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クリア済みゲームを今度はリアルで救う  作者: エスト
第三章 新たな街へ
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第52話 「迷子」

「やべえ、寂しい」


 一人旅が始まってから1時間ちょい、俺は早くも寂しくなってきてしまった。

 ホームシックというやつだろうか。

 この世界に来てからは割と騒がしい奴が周りにいたからそんな感情を持つことはなかったが、俺って結構、寂しがり屋なのかもしれない。


「ピキャアア!」


 ホームシック中の俺の目の前に複数のドラコキッドが現れた。

 俺は5万Gもした刀を構える。

 ナイフとは長さが全然違うため、ランクアップモンスターと戦う前にドラコキッドのような雑魚モンスターで練習しておくのも悪くない。


「俺の剣の錆にしてやるぜ!」


 一度は言ってみたかったセリフを言いながら、俺はドラコキッドめがけて刀を振るう。

 ドラコキッドは刀が当たる直前、後ろを向き尻尾で受け止めようとする。

 だが、


「ピキャッ!?」


 ドラコキッドの尻尾はまるで豆腐でも切るかのようにスパッと切れた。

 100Gのナイフで尻尾を攻撃した時は1発で折れたのに、さすがは5万Gもした刀、たとえ固い部分でも雑魚モンスターの体など簡単に切り落とせる。

 いける、この武器があればランクアップなんてすぐにできる、そう思っていた。




「着いた。ここが二つ目の街、カンド」


 襲い来るモンスター達を蹴散らし、1時間ほど歩いた後、ゲームでは2番目に訪れる街、カンドに着いた。

 街の規模はタストの街に及ばないまでも、中々の大きさだ。

 回りきるのに1日は要するだろう。

 俺はとりあえずギルドと宿屋を探そうと、街に入り歩き始める。

 街の構造はゲームと大差ないから、ギルドはすぐに見つけられた。

 中に入ると、内装はタストのギルドに似ている、というか全く同じだ。

 広さも、中の店も、違うのは人だけでまさにコピーと言っても過言ではない。


 クエストの掲示板を見てみると、さすがにタストの街よりも難易度が高い。討伐するモンスターの種類も数も、あくまでもゲーム基準だが難しいものが多い。

 これは、クエストは受けないでレベル上げに専念した方がよさそうだな。


 俺はギルドを出て宿屋を探す。

 ゲームでは宿屋というシステムはあったが、マイホームシステムが存在し、俺はそれを利用していたので、宿屋の場所はうろ覚えでしか覚えてない。

 そのおかげで宿屋に着くのが夕方ほどになってしまった。


 俺が拠点に選んだ宿屋は1泊10Gの、はっきり言ってボロ家だ。

 だが、この世界に来てからこれぐらいの部屋にばかり泊まっていたから、広い部屋だと逆に落ち着かなくなってしまっている。

 すっかり貧乏性が板についてしまっているみたいだ。


「今日は、休むか」


 俺は部屋のベッドに横になり、今後のことを考えていた。

 次のランクアップのためのモンスターはロックタートル、体が岩のように硬いモンスターだ。

 このモンスターを倒すためには打撃系武器が一番有効で、次に今俺が持っているような剣が有効だ。その武器で顔面を狙うのがロックタートルの一般的な倒し方だ。ゲームでは。

 この世界のモンスターはゲームとは弱点が違うケースがほとんどだ。

 ダルトドラゴンに至っては、弱点が結果的には存在していたが、弱点が存在しないモンスターとして扱われていた。

 何があるか分からない、それが現状だ。

 とりあえずは情報収集、ロックタートルの弱点を聞くのが先決だ。


「それよりも、久しぶりに一人きり、これは、好機だ」


 俺は18歳、まだ思春期とも言える年齢だ。

 初めてこの世界に来た時から俺はナナと、異性と一緒にいた。部屋すらも一緒だった。

 それゆえ、この年齢の男がやる一般的行為が出来ないでいた。

 もう少しわかりやすく言おう、溜まっているのだ。

 この一人旅の期間中にしか、俺にはする機会がない。

 幸い、この世界にもカメラがあるから、ネタもそこそこの値段でかなり前から入手している。

 ついにそれを使う時が来たと、ズボンに手をかけたその時、


「マサト君、天界の女の子が見てるよ」


 神の声が聞こえた。


「…………」


 無言でズボンにかけていた手を戻し、ベッドに横たわる。

 少し早いが、寝よう。




 朝になり、俺は目を覚ます。

 辺りをキョロキョロと見まわし、部屋の中にいるのが俺一人だけという寂しい現状を知覚しつつ、俺はギルドへ向かう。


「すいませんそこの人、話を聞きたいんだけど」


 俺は煌びやかな服装、そして俺の持っている武器よりも高そうな武器を持っている女冒険者に話しかける。


「何が聞きたいの?」


 女性は優しい笑みを浮かべながら聞いてくる。


「ロックタートルについてです。弱点とかって、分かりますか?」


「ええ、私はランクCよ。知ってるに決まってるじゃない」


 よっしゃ、大当たりだ!

 俺は内心歓喜し、そのランクCの冒険者の話を聞く。


「ロックタートルは中にある弱点の核を攻撃すればすぐにノックアウトよ」


 やっぱりというべきか、ゲームとは違った。


「でもその核を攻撃するためにはまずは皮を剥ぎ、肉をえぐる必要があるの」


 だとすると、俺が選んだ刀は最適な武器かもしれない。

 刀なら皮膚も剥ぎやすいし肉もえぐりやすい、その中にある核というのも破壊しやすいだろう。

 しかし、ちょっとグロイ倒し方だな。


「大雑把に言うとこんなところね。それじゃ、あなたは何をくれるの?」


「…………はい?」


「情報料よ、当然でしょ?」


 その女冒険者は当然と言わんばかりにカードを目の前に出す。

 雰囲気で何が言いたいか分かる、殺されたくなけりゃ金を出せと。

 だが、俺は金を渡したくても渡し方を知らない。

 最後までナナは金の渡し方を教えてくれなかったからな。


「なあ、金ってどう渡すんだ?」


「はあ? 何言ってんのあなた!? そんなのカードを重ねて金額を言えば渡せるじゃない! それで、いくら渡せるの?」


 女冒険者にまるで馬鹿な奴でも見るような目を向けられ、軽くメンタルブレイクされつつも俺はカードを女冒険者のカードに重ねて金額を言う。


「1万G」


 そう言うと俺のカードの所持金の欄から1万Gが差し引かれた。


「1万ね、まあいいでしょ、じゃあ他に聞きたいことがあったら聞きに来てね」


 誰が聞くか!

 情報を教えてくれたことには感謝するが、最初優しそうな顔してその後に金を寄越せなんて、詐欺に近いぞ。


 聞くのが怖くて他の冒険者にはもう聞き込みはしなかったが、ロックタートルはゲームでは昼夜問わず出現したモンスターだ。

 今日中に倒してやると意気込み、俺はロックタートルがいるであろう場所へ向かう。


 道中、この世界で初めて見るモンスターが多数出現する。

 ドラコキッドよりも少し大きめのドラゴン型モンスター、グレムウルフよりも少し体がシュッとしたモンスター、昆虫型の、でっかいカブトムシのようなモンスター、様々なモンスターがいる。

 そのすべてのモンスターを俺は持っている刀で一刀両断……できればよかったのだが、いかんせん攻撃が当たらない。

 全部のモンスターが中々に俊敏で、慣れていない刀ではあまりうまく当てられない。

 おかげで数十匹とモンスターが出現したが数匹しか倒せなかった。

 しかも攻撃が当たらないだけじゃなく、モンスターの攻撃を俺は避けられない。

 俺の体はあざだらけ、歯形だらけで中々にボロボロだ。

 まずはこの刀での戦闘に慣れる事、それが重要だと思った。


 刀を振りまくって数時間、ようやく刀での戦闘に慣れてきた……らよかったのだが、全く慣れない。ナイフでの戦闘に慣れてしまったこともあり、距離感が全く分からない。

 それに筋力が少ないのか刀を振るうスピードも遅く、当たったと思った攻撃でさえも避けられてしまう。

 この数時間でレベルが1上がったがそれでも基礎能力は足りないみたいで、一朝一夕では自分の物には出来ないのだと認識した。

 だが、俺の帰りをナナ達が待っていてくれてるんだ。俺も寂しさで死んでしまいそうだし、一生懸命努力しようとモンスターとの戦闘を続けた。


 時刻は夕方5時、この時間になるとモンスターは昼と夜のモンスターの交代の時間になりほとんど現れなくなる。

 俺は来た道をたどりカンドの街へと戻ろうとする。

 30分後、重要かつ深刻な問題に気づいた。


「……ここ……どこ?」


 俺は森の中、どこにいるかも分からない状態で彷徨っていた。

 分かりやすく言おう、迷子だ。


「これじゃ、ナナの事とやかく言えないじゃないかよ」


 初めて訪れた未知の場所、ゲームよりも入り組んでいる複雑な道、迷子になるような要因は数多く存在したが、来た道も戻れないとなると、これは立派な方向音痴だろう。

 というかヤバイ!

 早く街に戻らないと夜の、昼よりも強いモンスターが俺を襲いかかってくる。

 昼のモンスター相手に傷つけられ、結構なダメージを負うような俺が夜のモンスター相手に勝てるわけもない。

 ナナ達がいれば何とかなるかもしれないが、俺一人だけじゃ蹂躙されるのがオチだ。


 どうにか街に戻ろうと走り回ったが、逆にどこにいるか分からなくなってしまった。

 それどころかどんどん森の奥の方へと行ってる気がする。

 やがて、時刻は6時を超え、必然的にモンスターが現れてくる。


「グルルルル」


「ギャアアアオオオオ!」


「バアアアアアア!」


 多種多様な中型モンスターが俺の目の前でよだれを垂らしながら出現する。

 こいつら、俺のことを食うつもりか?


 俺は後ろに振り向き、思いっきり走り出した。

 だが、よく見てみると俺はすでにモンスター達に囲まれていた。

 まるで、モンスター同士が互いに手を取り合い、俺を追い込んでいるかのようだ。


「やるしか、ねえのか」


 俺は刀を抜き、構える。

 この刀なら当たれば切れる、ここら辺にいるモンスターならば1発で殺せるかもしれない。

 問題は、いかにこいつらの攻撃を避けられるかということだ。

 今の俺では1発喰らっただけでも致命傷になる可能性が高い。


「くらえええ!」


 俺は目の前のドラゴンの体めがけ、右上から左下にかけて刀を振るう。

 ドラゴンは俺の攻撃を避けようとはせず、立ち向かおうと口から炎を吐こうとしたのか、口が炎でいっぱいになるのが見えた。

 だが、俺の攻撃が当たるのが一瞬速かった。

 炎が吐かれる前にドラゴンの体が真っ二つに分かれる。


 いける! 

 そう思った瞬間、俺の頭に衝撃が走った。


「ギャアアアオオオオ!」


 獣型モンスター、分かりやすく言うとクマのようなモンスターの強烈な一撃が、俺の後頭部を襲ったのだ。

 そして俺の体は地面にたたきつけられ、地面に這いつくばる形になった。

 倒れた俺をモンスター達は取り囲み、ゆっくりと顔を近づける。


 もう終わりだ。薄れゆく意識の中で、俺はもう諦めていた。

 また神に生き返らされる、問題はどこに生き返らされるかだ。

 そう思った時、


「ギャッ!?」


 突然クマ型モンスターが倒れた。

 

 どうした? 俺をめぐってモンスター同士がやりあってるのか?

 だけど急にどうして……

 いや、そんなの関係ない。

 俺はもう死ぬんだ。

 また次、頑張ろう。

 俺は瞼を閉じ、自分の死を待っていた。


 待っている間、ドサドサと何かが倒れる音がする。

 これは確実にモンスター同士がやりあっている。

 だけどもう、どうでもいい。

 どうせどのモンスターが残ったところで俺が食われる未来に変わりはない。

 だけどどうせなら、少しでも大きいモンスターに一気に、痛みもなく殺してほしいもんだ。


 やがて、モンスターが倒れる音がしなくなった。

 俺に近づいてくる足音が聞こえる。

 音から察するに、あまり大きなモンスターではないようだ。


 死にたくねえな。

 そう思いながら、先程のモンスターにやられたダメージによるものか、俺は意識を失おうとしていた。

 意識を失う瞬間、ヒンヤリと、冷たい感触があった。

 かなり冷たい、だけど不思議と心地よい感触。

 俺はその冷たさの中、意識を失った。


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