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クリア済みゲームを今度はリアルで救う  作者: エスト
第二章 クエスト生活
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第46話 「モンスター事情」

 俺がソウラたちを探している途中、完全武装の十人ほどの集団を見かけた。

 その先頭にはヴァテックスの女騎士がいる。

 嬉しそうなような、悲しそうなような、そんな微妙な表情をしている。


「まさかグレムウルフがすべて倒されていようとは」


 その言葉を聞き理解した。

 あの集団はグレムウルフを倒すために集められた、この街の数少ない戦闘要員だったのだ。

 女騎士が微妙な顔をしているのは、街の脅威がなくなって嬉しい気持ちと、せっかく集めた戦闘員が無駄になってしまったゆえのことだろう。

 ま、どうせあの数じゃ倒せなかったろうけどな。他の冒険者も同じぐらい集められたなら話は別だけど。

 そう思いつつ、俺は一応ギルドへと向かった。

 受付の人に宿屋にいると伝えてはいるが、ソウラがそのまま帰ってくるとは限らないからな。

 もしかすると他の冒険者と一緒になって酒を飲んでいるかもしれない。

 俺とナナが必死に戦った後だが、ソウラならやりかねない。アカネが一緒でも。




「あっ、マサト様、報酬を受け取りに来たんですね」


 ギルドに入った俺に受付の人はそう言った。

 確か報酬は色々手続きがあるから3日後と言っていた気がするが、


「もう国から報酬が貰えるのか?」


「えっ? そうではなくて、グレムウルフを捕獲した報酬ですよ。一応、まだ捕獲クエストの期間ですから」


「…………」


 数秒、頭がフリーズした。

 グレムウルフを捕獲などしていない。確かにナナの魔法で倒したグレムウルフは原形を保ってはいたから捕獲することは出来ただろうが、あの時はそんな暇はなかったし、何より捕獲ロープを今、俺は持っていない。

 今日はナナ達3人だけで捕獲に向かったから。


「おおマサト、帰ってきてたのか!」


 考えているとソウラの声がした。

 振り返ってみるとそこには、ソウラとアカネが手をつないで立っている。

 2人は仲良さげに俺の方へと向かってくる。


「まさか二人であの数に勝ってしまうとは、さすがだな!」


「いや、正確にはナナ一人で勝ったようなもんだけど……」


 俺が倒したのは多分、10匹ぐらいだ。さすがといえることではない。

 4回も死んで生き返って、それでもたった10匹ほど、恥じはしても誇れるものではない。


「それはそうと受付の人よ、グレムウルフはいくらぐらいだ?」


 ソウラはさも当然のように受付の人に聞く。

 それに対して受付の人もいつも通りの営業スマイルで答える。


「全部で100万Gです」


 聞きなれない桁数を聞いた気がする。

 今、100万って言ったか? というか何でソウラがグレムウルフの値段を聞いて……

 そこまで考えた時点で、全てわかった。

 ソウラとアカネは、俺がナナが目覚めるのを待っている間、俺たちが、というよりもナナが倒したグレムウルフを捕獲しに行ったのだ。

 グレムウルフは約3000体もいた。そのすべてを捕獲したなら、死体でも100万はあるかもしれない。


「ていうか3000体も捕獲して平気か? さすがに保存できないんじゃないか?」


「ええ、ですからグレムウルフは無料で提供しようかと」


 無料か、それなら3000体もあるグレムウルフをさばき切れるかもしれない。この街にはホームレスとかもいるみたいだし、むしろ3000じゃ少ないかと思うぐらいだな。


「これでギルドのイメージが上がって依頼が増えて、黒字が増えて、私の給料も増える。フフフフ」


 神の使いが随分と俗な発言をするもんだ。

 神と連絡を取って、天界に戻りたいんじゃないのか? もうこの世界に完全に染まりつつあるが。


「それよりマサト、ナナはどうした?」


「宿屋で休んでるよ。大変だったからな」


「そうか」


 それにしても、100万か。これにさらに国からの報酬もあるのだから、普通の生活を送るだけなら、危険を冒す必要は全くないな。

 クエストを受ける意味が全くなくなってしまった。

 世界を救うってのも、明確にどうすればいいかもわからないし、これから何をすればいいか。


「ここに、マサトという者はいるか?」


 俺がこれからのことを考えていると、ギルドの入り口から屈強な体をした大男と、紫色のローブを羽織った怪しげな雰囲気を醸し出している女がいる。

 2人がキョロキョロと辺りを見回し、俺を見つけると、俺の方へと歩み始める。

 女性の方は、俺を見るや否や何とも言えない表情をしている。

 そいつらは以前、一度だけあったことのある二人組だ。忘れたくても忘れられない。

 あの女は、人の指をペロペロした気持ち悪い奴だ。


「先程ぶりだな」


 大男は俺たちに対して手を伸ばそうとする女の手を制しながら、話しかける。


「貴殿がグレムウルフを倒した者、間違いないか?」


「間違いです」


 俺は即答し、大男は困惑する。

 だが事実だ。

 グレムウルフを倒したのは俺ではなくナナ、その手柄を俺のものにするほど俺はクズじゃない。


「き、貴殿が討伐に向かい、グレムウルフは1匹も残らずに息絶えていたと聞いたが……」


「グレムウルフを倒したのはナナだ。俺は何もしちゃいない」


 大男は当てが外れたからか、言葉に詰まる。

 大男が動揺し力が緩んだのか、女は制止を振り切り、アカネに手を伸ばす。

 匂いの大元がアカネだということに気づいたらしい。

 俺はアカネに触れようとする手を掴む。


「うちの子に、触らないでもらおうか」


「いいじゃなぁい。ちょっとぐらい。ね」


「ね、じゃない。離れろ」


 女は渋々手を戻す。


「それで、俺に用はなくなったろ。さっさと帰れ」


 俺はシッシッと手を振り2人を追い返そうとする。

 だが、2人とも出ていく気配がない。


「そのナナという者は、貴殿の仲間か?」


「ああ、そうだけど」


「なら、よいか。話がある。時間はあるか?」


「ありません。そういうことで」


 俺はソウラとアカネを連れ、ギルドを出ようとする。

 だが、大男が俺の肩に手を置き、それを止める。

 構わずギルドを出ようとするが、身動き一つとれない。相当の力を持っているようだ。


「そういうな。少しの間だけだ」


 この男、話をするまで帰るつもりがないな。

 まためんどくさいことになりそうだ。


「少しだけだぞ」


 俺がそういうと、男は嬉しそうに話し始める。


「では話の前に自己紹介といくか。私はフルカス。こいつはラウムだ」


「ラウムよぉ、お近づきのしるしにその子に……イタッ!」


 ラウムが自己紹介のついでにアカネに手を伸ばそうとするも、フルカスに頭を叩かれる。


「本題に入らせてもらおう。私たちは今、仲間を集めている。その仲間に、是非加わってもらえないだろうか?」


「2人で頑張ってください」


 フルカスは俺のあまりにも早い返答に絶句する。

 だが俺は忘れていない、こいつらがグラシャ=ラボラスの関係者だということを。

 こいつらの仲間になるというのは、十中八九ものすごく強い敵と戦うということになる。

 そんなのごめんだ。やっと安定した生活が送れるというのに。


「おいマサト、せめて詳しく話を聞いてから答えてやったらどうだ」


 ソウラに言われたところで話を聞く気はない。ナナだったら話は別だっただろうけどな。

 俺は無視してギルドを出ようとする。

 だがそんな俺にアカネが、


「お父さん、あのひと、すこしかわいそう」


 フルカスを見てみると、驚くほどわかりやすく落ち込んでいる。

 この落ち込みようは、俺が原因とはいえ少し同情するな。

 アカネが可哀想って言ってることだし、少しくらい話を聞くか。


「どうして仲間が必要なんだ?」


 俺がそう聞くと、フルカスの表情がぱあっと明るくなる。

 この男、かなりわかりやすい性格してるな。


「うむ、先程この馬鹿が口を滑らしたからすでに知っていると思うが、私たちはグラシャ=ラボラス様に仕えていた、モンスターだ」


 薄々分かっていたことだが、改めて口に出されると衝撃的な話だ。

 見た目は少し大きいが完全に人間、普通の人はモンスターなどとは思いもよらないだろう。


「いきなり言っても信じがたいのは分かる。だが、この場で正体を明かすことは出来んので信じてもらうしかない」


「別に、信じてもいいけど……」


 こいつの言っていることが本当かどうかは別にどうでもいい。

 アカネが言うからこいつの話を聞いてるだけで、仲間になる気なんて毛頭ないからな。

 だがフルカスは、俺の言葉を好意的に受け取ったのか、


「おお、信じてくれるのか!?」


 意外そうに、嬉しそうに言う。

 この男もまた、レイトのように真っすぐで純情な男なのだろう。

 モンスターだけど。


「信じる信じないはともかく、早く話せ」


「うむ。実はグラシャ=ラボラス様に仕えていたモンスターは、主を失った後、様々な派閥に分かれたのだ」


 神の無計画性により生み出された派閥か。どうせろくなものではないんだろう。


「一つの派閥は、これが大多数を占めるのだが、それぞれの縄張りを求め、各地域で独立したものだ」


 まあ。それは俺も知っている。

 というかそれがすべてだと思っていた。モンスターにも派閥があるなんてふつう思うか?

 思わねえよ。

 今まで会ってきたモンスターに知性があるようには……例外だがレッドドラゴンぐらいしか見たことなかったんだから。


「これは自由を求めた結果、そこは問題ない」


 人間(おれたち)にとっては大問題だがな。


「問題は他の派閥だ。他の派閥は、色々あるが、分かりやすく言うと過激派と穏健派だ。無論、私たちは穏健派、安心していい」


 フルカスは穏健派、それは今までの会話から納得できる。

 だが、この女が穏健派とは到底思えない。

 俺はラウムに懐疑の目を向ける。

 それに気づいたフルカスが、


「こいつは穏健派というより、グラシャ=ラボラス様派だ」


「それ、過激派じゃね?」


「それはちがう!」


 男はカッと目を見開き、怒鳴るように言う。


「グラシャ=ラボラス様は平和を望んでいた。誰よりもだ! モンスターの支配者でありながら、人間との共存を望んだ、偉大なるお方なのだ!」


 フルカスの気迫に、俺は押しつぶされそうになった。

 こいつの言っていることは、この感情の表し方で分かる。本当のことだ。

 嘘を見抜くスキルを持たない俺でも、それぐらいは分かる。

 だが同時に、グラシャ=ラボラスが平和を望んでいたということが信じられない。


「貴様に教えてやろう。我が主、グラシャ=ラボラス様の偉大さを!」


 フルカスがそう言い、グラシャ=ラボラスのことを話し始めた。

 てか、俺の呼び方が貴殿から貴様になっている、本気で怒ってるのかな?


「あの日々を、今でも思い出せる。グラシャ=ラボラス様は……」


 そこから、フルカスの昔話が始まった。


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