表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クリア済みゲームを今度はリアルで救う  作者: エスト
第二章 クエスト生活
36/115

第36話 「英雄」

「ハアッ、ハアッ」


 サイドレオーネから全力疾走で逃げたナナ達は、なんとか町にたどり着いた。


「に、逃げ切れたようですね」


「ああ、まさかあんなモンスターがいようとは……」


 ナナとソウラは口々に安堵の言葉を発する。

 だがアカネは、周りも見まわしたのちに疑問の声をあげる。


「あれ、お父さんは?」


 アカネの言葉を聞き振り向くナナとソウラ。

 しかし振り向いた先には誰もいない。せいぜいドラコキッドが見えるぐらいだ。


「そ、そんな……マサトさん?」


「まさか、私たちを逃がすために……囮に?」


 ソウラが言葉を発した瞬間、ナナはサイドレオーネがいた場所へ走り出そうとした。

 しかし、


「待て、どこへ行く!?」


 そのナナの手を握り引き留めるソウラ。

 ステータスならソウラの方がナナより上回っているゆえに、ナナはソウラの手を振りほどけない。


「離してください! マサトさんが……マサトさんが!」


「私たちが行って何になる!」


「じゃあ、どうするんですか!?」


「ギルドに行くぞ! 助けを呼ぶんだ! きっとヴァテックスもいる!」


 ソウラはナナを引っ張りギルドへと向かう。

 アカネは状況が理解できていないのか、ソウラについて行くしかできなかった。


 ギルドに着いたソウラは勢いよくドアを開け、レイト達を探す。

 そんなソウラを見た何も知らない冒険者たちは、ソウラたちに向かい軽口をたたく。


「おお、エストキャッツか。聞いたぞお前ら、今日かなり稼いだみたいだな。俺たちに奢ってくれよ」


 今そんな言葉にいちいち構っている余裕はない。ソウラはそんな男たちの声を無視し、声を張り上げる。


「ヴァテックスは、レイトはいないか!」


 その声はギルド中に響き渡る。

 そしてソウラが叫んでから数秒後に酒場からレイトが出てくる。


「ソウラさんじゃないか。ナナさんも。あれ、マサト君はいないのかい?」


 出てきたレイトに向かってナナは駆け寄り、涙を流しながら消え入りそうな声で懇願する。


「レイトさん、お願いします。マサトさんを……助けてください……」


 ナナのただならぬ雰囲気に、レイトの表情が一気に真剣になる。先程までの穏やかな表情からは想像も突かないほどの、殺人でも犯してしまういそうなほどの迫力がある。


「何があったんだい?」


 レイトは駆け寄ってきたナナにそう問うが、正常な判断が出来なくなっているナナの代わりにソウラが説明する。


「マサトが、森でモンスターに襲われているのだ。頼む、助けてくれ」


「分かった。すぐ行く」


 話を聞いてレイトは一瞬の思考すらしないうちにマサトを助けに行くことを決意した。

 しかし、そんなレイトをヴァテックスのメンバーの槍男が止める。


「おいおいレイト、やめとけよ。ここらへんで強いモンスターっていったらダルトドラゴンだろ。そんなもんにやられちまう奴、放っとけよ」


「ダルトドラゴンなどに逃げはしない!」


「へっ、どうだかな」


 ナナは槍男の態度を無視し、レイトに懇願し続ける。

 普段、パーティの中では一番落ち着きのある人間は、今は最も取り乱している。

 それほど、ナナにとってマサトは大きな存在になっているのだ。


「お願いします。お願いします……!」


「お主たちよ、そのモンスターとは、どんな奴じゃ」


 ただならぬ雰囲気に、ヴァテックスのメンバーである老人が立ち上がり、2人に問う。

 それに対し、ソウラは一瞬思考したのちに、こう答える。


「……見たこともないモンスターだった。だがマサトは、あのモンスターのことをサイドレオーネと呼んでいた」


 サイドレオーネという単語を出した瞬間に、ヴァテックスのメンバー全員の表情が固まった。

 ギルドにいる人間も、ヴァテックスの配下の冒険者たちもどよめきたつ。


「レイトよ、早く行ってやれ」


「ああ」


 短いやり取りをしたのち、レイトだけがギルドを出て、サイドレオーネのもとへと駆けて行った。


「レイトだけでいいのか?」


 ソウラが不安の入り混じった疑問の声をあげると、ヴァテックスのメンバー、そして配下のパーティたちが一斉に俯く。

 そして、数秒後に老人が口を開いた。


「わしたちが行っては、レイトの足手まといになってしまう」


 最強パーティのメンバーが足手まといとは、レイトはどれほど強いのか。


「アガリアレプトと戦った時も、レイト1人なら勝っていただろうが、傷ついた仲間たちをかばい、撤退を余儀なくされたのう」


 老人のその言葉を聞き、ヴァテックスの女騎士と槍男、そして配下の冒険者たちが悔しそうな顔をする。


「そう思うのなら何故、レイトとパーティを組んでいるんだ」


「わしたちの、ワガママじゃ」


「ワガママ?」


「レイトという英雄のそばにいたい。この英雄の行く末を近くで見届けたい。そんなわしたちのワガママを、レイトは聞いてくれたんじゃ」


 ヴァテックスのメンバーはレイト以外も、この世界の指折りの冒険者だ。

 その姿かたちは知らなくても、名前を知らぬ者はいない。それほどの存在だ。

 それほどの冒険者が、レイトのことを英雄と呼ぶ。

 ソウラはそのレイトがマサトを助けに行ったことに、一抹の希望を感じた。




「いたね、サイドレオーネ」


 レイトはサイドレオーネの目の前にいた。

 だが、そこにマサトの存在はなかった。

 あるのは、冒険者の血にまみれたサイドレオーネと、複数のリトルリオンだけだった。


「マサト君は……君が殺したのか?」


 レイトはサイドレオーネをにらみつける。

 サイドレオーネはレイトのその質問に答えるかのように声をあげる。


「ガルルルルルルル」


 レイトは腰にある剣を抜き、構える。

 構えられた剣は強者が持つような立派な装飾が施されているような剣とは真逆の、簡素すぎる見た目の剣だ。


「いつぶりかな……ここまで怒りを感じたのは!」


 レイトはサイドレオーネとの距離を一瞬にして詰め、剣を振りかぶった。


「ガル」


 だが、サイドレオーネはレイトの攻撃に反応し、爪でレイトの剣を受け止めた。

 さすがに単純な力ではサイドレオーネに軍配が上がるのか、剣と爪の押し合いでレイトは若干押され気味になる。


「お前を、絶対に倒す!」


 レイトは剣を片手持ちに変え、空いた手をサイドレオーネにかざす。


「フレイム!」


 レイトの手から炎が出現し、その炎がサイドレオーネの顔面を襲う。


「ガ、ガルウ」


 視界を塞がれたサイドレオーネはレイトの剣を受け止めていた爪を地面に置き、後ろへ跳ぶ。

 だが、その行動はレイトの予想の範囲内だった。

 いや、正確には予想ではなく誘導だ。


「逃がさないよ」


 後ろへ跳んだサイドレオーネと共に、レイトも地面を思いっきり蹴り前に跳ぶ。

 そしてサイドレオーネの眼球めがけて剣を突く。


「ガアアアアアア」


 サイドレオーネの目から鮮血が飛び散る。

 平静を失ったサイドレオーネは、あたりかまわずその鋭利な爪を振り回し始めた。

 だが、その攻撃はことごとく空を切る。

 レイトは息一つ乱すことなく、一発でも当たれば死んでしまうだろう攻撃を淡々と避ける。


「ハアッ!」


 サイドレオーネの攻撃を避け続けるレイトは、一太刀、二太刀とサイドレオーネに剣を浴びせる。

 見る見るうちにサイドレオーネの体は鮮血に染まっていく。


「ガル……ガアアアア!」


 サイドレオーネは威風堂々と雄たけびをあげるが、明らかに動きが鈍くなっている。

 そして、体に20を超える切り傷を刻み込まれたとき、ついにその爪は地面に置かれる。


「ガ……ガアァァァァ」


 弱弱しく呻きその場で動かなくなるサイドレオーネ、そのサイドレオーネの顔をめがけてレイトは、ゆっくりと剣を振りかざす。


「終わりだ!」


 振り下ろされた剣により、サイドレオーネの顔は真っ二つになった。

 マサトを1分もかからずに倒したサイドレオーネを、レイトは1分もかからずに倒してしまった。

 これが、数多の冒険者から英雄と称される、レイトの強さ。


「すまない……マサト君」


 マサトへの謝罪をしたレイトは、ギルドへと戻っていった。




 ギルドに戻ったレイトは、ナナ達に全ての事情を話した。

 サイドレオーネを倒したはしたが、その場にマサトはすでにいなかったことを。

 それを聞いたナナ達は涙を流し、先程まで捕獲クエストで得た報酬で酒を飲んでいた冒険者たちもみな静まり返った。


「マサトさん……うっ……ううっ……」


「くっ……マサト……すまない……私のせいで……」


「ううっ……お父さん……」


「本当にすまない。僕がもっと早く着いていれば」


「マサトってやつ、仲間を助けるために死ぬなんて」


「あの男こそ……真の冒険者だ」


 マサトのことを下に見ていた女騎士と槍男でさえ、悲しんでいる。


「マサトの奴、死んじまうなんて」


「あいつ、良い奴だったよな」


 ギルドにいる冒険者もみな、マサトの死を悲しんでいる。

 早期のランクアップに名前付け、冒険者として有名になりつつあるマサトは、ある程度の冒険者とも交流を持っていた。

 マサトと知り合った者すべてが、マサトの死を悲しんでいる。

 

 その光景を、ギルドの外から窓を覗いて眺める冒険者がいた。


「は、入りづれぇ」


 マサトだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ