表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クリア済みゲームを今度はリアルで救う  作者: エスト
第二章 クエスト生活
40/115

第40話 「スキル持ち」

 ギルドに戻ると、俺の予想に反してそれなりの数の冒険者がいた。

 しかも、まだ10時ぐらいだというのに宴会みたいな雰囲気だ。

 こいつら、ダメ人間だな。


「あっ、マサト君。待っていたよ」


 酒を飲んでいる冒険者な中からレイトが出てくる。レイトの顔は他の冒険者とは違っていたって平常だ。宴会に参加していても、酒は飲んでいないんだろう。


「今日は一人なんだ。珍しいね」


「色々と事情があってな。あいつらは俺を置いて捕獲の最中だ」


「そうか。君はあのサイドレオーネと一戦交えたんだからね。休息も必要か」


 レイトは勝手に理解してくれた。

 まあ、余計な説明が省けてよかった。


「じゃあ早速、説明してもらえるかな?」


 レイトは興味津々と言った表情で聞いてくる。

 他の冒険者は俺のことなんか眼中にないようで、見向きもしない。

 それはそれで助かるが、誰も興味持ってくれないとなると、少し寂しい。


「説明つっても、俺がサイドレオーネに殺されて、神に生き返らされたってことで、話は終わりだ」


「そうか、神様か。そうじゃないかと思ってたんだよ。はっきり言って君のレベルじゃサイドレオーネから逃げることもできないだろうから、絶対に神様が関係していると思ってたんだよ」


 絶対にか、レイトの言う通りだが、なんかモヤモヤすんな。

 すぐに納得してくれて大助かりだが、複雑なことこの上ない。


「それじゃあ君も宴会に入りなよ」


「いや、俺はやめとく。てか、これ何の宴会なんだ?」


 いくら捕獲クエストで金を稼いだからといても、まだあと二日もあるのに宴会なんて気が早すぎる。

 こんなんじゃすぐに金が無くなるぞ。


「それが昨日、大量にモンスターを捕獲したパーティがあってね。腐る前に食べなきゃいけないから、激安で提供してるんだって。それで、肉だけだといくら安くてもあまり売れないから、ついでにお酒も期間限定で安くなってるんだ」


 大量に捕獲したパーティ? まさか俺たちじゃないよな。

 ていうか腐る前にって、そんなに簡単に腐るのか。だったら捕獲の量に規制でも…………あ、そのための生け捕りか。

 昨日は生け捕りの度にテンションが上がっていたが、殺した方が得かもしれないな。


「それじゃあ明日もこの宴会は続くな。これは、大儲けのチャンス」


 捕獲のライバルがいない、これは俺たちにとってかなりのチャンスだ。

 昨日は他の冒険者パーティの所にドラコキッドが行ってしまって、獲物を取られることがままあった。

 それがないってことは、昨日よりも楽に捕獲ができるってことだ。

 これは俺にも運が回ってきたぜ。ハーッハッハッハッハ!


「……マサト君、すごく悪い笑顔になってるね」


 おっと、顔に出てたか。


「俺はナナ達が帰ってきてから遊ぶ。それまで暇つぶししてるから、お前は戻っていいぞ」


 というか、俺は酒なんか飲んだことがないから、あの宴会に混ざりたいとも思わん。

 興味がないかと言われたら、多少興味はある。だけど無駄遣いしてまで飲みたいとも思わない。

 いくら安くなっていたとしても、魔力水を買った方が何倍もマシだ。


 俺は宴会している冒険者たちをよそに、ギルド内の武器屋や道具屋を物色する。

 だが、店の中に誰もいない。店主もだ。

 よく見てみると、店主たちも宴会に混ざっている。

 今日は、ここはギルドとして機能してないんじゃないか?


 俺は呆れながら店の物を見ていると、ギルドのドアが開かれ、少し汚れた格好の子供たちが入ってくる。

 さっきの子供たちだ。

 神からカードをもらい、早速冒険者にでもなりに来たのだろう。

 その入ってくる子供たちを見て、酒を飲んでいる冒険者が子供たちに絡む。


「おい坊主、ここは子供の来るとこじゃねえぞ」


 冒険者は顔が真っ赤で、完璧に出来上がっている。

 この時間からそんなになるまで飲むなよと突っ込みたいが、無視しとこう。

 他の冒険者も似たようなものだし。


「俺たちは冒険者になりに来たんだ」


 子供たちのリーダーらしき少年は満面の笑顔で答える。

 カードを手にしたことで舞い上がっているのだろう。


「ハッハッハ! お前らみてえなガキが冒険者? 笑わせんなよ」


 ギルド中に笑いが響き渡る。

 レイトや一部の冒険者を除き、ほとんどが腹を抱え笑っている。


「何がおかしんだよ!」


 少年はムッとした表情で冒険者たちを見る。

 少年の後ろにいる子供たちは、少し震えているように見える。


「お前らみたいなガキがモンスターと戦えるのか? 無理だろ」


「なんだよ! 俺は知ってるぞ。ここいらで有名になった奴のパーティに、子供がいるってことを!」


 おそらくアカネのことを言っているのだろう。

 どうしようか、あいつらにカードをあげることを頼んだのは俺だが、まさか冒険者になりに来るとは、てっきりまともに働くんじゃないかと思っていたが、やはり普通の職種では働けないのか。

 だからって冒険者はまずいな。

 アカネは子供だが、特別なんだ。

 お前らとじゃ月とスッポン、巨象と蟻ぐらいの差がある。


「お前ら馬鹿か? その子供ってのは、お前らと違って特別なんだよ」


 冒険者も酔っぱらってるとはいえ、そこら辺のことは分かっているようだ。

 そう、うちの娘は8歳にして誰よりも強く、誰よりも可愛い。

 どこに出しても恥ずかしくない、まさに完璧の娘なのだ!

 …………俺、親バカかな。


「うっせえ! 絶対に冒険者になるんだ!」


 少年は冒険者に向かって足を振るう


「イッテー!」


 少年のつま先が冒険者の向う脛にクリーンヒットした。

 あれは痛い。

 冒険者は足を押さえ悶えている。

 

「ねえ、あの人……」


 子供たちの中の一人が、俺の方を指さし、少年に教える。

 だが少年はそれを無視し、受付に向かう。


「さっきも言ったろ! あんな冴えない奴に俺たちのカードを用意することなんて無理だって!」


「で、でも……」


 子供たちの話が聞こえ、俺はピンと来た。

 あの子供たちの中には、突然自分たちの所に舞い降りたカードが、俺が用意したものだと思ってるんだ。

 状況的に考えてみても、なにもおかしくはない。むしろそう考えるのが自然だ。

 だが、少年はそんなことはないと思っているようだ。


「あれはきっと神かなんかだ。可哀想な俺たちに恵んでくれたんだよ」


 正解!

 俺は心の中で感心する。

 他の子どもたちは、それこそありえないといった表情をしているが、あの少年の言ったことが正しい。

 あのカードは文字通り神の恵みだ。俺の口車に乗せられたとも言えるけど。


「でも、私あの人に聞いてくる」


「おっ、おいよせよ」


 少年の制止を無視し、一人の子供が俺のとこに駆け寄ってくる。


「あ、あの」


 尋ねてきた子供の顔を見ると、中々に整った顔立ちをしている。

 年齢は10くらいの、少し幼い感じの少女だ。

 髪は生活の所為か少しボサボサだが、綺麗にすれば10人中9人は振り向くであろう顔だ。

 あと8年もすれば、俺のストライクゾーンに入るだろう。

 まあ、アカネの方が可愛いがな。


「このカード、お兄ちゃんがくれたの?」


 少女はカードを見せ聞いてくる。

 俺は、数秒考えた後、口を開く。


「知らないな」


 俺は適当にあしらうことに決めた。

 本当のこと言って信じてくれる保障はないし、なによりあの少年がうるさそうだ。

 この子には悪いが、嘘をつこう。

 そう思った俺だが、


「やっぱりお兄ちゃんだったんだね! ありがとう!」


 少女は満面の笑顔で礼を言う。

 一瞬、俺は何が何だか分からなくなった。


「ちょ、ちょっと待て! 俺は知らないって言ったろ」


 俺、知らないって言ったよな。

 それなのにこの子は俺に感謝を……わけわかんねえ。

 

 必死に頭を働かせ考える俺に、少女は言いづらそうにしゃべる。


「あの、私、こんなこと言うと変かもだけど、嘘が分かるの」


 嘘が?

 そりゃあ今俺は嘘をついた。

 だけどそれが分かるだと、何を言って……まさか!?


「ちょっとカードを見せてくれるか?」


「うん、いいよ」


 少女はカードを俺に渡す。

 そのカードには、こう書いてある。


「スキル、トゥルーサーチ」


 この子のステータスは初めてこの世界に来たときの俺よりも少し低いが、スキルを持っていた。

 名前から考えると、本当のことを言っているかどうか分かる、嘘発見器ということか。


「マサト君、ちょっといいかい?」


 冒険者と一緒に宴会をしていたレイトが話しかけてくる。

 レイトの表情が、ほんの少し真剣味を帯びている。


「どうしたレイト?」


「話が聞こえたんだけど、その子、嘘が分かるって」


「ああ、そうらしい。多分スキルだ」


 俺はレイトにカードを渡して見せる。

 すると、少女は一気に不安そうな表情になる。

 カードをくれた俺はいいが、見ず知らずのレイトにカードを渡すのは、少し不安なんだろう。


「なるほど」


 何かを納得したような声をあげ、カードを少女に返すレイト。

 少女はまだ不安そうな顔をしている。

 無理もない、自分の情報を見られて、真剣な顔をしているのだから。

 だがレイトは、真剣な表情から瞬時にいつもの笑顔に戻る。


「すごいねこのスキル。嘘が分かるなんて、神具と同じ力を持ってるんだよ」


「神具?」


「知らないのかい? 裁判とか取り調べで使う神具だよ」


 そんな便利アイテムがあるのか。嘘が分かるのなら、裁判なんてすげえ円滑に進むんだろうな。

 そんでその力をこの子は持ってる。

 正直、冒険者以外に向いている職が結構あると思うがな。


「あの、何か変だったの?」


「全然、むしろすごい」


 俺は思ったことを素直に言ったことだが、少女はとてもうれしそうにする。

 そうか、嘘が分かるから、俺の言ってることがお世辞とかじゃなくて、本当のことだと分かるのか。


「あの、お兄ちゃん、本当にありがとう」


 少女は再び俺に礼を言い、子供たちの群れへと戻っていく。

 少年は不満そうな顔をしていたが、一緒に受付に向かう。


「あの子の前じゃ、うかつなことは言えないな」


「そう思うのはやましいことがあると思っているからかな」


 そういうレイトは、やましいことなんかないんだろうな。こいつは素で良い奴だ。そもそも嘘をつくことなんかないだろう。

 俺なんかと違って。


「ていうか嘘が分かるスキルってなんだよ。普通スキルってのは、身体能力強化とかじゃないのか」


「そういうものが大半だけど、スキルは基本的には何でもありだからね。覚えているかい? イーバの洗脳もスキルなんだよ」


 そうだったのか、てっきり魔法の一種だと思った。

 スキルには無限の可能性があるってことだな、俺にも何かスキルがあればいいな。


「なんでだよ! いいじゃねえか!」


 受付の方から少年の声が聞こえた。

 あの少年は、何かあったら叫ばないと気が済まないのか。

 ちょっと、ライに似てるかもな。


「申し訳ありませんが、捕獲クエストの期間は加入クエストは受けることができないんです」


 受付の人は相手が子供にも関わらずに、いつもと変わらない態度で接している。


「いいからやらせろよ! なあ、頼むよ!」


 少年は必死に懇願するが、受付の人は困った顔で、それを拒否する。

 捕獲クエストの時は加入クエストができないのか。

 考えてみれば、今から冒険者になろうって奴に、モンスターが大量発生してるこの時期は危険だな。


「なあ君たち、あまり彼女を困らせるのは良くないな」


 レイトがいつの間にか俺の隣から離れ、子供たちに話しかける。

 ほっとけばいいものを、と、この状況を作り出した元凶の俺は呆れる。

 

「お前には関係ないだろ!」


 少年の言うことはもっともだ。

 というか、俺には関係あるかな? ないな。カードをあげるように頼んだだけだし。


「そんなことはない。君たちはいずれ冒険者になる仲間だ」


 レイトの奴、初めて会う子供たちに、仲間だと。

 臆面もなくよくそんな事が言えるものだ。俺には絶対に無理だ。

 

「仲間だっつんなら、あんたも説得してくれよ!」


「い、いや、だから今ギルドに入るのは危険だから、仲間として忠告に来たんだよ」


「大きなお世話だ!」


 少年とレイトの口論は続く。口論と言うよりも。少年が一方的に喚き散らし、それをレイトが宥めるだけだが。

 その光景を、俺はつまらなそうに眺めていたが、子供たちは不安な面持ちで見ている。

 何気なく子供たちの方に目をやると、先程の少女と目が合った。

 少女は、縋るような目で俺を見つめる。

 そんな目で見ないでくれ、そう思いつつ目を逸らそうとするが、少女の目を見るとそれが出来ない。

 自分のことを良い奴だとは思えないが、少女を無下にすることは出来ないらしい。

 俺は仕方なく少年とレイトに割って入る。


「おいお前ら、ちょっと落ち着け」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ