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クリア済みゲームを今度はリアルで救う  作者: エスト
第三章 新たな街へ
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第50話 「色々な意味で不安な裁判」

 俺がこの取調室に来てから、3日が経った。

 相も変わらずミハリは神具が壊れていると思い、それを何とか修復することに専念して俺の有罪無罪を証明するための調査をしない。

 もっとも、他の人が調査を進めているのかもしれないが。


「よし、これならどうでしょうか?」


 ミハリは今度こそと言った表情で神具である球を俺の前に置く。

 俺はその球に向かって、この3日で何十回もした自己紹介をする。


「俺は冒険者のマサトだ」


 当然球は光る。

 マサトは俺の親からもらった名前でなくゲームのプレイヤーネーム、何度試そうと俺がマサトだというたびにこの球は光る。


「ていうかさ、そんな直し方があるか?」


 さっきからミハリは、球を叩いたり磨いたり、意味がないことばかりしている。

 神の贈り物で仕組みが分からないからだとしても、ひどすぎる。

 俺がここから出られる日は、普通にしてたんじゃ来ないだろうな。

 ナナ達、心配してるかな。




「離してください!」


「離すか! お前、自首する気だろう!?」


「当然です! 3日も経って戻ってこないなんて、きっとマサトさんは苦しんでいます!」


「いまさら自首したところで犯人を匿った罪でマサトは結局は犯罪者だぞ!」


「だとしても、違法薬物を使った罪よりは軽くなるはずです!」


 ここはソウラの自室、ナナとアカネはマサトが連れていかれた時、ソウラが近くで二人のことを監視しておくために自分の家へ招いたのだ。

 そしてマサトが連れいかれてから3日、ナナは我慢の限界だった。

 今から自首をしに、裁判所へ赴こうとしている。

 無論、マサトから二人のことを任されたソウラはそれを阻止する。


「マサトの気持ちを考えてみろ! あいつがそんな事を望んでいると思うか!?」


「私が望んでいるんです!」


 ナナはソウラの制止を振りほどこうとするが、ソウラが全力でナナの手を掴んでいるのでそれが出来ない。

 アカネはというと、3日間ずっと寂しそうに、部屋の隅で丸くなっている。

 たった3日でこれだ。

 あと数日もしないうちにナナは魔法を放ってでもソウラの制止を振り切りマサトのもとへと向かうだろう。




 俺はそんなソウラの苦労を知らず、ただボーっとしていた。

 この3日間であらゆることを考え、なんとかこの部屋から出ようとしたが、そのすべてが無為に終わっている。

 とんでもないアクシデントが起こるのを待つしかない、そんなありえないだろうことを期待しながら俺はこの時間を過ごしている。


「マサトさん、今度こそ!」


「俺の名前はマサトだ」


 俺はうんざりしながら答える。

 ミハリはいまだ球の修復を試み、俺に何度も自己紹介させている。

 もちろん球は光っている。


「はあ、一体どうして壊れてしまったんでしょうか?」


 ミハリはため息を漏らしうなだれるが、壊れてはいないのだからそんなことをするのは全く持って無意味だ。

 教える気は一切ないが。


「もう無理だろ。さっさと調査を始めろよ」


「いえ、こうなったら裁判を起こしましょうか」


 ミハリは最後の手段と言わんばかりに提案する。


「起こせるもんなら起こしたいけど、出来るのか?」


「ええ、いつまでもあなたにここにいられるのはこちらとしても困りますから」


 こいつ、こっちだっていたくているわけじゃないんだぞ。

 出来るならさっさとこんなところから出たい、そんな人の気持ちも知らないで勝手なことを言いやがって。


「裁判は起こしますが、裁判官に私の名前は伏せてください。すいませんが」


「なんでだよ。取り調べをしたあんたの名前を出すのは当然だろうが」


 俺は当然のことを言っているつもりだ。

 裁判機関の従業員ではミハリが俺のことを一番知っているはずだ。だからミハリの名前を出すのは当然、だがミハリはそれでは困るといった顔つきをしている。


「この街の裁判では、裁判を行う前から有罪無罪は決定しているんです」


「それ、意味ないじゃん」


「ええ、裁判とは名ばかりの、裁判官の憂さ晴らしの場です」


 憂さ晴らしって、ひどすぎだろ。

 ようは犯罪者に無罪の希望をチラつかせつつ絶望を叩きつける、被告人をいじめるための出来レースってわけだろ。

 裁判機関ってのは、くそだな。


「そんな裁判で有罪の証拠がそろっていない人に裁判を起こさせると、私が裁判官に目を付けられてしまうので」


 なるほどな、それは確かに困る。

 最悪クビかもな。

 この人はそこまで悪い人ではなさそうだから、黙っていても問題はない。


「あなたはきっと無罪でしょうから、きっと勝てます」


 なにより、ミハリは俺が無実だと信じてくれている。

 実際はイルクの水を、俺が使ったわけでは無いが、俺の仲間のナナが使ったわけだから多少の心苦しさがある。

 だから、ミハリは不利になることを言うことはない。


「それじゃあ裁判を起こそうか。いつ頃だ?」


「多分明日には出来ると思います」


 明日か、それで俺の有罪か無罪が決まる。

 今のところ俺には有罪も無罪も決定づける証拠は何もない。

 口八丁手八丁で裁判官を言いくるめることが出来れば、無罪放免の可能性も十分にある。

 明日、俺の人生が決まる。






 裁判当日、俺は取調室の上にある裁判所に被告人として立たされている。

 ミハリの話によれば、今日の裁判では俺の弁護人が2人、検察側の証人が1人いるようだ。

 この3人の存在が俺のこの世界での明暗を分ける。

 どうか、当たりであってくれ。


 俺が期待しながらその弁護人を待っていると、後ろの方から聞きなれた声が聞こえてくる。


「マサトさん! 無事でしたか!?」


 ナナが被告人である俺の場所へと駆け寄ってくる。

 その後ろにはソウラとアカネもいる。

 たった3日会わなかっただけなのに、なぜかうれしい。

 少しだけだが、胸が軽くなった気がした。


「よう、元気してたか?」


「それはこっちのセリフです! 大丈夫でしたか!? 何か変なことはされませんでしたか!? ご飯はちゃんと食べてましたか!?」


 ナナは俺の体に何か問題がないかあちこち触りながら聞いてくる。

 正直うっとうしい気持ちもあったが、俺のことを本気で心配してくれたことが、嬉しくもある。


「落ち着け。これから裁判が始まるから、お前らは傍聴席に……」


「ええ、何としてでもマサトさんを勝たせて見せます!」


 ナナは小さめの拳を握りしめ、気合満々といった表情をしている。

 まさかとは思うが……いやいやそんなことないだろ。

 だってナナは一般人、裁判の弁護なんて出来るわけが……


「弁護人として、マサトさんを全力でサポートします!」


 やっぱりかよ!

 まさかソウラも俺の弁護人としてきたのか?

 不安だ。

 俺はナナ達に会って軽くなったはずの胸に、ズンと何かがのしかかったのを感じる。


「それでは裁判を始める。被告人は静かに!」


 裁判官の席にはいつの間にか3人の老人が座っていた。

 2人は男、1人は女だ。

 3人とも、ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべている。

 俺をどういたぶるかを考えているのか。

 だが、今日はいつも通りとはいかねえよ!


「それでは、サーチライトを持ってまいれ」


 裁判官の一人が検察に向かって指示する。

 どうやら嘘を見破るあの球はサーチライトというらしい。


「裁判長殿、申し訳ありませんがサーチライトはただいま精度が落ちていまして、今回の裁判では使えません」


 検察官は答える。

 その返答に裁判長と言われた老人は驚愕の顔をする。


「サーチライトが使えないじゃと!?」


「はい、ですので今回、被告人の罪を確定するのは裁判長のお役目です」


「わ、わしが神の代わりを務めるということか……」


 裁判長はそれはそれでと言った表情をしている。

 確かに神具が今までしてきたことを自分がやるというのは神の代わりをすると言えなくもないが、ポジティブなじじぃだ。


「サーチライトが使えないとなると、詳しく話を聞く必要があるの。検察よ、説明せよ」


「はっ、そこにいる被告人マサトの罪は違法薬物の使用。先日グレムウルフが襲来した際に購入、使用したとのことです」


「ふむ、その証拠はあるのかね?」


「イルクの水を購入したとの証言、そして、イルクの水を使わなければ被告人のレベルではグレムウルフを倒すことは不可能であることが証拠です」


 何が証拠だ!?

 全部状況証拠じゃねえか!

 そんなんじゃ俺の有罪の決定的な証拠にはならない。

 そう思っていたが、


「なるほど。襲来したグレムウルフの数は約3000であったと聞く。被告人にそのような力があるとは、思えんの」


 裁判長は今の説明で納得している様子だ。

 まあ、今の話は全部本当のことだからそれはそれで仕方ない気もするが。


「被告人、お主のレベルとランクはいかほどじゃ?」


「レベルは12。ランクは、Eだ」


 カードが存在する以上、レベルとランクでは嘘が付けない。

 だから正直に言うしかない、絶対にグレムウルフを3000体も倒せるようじゃないレベルを。


「うむ、重ねて聞くが、どのように倒した?」


 思った以上に的確な質問をされた。

 俺はこの世界の人間の頭脳を甘く見て、いや、限りなくバカにしていたようだ。


「スキルだ。俺にはスキルがある。特別な条件下で発生するスキルだ。それを使ってグレムウルフを全部倒した」


 これが今の俺に言える最善の嘘だ。

 以前レイトは言っていた。スキルは何でもありなところがあると。

 加えて、特別な条件下で明言したことにより、それを証明することは不可能になった。


「なるほど、スキルをのう。今それを見せることは出来るか」


「残念だが当分の間その特別な条件をクリアすることは出来ない。下手をすればこの先一生スキルは使えないかもしれない」


 俺はスラスラとありもしないスキルの説明を語る。

 この裁判のために昨日1日中考えたことだからだ。

 俺がどうやってグレムウルフを倒したか、それが肝だからな。


「ならお主は罪を否定するということじゃな?」


「当然だ」


「ふむ、検察よ、何か意見はあるか?」


「はい、被告人に罪を証明するために、証人がいます」


「なるほど、ではその証人を呼べ…………こんなこと、初めてじゃな」


 裁判長のこの言葉は聞き捨てならなかった。

 証人が初めてだと?

 じゃあ今までは神具を使ってお前は有罪だ、ってやっていたってことか。

 楽な裁判やっていたんだな。


 俺が裁判長の言葉に呆れていると、検察側の、一人目の証人が現れる。


「どうも、ライだ」


 証人として現れたのはライだ。

 こいつならあしらうのは簡単だ。

 そもそも俺がこの世界の人を甘く見ていた要因の一人だからな。


「マサトにはグレムウルフを倒す力がある。今日はそれを証言しに来た」


 ライの放った言葉は、この場にいるすべての人間の度肝を抜いた。

 検察側の証人が、あろうことか被告人の無罪を主張したのだ。


「ラ、ライさん!? あなたは今日マサトさんの弱さの証明に連れてきたのですよ!」


 検察はライのこの行動に心底驚いているようだ。

 俺だって驚いている。ライが俺をかばう理由なんて一つもないはずだ。恨まれる理由なら心当たりがあるが。


「ライと言ったな、どういうことなのだ?」


「俺は以前マサトと決闘を行った。一人の女を取り合ってな」


 ライはフッと笑いながら、キザったらしくあの日シーラに無理やりやらされた決闘のことを語る。


「あの時、俺とマサトの力の差は歴然だった。決闘も終始俺が圧倒していた。だがマサトは、その俺に勝ったのだ!」


 あの時は本当にぎりぎりだったなあ。ライが少しでも戦術を変えてきたら逆に俺が倒されていた。


「イルクの水を使い、パワーアップしたこの俺をだ!」


 裁判所内が、静まり返った。ソウラは頭を抱えて呆れかえっている。

 ライは俺たちの反応を気にかけずに話を続ける。


「つまり、マサトは普通の状態でもイルクの水を使ったやつより強いということだ!」


「衛兵、そいつをひっ捕らえろ」


「ハッ!」


 俺を監視する役目の衛兵2人がライの腕をがっちりと掴み、退廷させようとする。


「な、何だお前ら!? まだ証言の途中……離せ! 離せええぇぇぇぇぇぇ…………!」


 ライの叫びが裁判所に響き渡る。

 やがて、ライの叫びが聞こえなくなったときに、検察がしゃべりだす。


「は、犯罪者をこの場に召喚したこと、心よりお詫び申し上げます。あの者のことは忘れてください」


「うむ、あの者の存在は忘れよう」


 さっきのことはなかったことなった。

 この裁判、グダグダになりそうだ。


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