第4話 「死亡フラグはつい言ってしまう」
「やっと見つけたな」
俺たちが町の外に出てドラコキッドに会うまでにかかった時間約2時間。もう夕方になっている。
「本当に申し訳ありません!」
ナナが深々と頭を下げ俺に謝罪をする。
あって数時間しか経っていないというのに、すでにナナの謝罪姿が見慣れたものになりつつあるのはいかがなものなのか。
「気にすんなよ。どうせ俺も場所なんて知らなかったからこれくらい時間かかっただろうからさ」
本当は町の構造はゲームと大差なかったからある程度把握していたけど、それはナナには言わない方がいいだろうな。
これ以上落ち込まれてもめんどくさいし。
「それに今は落ち込んでる場合じゃないぞ。なんたって初めての戦闘なんだ。気を引き締めていくぞ」
俺たちの目の前には黄色い体の小さなドラゴンが1匹いる。
モンスターの見た目はゲームと同じだが弱点はどうか……。
多少不安もあるが、初の戦闘にワクワクしている自分もいる。
「ナナ、こいつの弱点はゲームと同じか分かるか?」
「すいません、モンスターの設定は担当していなかったので何とも言えません。ですが一番最初の方はあまり凝ったものにしようという話はなかったのでゲームと同じだと思いますよ」
それならなんとかなるかな、とりあえず試してみるか。ドラコキッドは確かシンプルに頭が弱点だったはず……。
俺はドラコキッドの頭めがけてナイフを振りかぶった。しかし、
「くそっ、ちょこまかと動きやがって」
当たらない。全く当たらない。かすりもしない。俺の攻撃のことごとくは空を切る。
ドラコキッドってこんなにすばしっこかったか?
「チクショー! 当たれ! 当たりやがれ!」
俺はもう弱点など関係なくただ当てるためだけにナイフを振る。そして……。
パキン
ナイフはドラコキッドの尻尾に当たり2つに割れた。
「はああああああああ!? 嘘だろ、壊れやがった!」
ナイフが壊れパニックに陥った俺にドラコキッドは容赦なく火を噴いてくる。
「アチッ、アチチチ」
くそっ忘れてた。ドラコキッドって火を噴くんだった。アッチー、手がやけどしちまったよ。
見かねたナナが俺の手に手をかざし魔法をかける。
「ヒール」
俺の手が光に包まれると手のやけどが見る見るうちに治っていく。
「おお、ありがとうナナ。よっしゃ、おかげでまだまだ戦えるぜ!」
俺はナナに回復してもらい、折れて短くなったナイフを構え再びドラコキッドに立ち向かう。
落ち着けー、落ち着けば当たるはずだ。折れたナイフとはいえ、まともに当たればダメージにはなるはずだ。
よーく狙いを澄まして……。
俺は飛び回るドラコキッドをじっと見定め攻撃の機会をうかがう。
………そこだっ!
「ピキャッ!」
ナイフの柄の部分がドラコキッドの頭に直撃する。
「ピ、ピキャアァァ」
ドラコキッドが弱弱しく鳴き地面に落ちる。
「やったか?」
やべー、ついうっかり死亡フラグを言っちまった。大丈夫か、大丈夫だよな。リアルの世界に死亡フラグなんてお約束、存在しないよな?
俺がそんな事を考えていると、地面に伏していたドラコキッドが突然小さな羽を羽ばたかせ俺ではなくナナに直進する。
「ナナ、逃げろ!」
ナナは向かってくるドラコキッドに背を向けずに盾を向ける。そしてドラコキッドはその盾めがけ最後の力を振り絞ったのか、先程までよりも速度を上げ自身の弱点である頭を向け突進してくる。
やけくそか、自分の弱点を思いっきり相手に向けるなんて。でもあんな速度で激突すればいくらやわいドラコキッドの頭でもかなりの衝撃が……
そしてドラコキッドの頭はナナの持つ可愛らしい盾にど真ん中に激突した。そして、
『にゃーん』
………ん? 今のあの盾から鳴ったよな。へぇー、あの盾にこんな仕掛けがあったのか……ってそれよりもナナは?
「キュウゥゥ」
盾に激突したドラコキッドは先程以上に弱弱しい声をあげ地面に落ちた。
「今度こそ……やったか?」
死亡フラグって無意識に言っちまうもんなんだな。
俺とナナがおそるおそる近づいてみるとドラコキッドはピクリとも動かない。
……本当に死んだよな?
「そうだ! カードの裏を見れば討伐できたか確認できるはず」
俺は慌ててカードを確認してみる。
『ギルド加入クエスト
ドラコキッドの討伐 1/10
残り日数 7日』
と書かれていた。
「やった……やったぞナナ! 倒せたみたいだぞ!」
俺は初めての討伐に大はしゃぎする。結果的にとどめはドラコキッドの自滅みたいだったけど、それでも俺は感極まる。
「やりましたね、マサトさん。この調子でどんどん行きましょう!」
ナナも喜んでるみたいだ。 よーし、今日中にあと2体は倒してやる。
……十数分後
俺たちはドラコキッドを探し街周辺を歩き回っていた。
「いねえな、ドラコキッド」
「いませんね、ドラコキッド」
全く見当たらない。ドラコキッドどころか他のモンスターも全く見当たらない。
おかしいな、ゲームだと確かドラコキッドなんてわんさか出るはずなのに、もうそろそろ夜だぞ…………ん、夜? 何か大事なことを忘れているような……。
「しまったー! 帰るぞナナ、ここは危険だ!」
「えっ? でもまだ1体しか倒してませんし、それに危険って……ここにはドラコキッドかそれと同じぐらいのモンスターしか出ませんよ」
「それは夕方までの話だ! 夜は昼よりも多少強いモンスターが出てくるんだ。ドラコキッドなんかにてこずってた俺らなんかすぐ殺されるぞ!」
くそっ、なんで気が付かなかった。モンスターが出てこなかったのはモンスターが巣に帰っていったからだ。きっとあのドラコキッドは巣に帰るところを偶然ナナの方向音痴と相まって遭遇しただけなんだ。
なんて運が悪いんだ俺は。
「ナナ、今何時か分かるか?」
ゲームだとたしか6時からモンスターが入れ替わっていたな。
ナナは慌ててどこからか時計を取り出す。
が、今は時計の出所なんか気にしている場合ではない。
「今は、6時ちょっと前です」
「走るぞー!」
俺とナナは全速力で駆け抜け街まで戻る。
頼むぞモンスター達、まだ出ないでくれ。
「くそっ、俺としたことがこんな凡ミスするなんて」
町まであと少し、それまでに出ないでく————
「グルアアアアア」
い、今のもしかしてモンスターの声?
俺は足を止め恐る恐る声のした方を向くと、そこには俺よりも大きい体長2mほどのドラゴンがいた。
「マジでか、あれってモンキラの序盤のボスのダルトドラゴンじゃねぇか。なんでこんなところに……ナナ、まだ走れるか?」
俺がナナの方を見るとナナはかなりきつそうだ。
「大丈夫です。町までなら何とかもちます」
俺とナナはそこから何も言葉を発さずただひたすらに町まで走っていく。
それはもう必死に、一心不乱に、前の世界でもここまで全力で走ったことはないだろうというほどに、一生懸命に走った。
そしてなんとかモンスターに襲われることなく町にたどり着くことが出来た。
「ハァッ、ハァッ……何とか戻ってこれたな」
「はい……明日からは……気を付けましょう……ハァッ、ハァッ」
二度とこんな経験したくないがある程度の情報は得た。とりあえずモンスターはおそらく5時から6時までは出現しないだろうことと、俺たちがまだ駆け出しだとしても生息地に踏み込めば容赦なくボス級のモンスターが現れるってことが分かった。これだけわかればドラコキッドの弱点もゲームと同じみたいだしギルドに入るのは苦労しなさそうだ。
「ナナ、今日はもう遅いし宿屋に行こうか」
「はい、宿屋なら町の入り口近くにあるのですぐ見つかるはずです……その、見つけて……きて……ください」
ナナは最後の方はとても言いにくそうだった。
ナナには悪いけど分かってくれて何よりだ。これ以上余計な労力を使いたくはないからな。