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クリア済みゲームを今度はリアルで救う  作者: エスト
第一章 ギルド加入
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第5話 「やっぱあの神ろくでもない」

 俺とナナはすぐに宿屋を見つけることができた。

 無論、見つけたのは俺で、ナナはただついてくるだけだった。

 俺は別に気にしてないのだが、ナナは終始、申し訳なさそうな顔をしていた。


「見た目結構ボロイけど金もあんま無いし仕方ねーか」


 今日は色々あったからな、殺されて、転生されて、迷子になって、モンスターと戦って、今日はどこででもぐっすり眠れそうな気がする。


「いらっしゃいませ、お二人様ですか?」


「二人だけど部屋は別でお願いします」


 いくら俺のお供とはいえやっぱり年頃の男女が一つ屋根の下ってのはマズいよなー。

 思春期な一般男子ははやはり、自室で独りっきりでいるべきだ。


「分かりました。それでは部屋を二つで1泊20Gになります」


 ゲームの相場より高いな。折れたナイフの代わりを明日買いたいから節約したいけどこれは仕方ねーか。

 俺は二人分の料金を払おうとしたが、ナナは俺の手を制止する。


「マサトさん、私は別に同じ部屋でいいですよ」


 なん……だと?

 ちょっとまて、今この子はなんて言った?

 同じ部屋でいい? それって、もしかしなくてもそういうことだよな?

 同じ部屋で寝食を共にするということだよな?


「い、いいのかナナ? 俺と同じ部屋で? まあ俺はナナさえ良ければそれでもかまわないけど……」


「はい、別に問題ありません。それに私が高い盾を買っちゃったので節約しませんとね」


 な、なんていい子なんだ。心が洗われるれるようだ。この子とならたとえ同じ部屋でも変な気は起きそうにないな。

 というかそんなことしたら罪悪感で押しつぶされそうになる。


「それじゃあ、やっぱり部屋は一つで」


「はい、こちらが鍵になります。食事は何時ごろにしますか」


「7時で」


「かしこまりました」


 俺は鍵を受け取り部屋へと向かう。

 部屋の扉は……うん、ボロイ。

 だけど、部屋の中は割と綺麗なんじゃ……。


「うん、なんというかまあ、やっぱりだな」


 部屋にはベッドが二つに丸い木のテーブルが一つという簡素な物だった。壁には無数の傷があり窓もひび割れている。

 隙間風が入り込んできて、部屋の中は少し肌寒い。

 見た目通りなのだが、こんなので疲れが取れるのか怪しいところだな。


「それじゃあナナ、今からちょっと話がしたいんだけど、いいか?」


「話、ですか?」


 ナナにはいろいろ聞きたいことがある。この世界のこととか色々とたくさん。

 ゲーム知識がほぼ役に立たないだろうし、この世界はゲームの世界ではなく現実の世界。

 常識とかそんなところも聞いておきたい。


「まず聞きたいのが、この世界って本当に危機に瀕しているのか?」


 これは俺がこの世界に来た時に真っ先に思い浮かんだ疑問だった。ここの住人は世界が危機に瀕しているにしてはそんな気配微塵も感じさせない。むしろ平和そのものだ。

 住民は活気にあふれていて、ある種、日本よりも平和で穏やかな世界なのではと思ったほどだ。


「はい、確かにこの世界は今危ない状況にあります。しかしモンスターは基本的に自身の縄張りからあまり出てこず、ここを縄張りとするモンスターはドラコキッドのような弱いモンスターばかりなのでそう思うんでしょう」


「だけどさっき見たモンスターはかなり強そうだったぞ」


「私たちのレベルから見ればあのモンスターはものすごい強敵ですが、中堅にもなれば楽に倒せてしまうんです。それに以前あのモンスターが大量発生した時にこの町の冒険者が一掃してくれたので、それ以降はこの町にあまり近づこうとしないんですよ」


 確かにあのモンスター最初は俺たちを襲ってきそうだったけど町に近づくにつれ追ってこなくなったな。


「なるほどな、じゃあここは割と安全なとこなんだな」


「はい、突然変異のモンスターとか現れたり、強いモンスターが縄張りを広げなければ安全です」


 ……なんかなー、こういう異世界転生でそういうのってフラグにしか思えないんだよなー。まあそこは現れた時に考えればいいか。


「でもさ、それじゃ世界が危機に瀕しているってことにはならないんじゃないか?」


 モンスターが縄張りから出てこないのであれば、そこにさえ立ち入らなきゃ平気なのではないだろうか。

 話を聞く分には、この世界は至って平和にしか思えない。


「えーっとですね、その強いモンスターが縄張りにしてる範囲が大きくて、人の住めるところは少なくなっているんです。そのせいで比較的安全なこの街に人口が増加しているのですが、増えすぎて食料とかが少なくなって、どんどん人口が減ってるんです。今ではこの町の人口は世界で最大規模だというのに10万いるかいないかぐらいなんです」


 なるほどな。そりゃあ確かに大変だ。でも、それなのになぜ、住民は活気にあふれていたのだろうか。

 もっとどんよりした雰囲気の方がっているんじゃないだろうか。


「現在は人口が少なってきたから、需要と供給は追いついているんですが、やはりこの世界は危機に瀕していると言ってもいいです」


 とりあえずは分かった。

 一昔前は需要と供給が追い付かずに、食糧難に陥って人口が激減した。

 だがそのおかげで、と言っていいかはわからないが、人口が減ったおかげで供給量も減り、今は元気に暮らせているというわけか。


「他に何かご質問はありますか?」


「ああ、あといくつかある。ここらへんは平和だとしても他は危険なんだよな。状況がどうなってるか分かる?」


「他のところは、北の方は凄惨な状況になっています。ラスボス級のモンスターを筆頭にその地を支配され、人間はほとんどが殺され、かろうじて生き残り他の地へ移動した人も心に深い傷を負い療養生活を余儀なくされています」


 北の方か……モンキラも確か北の方に強いモンスターがいた気がするな。もしかしたらモンスターの生息地はゲームもこの世界も一緒なのかもしれない。


「今では強い冒険者さんたちがモンスターを倒して、この街とラスボス級がいる場所の中間辺りまで、領土を広げています」


「なるほどな。じゃあモンスターを倒して領土を広げれば世界を救うことになるのか」


「あ、それは違います」


「え?」


「たとえモンスターを倒したとしても、モンスターは繁殖力が高いので絶対に絶滅したりしません。だから中間辺りまでは人間の力でモンスターを制圧することは出来ますが、それより先は絶対に不可能です」


「……じゃあ、俺は何すりゃいいわけ?」


「……さあ?」


 なにそれ。

 どうしたら世界を救うかも分からないのに、俺はこの世界に駆り出されたわけ?

 なんかもう、考えなさすぎだろ。

 あの神はもう、なんで神をやっているんだよ。


「とりあえずこの世界のことは分かった。分からないことは増えたけど……。2つ目の質問は、魔法ってどうすれば使えるようになるんだ?」


 魔法を使えれば戦闘の幅が広がってこの先楽になるだろうし、何よりも使ってみたい。

 いかにもファンタジーって感じで、異世界転生したのなら魔法は必須だよな。


「魔法は私の使った回復魔法は才能がある人しか使えませんが攻撃魔法の弱いのなら一度魔法をくらえば使えるようになるはずです。やりましょうか?」


 そういうとナナは手をかざし俺に魔法を放とうとする。


「ちょ、ちょっとまて!? そんないきなりやろうとするなよ!」


 魔法を使ってみたくはあるが、痛いのはいやだ。

 ほかに手段がないのであればしょうがないが、その時はその時、覚悟を決めてからやってもらいたい。


「大丈夫ですよ、私の攻撃魔法は弱いからドラコキッドの火よりも弱いですし」


「い、いや、とりあえずそれは後でいい……攻撃魔法が簡単に習得できるってのは分かったけど、他の、例えばギルドの受付の人がやったようなカードの裏に記入するのとかは習得できるのか?」


「無理ですね。実はあの受付の人は私と同じ神の使いなんですよ。直接面識はなかったですが」


 マジかよ、あの人神の使いだったの!?


「カードにああいった記入ができると便利だなーと神様が提案したので世界各地のギルドに2人ずつ配置したんです」


 ふーん、なるほどな。あの神にしては案外まともなことしたな。


「とりあえず魔法のことは分かった。あとは、この世界にはスキルってあるか?」


「スキルですか……例えば攻撃力が上がったりとかそういうのですか?」


「そうそれ、そういうの!」


 スキルがあれば貧弱ステータスの俺でもなんとかなるかもしれない、ていうかスキルが最後の希望だよ。

 ゲームでもキャラのステータスの最大値はそこまで高くは設定されていなかったから、スキル構成が重要だったりした。

 それがうまく運用できれば、俺のような引きこもりの貧弱な体でも戦える……はず。


「スキルはあります。魔法力が上がったり筋力が上がったりなど————」


 ヨッシャー! ステータス補正のスキルがあるんならこの先どうとでもなるぜ。あとはその習得方法だ。

 どうか簡単なものでありますように。


「他にも鍛冶スキルなどありますがスキルもまた回復魔法と同じように才能を必要とします」


 クッソー! やっぱそういうオチかよ。だけどまだ俺にその才能がある可能性も無きにしも非ず!


「その才能の有無を確認する方法は? 才能があるんならどうやってスキル発動するの?」


「才能の有無の確認方法は今のところありませんね。あとスキルが覚醒するタイミングはレベルアップの時です。才能がある人が一定のレベルまで上がると自然にスキルが発生します」


 ……こりゃあ、スキルはあまり期待できないな。モンスターの弱点が変わってる、ステータスも貧弱、スキルも期待薄、俺に何があるんだよ。

 丸腰で戦場に立たされたもんだぞ。

 あの神、呪ってやる!


「じゃあ最後の質問は、ナナ、なんでこの世界に来たんだ?」


「え? ど、どういうことですか?」


 俺の質問にナナは困惑した。


「普通に考えたらおかしいだろ。君みたいな女の子が俺みたいなのとこんな危険な世界に来るなんて。本当は来なくていいのにわざわざ来るなんて、何か裏があるんじゃないかと思っちまって……」


 なんだろう。ナナを疑うってすげぇ心が痛むけど、だけど実際疑っちゃうんだよなぁ、さすがに不自然だもの。

 俺だってモンスターと戦うことに、ほんの少しぐらい興奮したりする。

 だけど、今はもう帰りたいという気持ちの方が大きい。


「や、やっぱりおかしかったでしたか。しょうがありません、本当のことを言います」


 やっぱり何か裏があったのか、ちょっとショックだな。


「実は私、あの神様のもとで働くのが本当に嫌だったんです」


 …………は?


「神様は本当に気分屋で毎度毎度言ってることが違うんです。そのたびに私たちがどれだけ苦労してきたことか……あのゲームを完成することができたのは奇跡に近いですね」


 やっぱあの神ろくでもねぇな。


「今回この世界に来たのは、神様のもとで今後働き続けるぐらいなら、いっそこの世界に来る方がまだマシだと思ったからなんです。マサトさんにとって重要な意味を持つお供をこのような理由で志願したとは言いづらくて……」


「でも本当はこの世界に来る人はすげぇ駄々こねたんだろ。それってこの世界がマジで危ないからなんじゃないのか?」


「その方は肉体労働専門で、私たちデスクワークが仕事を振ってから行動に移すんです。それに肉体労働といっても魔法で大抵どうにかできてしまいますからデスクワークほど大変ではないんです。だから神様からそこまで苦労をかけられてないんです」


 なるほどな、俺としてはる程度力のある人がお供なら良かったけど、いやいや来られても俺も気分は悪いし、ナナみたいなどんな理由でもこっちに来たいって言ってくれた方が気が楽だから結果的にはこの方がよかったかもな。


「ナナ、そういう理由なら別に気にする必要はないぞ」


「え?」


「あの神の適当っぷりは少ししか話をしていない俺にも分かったからな。あいつのもとで働くってのがどんだけしんどいかも想像しやすいよ。ていうかナナの理由が納得できすぎる」


「マ、マサトさん」


「というわけで、疑って悪かったな。これからもよろしく」


「はいっ! 私からもよろしくお願いします…………やっぱり優しいんですね」


「ん? 最後何か言ったか?」


「い、いえ! 何も!」


 まあいっか。とりあえず人間関係で苦労はしなさそうだな。

 さあ寝よう。今日はもう疲れた。


 俺は部屋に常備されているボロ布……もとい、寝間着に着替えて就寝についた。


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