第38話 「一人」
朝、目を覚ますとソウラとナナがベッドから転げ落ちていた、
この現象は一人用のベッドに4人も詰め込んだから当然と言えば当然だが、いざ目の当たりにすると、少し笑えるな。
それに引き換えアカネは、熟睡しているのにも関わらずに俺に抱き着いている。
「嬉しいけど、うかつに動けないな」
時刻はまだ6時、まだ起きるのには少し早い。
もう少しこの状態でいるか。
それにしても、俺は昨日1回死んだんだよな。
全然実感がない。
死んだから生き返ってやり直しって、まるっきりゲームのコンティニューだな。
「ここがリアルの世界ってこと、忘れそうになるな」
この世界は俺が一度クリアしたゲームの世界、だけどゲームではない。
ステータスは存在して、モンスターを倒すとレベルアップする、ここだけ見ればゲームだが、ゲームと違って俺は、俺たちは実際に生きている。
痛みを感じるし、感情だってある。
昨日はそのことを痛感させられた。
「うーん、あれ、ここどこ?」
目を覚ましたナナが辺りを見回す。
地べたで寝ていたせいか、痛そうにしている。
「おはよう、ナナ」
「あっ、マサトさん。おはようございます」
ナナが寝ぼけ眼でベッドの上の俺を見上げる。
そして数秒後、徐々に覚醒したナナが自身の状況に気づき、立ち上がる。
「あ、あれ? 何で私こんなところで」
「一人用のベッドに詰め込んだんだ。そりゃこうなるよ」
「そ、そうですよね、よく見たらソウラさんも落ちてますね」
心なしかナナの顔が少し赤らんで見える。
ベッドから落ちるなんて寝相が悪いイメージがあるからな。
今回は特別だけど。
「お父さん、おはよう」
アカネが目を覚ました。
少し騒ぎ過ぎたな。
「おはようアカネ」
アカネはまだ6時だというのにスッキリした顔をしている。
昨日寝た時間を考えれば考えられなくもないが、そう考えるとソウラの奴がまだ起きないってのがな。
「……アカネ?」
目を覚ましたというのにアカネはまだ俺に抱き着いている。
そして、俺の顔をまじまじと見つめる。
「お父さん、いきてるよね?」
「は? ああそうか、そういうことか。ちゃんと生きてるぞ」
あんな化け物に襲われたからな、昨日俺がちゃんと戻ってきたことを夢か何かじゃないかと思ったんだな。
その気持ちも分からなくはない。なんたってあの化け物相手に無傷で帰還だもんな。
「じゃあマサトさん、昨日何があったか教えてください」
「いいけど、ソウラが起きてからな。いちいち同じこと言いたくないし」
「そうですね、ソウラさん、起きてください。ソウラさん!」
ナナが床に寝そべっているソウラを起こしにかかる。
最初は揺らすだけだったが、なかなか起きないので次第に頭まで叩き始める。
ソウラは頭を数回叩かれ、目を覚ます。
「ん、何だ、もう朝か」
頭を支えながら起き上がるソウラ。
さっきのナナと同じように体を痛そうにしている。
「ツツ、床に落ちてしまっていたか、頭でも打ったかな」
ソウラは体よりも頭を痛そうにしている。
その光景にナナは知らぬふりをしている。
「おおマサト、昨日のは夢ではなかったのだな!」
ソウラは寝起きだというのにいつもと変わらないテンションで接してくる。
「ソウラさんも起きたことですし、説明お願いします」
「あ、ああ。でもその前に、この格好をどうにかしないか?」
俺たちは昨日、この部屋についてからすぐに寝た。着替えもせず、シャワーも浴びず、なかなかに汚い。
俺は神に生き返らされた時に体がリセットされたから多少マシだが、ナナ達は結構汚い。
それにしてもナナって意外な一面があるよな、人を起こすときに普通頭叩くか? しかも床に寝そべってる人の頭を。
「そうですね。確かにちょっと、汚いですね。それじゃあアカネちゃん、シャワー浴びましょうか。ソウラさんは後でいいですか?」
「ああ、構わない」
ナナがアカネを連れてシャワー室まで行く。
この宿屋は窓がひび割れ壁も小さな穴がたくさん開いていて、夜は隙間風が冷たいが、何故か一部屋に一つシャワー室がある。
大人一人分ぐらいの大きさだが、結構助かっている。
「それじゃあ、説明してください」
シャワーを浴び終え着替えたたナナ達が、ベッドに腰掛け俺を見てくる。
綺麗になったナナ達を改めて目の前にすると、こいつらかなりレベルが高いな。
「昨日お前たちを逃がすために残ったわけだけどな、結果的には一応死んだんだ」
「何を言っているんだマサト、今ここにこうして生きているではないか」
ソウラは何をバカなことを、と言う風な顔をしている。
何かバカにされているみたいでむかつくな。
「いいから聞け。俺は一回死んだ。そんで神に生き返らされた。以上だ」
「えっ、神様に? というかもう話は終わりですか?」
ナナは、というかソウラもアカネも理解が追い付いていないようだ。
少し適当に言い過ぎたな。
「俺はな、サイドレオーネに顔を潰されて死んだ。そんでその後リトルリオンの食糧になった」
「しょ、食糧ですか……」
ナナはその光景を想像したのか、少し気分が悪そうだ。
だけど俺なんかその光景を液晶テレビで見せられたんだ。
ぐちゃぐちゃになった自分の顔と、少しずつ無くなっていく自分の体、思い出しただけでも気分が悪い。
これはもうトラウマだよ。
「死んだ俺は神のいるところへと送られた。そんでいろいろ話した後、生き返らされたんだ」
「なるほど、そういうことだったんですね。あの神様にしては、グッジョブです」
さすがにナナは理解が早いな。
それにしても、グッジョブねえ。死んだ人を生き返らしてくれたからナナ達は嬉しいだろうさ。
だけど俺は、死ぬまでどころか死んでもこき使われるってことだからな、しかもレベルも1に戻されたし。
「よくわからんが、あの神がなんやかんやしてくれたのだな」
適当な理解の仕方だが、色々質問されるよりはましだ。
「ああ、あとこんなことになったから」
俺はカードのレベルとステータスの欄を見せる。
「なんですか……ってこれ、なんですか!?」
なんですかもニュアンスが違うだけで意味が変わってくるんだな。
一つ勉強になりました。
「生き返らせてもらうときに神の野郎をぶん殴ってやったんだ。そしたらこうなった」
「まったくもう、あの神様は。子供じゃないんですから」
ナナは神の行いに手を眉間に置き呆れている。
俺が神を殴ったことは子供の行いじゃないようだ。
「てことで、早速レベル上げに行きたいんだけど」
「ダメです」
俺の提案にナナは一瞬の間を置かずに反対した。
「あの、なんで?」
「今モンスターが大量発生してるんですよ。レベル1の状態でレベル上げなんて、危険です」
そうだった、今は大量発生してるんだった。それじゃあ確かに危険だな。
今の俺は正直ドラコキッドにも苦戦しそうだし。
「じゃあ、せっかくの捕獲クエストだけど、見送りか」
昨日だけで37000G、午後の分もあるから60000は超えるぐらい稼げたから残念だが、仕方ない。
俺はもう完璧に諦めていた。だがソウラがそうは思っていなかった。
「ならマサトを残して、私たちだけでやらないか?」
ソウラのこの意見は、結構いい。
同じパーティのこいつらがモンスターを倒せば俺にも経験値が入る。しかも金も稼げる。一石二鳥だ。
だが問題はナナとアカネだ。この2人が了承してくれれば……
「いいですね! そうしましょう!」
「アカネも、それでいい」
予想に反して2人は乗り気だ。
ちょっと寂しい。
「ではマサト、捕獲ロープを出してくれ」
「あ、ああ」
俺はカードの中から捕獲ロープを出しソウラに渡す。
「ではマサトさん、今日はゆっくり休んでてください」
「アカネたちが、がんばる」
2人の考えは分かる。俺のことを思ってのことだっていうのは。ソウラは知らん。
死にたてほやほやの俺を休ませようとしてくれるその気持ちは嬉しい。
だけど、なんだろう、この気持ち。
「そんじゃ俺はギルドにでも顔出してくるから」
「ギルドに……ですか?」
「ああ、昨日のことをレイトに説明するって約束したからな」
「そういえば、そんなことを言っていたような気がするな」
本当は説明なんかしたくないがな。
レイトや受付の人はともかく、他の奴らは絶対に信じないだろう。神に生き返らされたなんて。
それでもレイトには今日説明するって言ったし……まてよ、冒険者があまりいない時間や、あいつの泊まっている宿屋に行けば、他の冒険者に説明しなくても済むな。
「ま、頑張ってきてくれ。無茶はするなよ。昨日みたいなことにならないとも限らないから、街からあまり離れるなよ。あと昼にはちゃんと帰ってきて飯食えよ。それと夜は町に戻って来いよ。3人で夜のモンスターは危険だからな。それと――――」
「ああもう分かった! 分かったから! お前は私たちの母親か」
ソウラは呆れながら俺の言葉を遮る。
そんなに小うるさかったかな?
「それでは行ってきますね」
「ああ、気を付けてな」
3人は宿屋を出て行った。
さて、俺は何をしようか。この時間にレイトのとこに行くのはさすがに迷惑だよな。
二度寝しようにも全然眠くないし。
とりあえずギルドに行くか。この時間なら冒険者もそんなにいないだろうし、何より今は捕獲クエストの時期、飯時以外に冒険者はいないだろう。うまい具合に行けば、レイトだけに説明して終わりにできる。
俺は宿屋を出て、とりあえずギルドまで行くことにした。
時刻は7時前、いつもは活気のある街も、この時間はまだ店が閉じていて、閑散としている。
一人でいることも最近じゃ珍しいことだ。それに加えてこの静けさ、新鮮だ。
真っすぐギルドまで向かった俺だが、ギルドの中にはほとんど人がいない。
ここに人が集まるのは、普通なら8時以降、まだ1時間ぐらいある。
ここで待っていてもいいが、予想以上に人がいないから、さすがに少し退屈だ。
俺は時間まで、この町を散策することにした。




