないモンスターがこんなところにいるかだ。

 いくらあの神が適当とはいえ、あれほど強そうなモンスターをゲームに登場させないなんてありえない。

 ということは、あれは突然変異のモンスターということになる。

 だがナナは以前、こういった突然変異のモンスターは弱い奴しかいないと言っていた気が……いや、今までがそうだからと言って、これからもそうとは限らないか。

 まあとりあえず、俺にできる最善のことをしよう。


(おい神、聞いてんだろ。返事しろ)


 神に聞くこと、それが俺にできる最善だ。

 さすがに神なら何か知っているだろう、そう思って心の声で神に呼びかけをしてみたが、一向に返事が来ない。

 問いかけ始めてから数十秒、俺は何度も神を呼んだ。

 だが一切それに応じる気配がない。

 あの野郎、知らないってことか。にしても、返事ぐらいしろよ。


「落ち着いた?」


「ああ」


 とりあえずマキナがここにいる以上、あのモンスター達が襲いかかってくることはなさそうだ。

 ということは、マキナが一緒に来てくれれば俺は安全にここから出られるわけだ。


「マキナ、俺と一緒に来てくれ」


「いや」


 早い、あまりにも早い返事だ。


「あの……何で?」


「あなたまだ、ケガしてるから」


 もっともな意見だ。

 ケガをしている俺を外に出すわけにはいかない。

 真っ当な感性を持っている人間なら普通のことだ。


「だけど、出来るだけ早く目的を果たしたいんだ! このケガ、いつ治る!?」


「早くて、1カ月ぐらい」


 モンスターの攻撃をモロに頭に喰らったから、妥当な判断だろう。

 だが、遅すぎる。


「できるだけ早く、早く帰らなきゃいけないんだ!」


「無理よ。今だって、相当我慢しているでしょ」


「そ、そんなことはない!」


 そんなことがあるのが現状だ。

 今こうして大声を出すのにも、首に痛みが走る。

 それに立つと頭がクラクラと、うまく歩けない。

 そこを見抜かれているようだ。


「あなた、何でそこまで頑張れるの?」


「…………仲間のためだ」


 ナナ達にできるだけ早く帰ると言った。

 1人でランクアップすることの遠因になったナナのためにも、寂しい思いをしているであろうアカネのためにも、2人のことを任せているソウラのためにも、俺はどれだけ傷つこうと頑張らなくてはならない。

 これは義務なんだ。


「それじゃあ、2週間ここにいなさい」


「……長い」


「2週間経てば、その傷もそこそこ回復するわ。その後は、私がついて行ってあげるから」


「……何で、そこまでしてくれんだ?」


 いくらなんでも優しい、優しすぎる。

 ケガの介抱、それに加えてケガが完治するまで一緒に行動すると、どうしてここまで優しくしてくれるのかが分からない。


「あなたのこと、知りたいから」


「俺のことを?」


「あなたは、私が見てきた人間の中で、一番弱い」


「ぐっ!?」


 マキナの放った言葉は俺の胸にグサリと突き刺さった。

 俺は思わず心臓に何かが刺さったような素振りをしてしまう。


「今こうして話している時も、あなたの視線は小刻みに揺れて、声も震えている。私のような女の子の見た目をした子に、怯えているわ」


 マキナの言葉は淡々と、だが確実に俺の急所をとらえている。


「分かりやすく言うなら、ヘタレ」


「もういい! もういいから! あなたの好意をありがたく何も考えずに受け入れます! もう何も言わないで!」


 俺が弱くて元引きこもりのヘタレということは重々承知しているつもりだった。

 だが他人から、それもこんなにかわいい子からヘタレ呼ばわりされると、さすがに心が痛む。

 俺は女の子に罵られて喜ぶような感性を持ち合わせていない、いたって普通の人間なんだ。


「だけど……」


 俺の制止を聞かずにマキナはまだ話し続ける。


「それなのに、どうしてそこまで頑張れるのかが分からないから、あなたを見ていたいの」


 マキナの表情は真剣そのものだ。

 これが、心の底から言っているものだと、まぎれもない本心なのだと普通の人間なら信じていただろう。

 だが、


「あなた、聞いてる?」


「聞きたくない! もう聞きたくない!」


 マキナの前置のせいで肝心要の部分を、俺は聞くことを拒否していた。

 両手で耳をふさぎ、顔をベッドに埋め、何も見ず、何も聞こえない状態に自らしているのだ。


「元気があるのならいいわ。私はあの子たちの様子を見てくるから」


 何も聞こえていない俺に対してそう言い、マキナは外へ出て行った。

 その数十秒後、俺はようやく両手を耳から離し、顔を上げる。


「2週間は、長いな」


 俺は今、非常に悩んでいる。

 この傷で2週間は割と短いのかもしれない。だが、今の俺には長すぎる。

 だから、この傷を一瞬で治すことを考えた。

 俺には傷を治すとっておきの裏技めいたものがある。

 そう、死ぬことだ。

 死ねば新しい肉体が俺に与えられるのはナナとの戦闘で証明済みだ。

 だが、死ぬのはやっぱり怖い。


「ああくそ! おい神! 一応言っとくが、俺が死んだら街に生き返らせろよ!」


 俺はまだ覚悟は出来ていない。だが、いつ覚悟が決まるとも知れないとき、神にとやかく言われることを考えた俺は、あらかじめ神に忠告しておく。

 だが、そのことに関して神は一切返事をしてこない。


「聞いてんのか!? 返事しろ!」


 俺は何度も神を呼んだ。口に出し、時には心の声で。

 だが神は一向に返事をしない。

 いつもは呼べばすぐに返事は来た。

 だが、今日に限って言えば俺の言葉に対する返事が一度たりとも来ない。

 このままじゃ、たとえ覚悟を決めても死ぬことは出来ない。

 死んだときこの場所に生き返らされる分には一向に問題はない。死ぬ怖さを味わうことにはなるが、物理的にはメリットもデメリットもないからだ。

 だがもしも、神が俺の言っていることを聞いていない、俺という存在を認識していない時に死ねば、本当に生き返るのかは分からないからだ。


「くそっ、肝心な時に使えねぇ」


 こうなったら、2週間ここで過ごすしかないな。

 ナナ達には悪いが、帰りは遅くなりそうだ。


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