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クリア済みゲームを今度はリアルで救う  作者: エスト
第二章 クエスト生活
35/115

第35話 「ランダムクエスト」

 ギルドに戻った俺たちは少し遅めの昼食を取り、とりあえず捕獲した分の報酬をもらいに行った。


「えーっと、マサト様は現在、約300匹のドラコキッドを捕獲していますね。捕獲したモンスターの状態から見て報酬は……37000Gですね」


「37000G!?」


 今までは1日に1000G稼げればいい方だったのに、この4時間ほどでいつもの30倍以上も稼げてしまった。

 普通に考えればこの3日で十万以上の金額は稼げる。


「すごいですね。この短時間にこれほど稼げるなんて。さすがは神様に選ばれた人と言ったところですね」


 受付の人は何も知らない。

 俺の持っているゲーム知識がほとんど役に立たないことに。

 モンスターの生息地はゲームとほぼ同じらしいが、今回の大量のドラコキッドがいる場所を見つけたのはほとんどソウラの手柄だ。


「どうも」


 俺は受付の人に軽く言って、掲示板の方へ向かった。

 説明の時に確か掲示板に相場の情報を載せると言っていた。


「これがモンスターの相場か」


 掲示板にはタストの町周辺に存在するほとんどのモンスターの相場が書いてあった。

 ドラコキッドはナナの言った通り死体で100、生け捕りで1000だ。

 俺たちのよく討伐するヘルドッグは死体で300G、生け捕りなら2000Gだ。


「よし、次はヘルドッグを捕獲しに行くか」


「はい、ヘルドッグなら私の魔法で楽勝ですね」


 ナナが気合満々で答える。

 ドラコキッドの時は何もすることがなかったから、力が有り余っているんだろう。


「それじゃあ早速行くぞ」




 俺たちは洞窟の中に来た。

 そこにはいつも通り大量のヘルドッグが存在し、俺たちを威嚇する。

 そんなヘルドッグの前にナナが自信満々に出る。


「私の出番ですね。行きますよー。ファイア!」


 ナナは意気揚々と魔法を唱え、手から巨大な火球が現れる。

 ナナの魔法の大きさは俺はもとより、ドーピング状態のライの魔法より大きかった。


「キャイ――」


 ヘルドッグは悲鳴を上げかけたが、その悲鳴が最後まで言われることはなかった。


「よし、今ので死んだ……ろ……」


 跡形もなかった。

 ナナの魔法をくらったヘルドッグは影すら残さず、完全に消え失せていた。

 魔法が直撃していないヘルドッグはその光景におびえたのか、洞窟の奥の方へと逃げて行った。


「場所……変えるか」


 俺たちは洞窟を抜け、町周辺のドラコキッドの捕獲へと向かった。




「ナナ、そんなに落ち込むなよ」


 ナナはずっと下を向いて俯いている。

 まさか自分の魔法にそこまでの威力があるとは思っていなかったのだろう。

 ヘルドッグの形を残しつつ倒す魔法もナナなら覚えていたかもしれないが、洞窟の中でそれを放つのは危険すぎる。

 下手すれば洞窟が崩れ落ちる可能性すらある。


「私って……使えませんね」


 ナナの声は小さく、聞こえるか聞こえないかぐらいのものだった。


「そ、そんなことないって。ナナがいなかったらこのパーティ、成り立たないぞ」


 実際ナナがいなかったら命がいくつあっても足りない場面がいくつもあった。

 だがナナは、


「私、戦闘で全然役に立てませんし……」


 今までの自分の功績などまるでなかったように話す。

 ナナは今までのことを当然のことと思っているのだろう。

 ナナの自己評価は完全減点制、パーティに貢献しても点数は増えないが、失敗をしたらどんどん減点していくというものなんだろう。


「どうだマサト! もう30匹は倒したぞ!」


 逆にソウラは加点制、失敗したところで自己評価が減ることはないが、成功すれば自己評価が限りなく上がっていく。

 本当に真逆な二人だ。


「お父さん、アカネもいっぱいたおしたよ!」


 アカネは成功すれば喜び、失敗すれば落ち込む。

 一番の子供が一番まともな感性を持っていると俺は思った。


「おお、よくやったな。その調子でガンガン倒してけ」


 ソウラとアカネは再びドラコキッドの討伐を始める。


「ナナ、お前は十分役に立ってるよ」


 俺はアカネたちが倒したドラコキッドを捕獲しながらナナを慰める。

 ナナは俺たちの中でも特に役に立っているということを認識してもらいたい。


「そんなこと、私は今こうしてマサトさんの捕獲のお手伝いをするぐらいしか……」


 ナナは今、俺が捕獲している間、周囲のドラコキッドが俺を襲わないように見てもらっている。


「ナナ、俺は今ナナに守ってもらってるから安心して捕獲できるんだぞ」


 実際、ソウラでもアカネでも安心はできない。

 ソウラは落ち着きがなく、周辺のモンスターと戦いに行きそうで怖い。

 アカネはステータスは高いが、まだ子供ゆえに不安を拭い切れない部分もある。

 はっきり言って、俺はナナを最も信頼している。


「それに今までだって、ナナがいなきゃ危ないときだってたくさんあったぞ」


「そんなことないです。私がやってきたのは私が出来る事だけです」


 その出来る事ってのが普通の人には出来ないことだってことを何故分からないんだろう。


「いいかナナ、今回ナナが自分のことを使えないって思ってるのは、捕獲クエストだからだ。捕獲にはナナはあまり向かないってだけで、普段はナナが一番貢献してるんだからな」


「マサトさん……ありがとうございます」


 ナナが少し目を涙でにじませながら答える。

 多分、俺が気を使って言ってると思ってるんだろうな。

 世界を救うための能力的には、ナナが一番だというのに。

 まあ、世界を救うってのが最近どうでもいいと思ってるけど。


「それにしても、大量発生してるっつっても限度があるだろ」


 町の周辺にはいまだに数え切れないぐらいのドラコキッドがいる。

 100を超える冒険者に捕獲されているというのに、なぜこうも減らないのか。


「これでも例年よりは少ないと思いますよ」


 これでか、もし大型モンスターが大量発生したらこの世界終わりだな。




 捕獲を始めてから約二時間、時刻は5時過ぎになった。


「これはかなり稼げたろ。この二時間で150匹はいったな」


「マサト、これからどうする? ダルトドラゴンと戦うか?」


 周りを見てみると、今までいた冒険者のほとんどがすでに捕獲をやめて町に戻っている。

 さすがに駆け出し冒険者の町でダルトドラゴンを捕獲しようという冒険者はいないようだ。

 それにレイトのような上級者もあまり捕獲しないようにと考えてるみたいだからあまりいない。


「そうだな。捕獲のついでに今の俺たちの強さをダルトドラゴンで測るのもいいかもしれない」


 そういうとソウラは分かりやすいぐらいテンションが上がっている。

 対照的にナナは、


「まだ私たちのレベルじゃきつくありませんか?」


 ナナの態度を見てソウラが両手を合わせ懇願する。


「頼む! 1匹、1匹だけでいいから!」


 ソウラの必至な態度で頼むとナナはしょうがないといった感じでそれを了承する。


「もう、1匹だけですよ」


 俺たちはダルトドラゴンの出現する時刻までドラコキッドの捕獲をつづけた。




 そして、時刻は6時、いつダルトドラゴンが現れてもおかしくない時間だ。


「覚えてるなソウラ。弱点は腹部だからな」


「ああ、忘れるわけがないだろう」


 ソウラが剣を構えながら答える。

 確かにあの夜のことを忘れるなんてことはないだろう。

 俺はあの時最悪の事態、全滅さえ頭によぎった。


「あっ、現れたみたいですよ」


 ナナが森の方を指さす。

 姿はまだ見えないが、葉を揺らす音や、木の枝が折れる音がする。

 それに、結構大きめの足音が聞こえる。

 ダルトドラゴンで間違いないだろう。


 俺たちは以前ダルトドラゴンを倒した時と同じような配置で待つ。

 ソウラとアカネが前衛、俺とナナは後衛、弱点を知っている今、ダルトドラゴンに負けることはないだろう。

 そして、森からモンスターが現れた。

 しかしそのモンスターはダルトドラゴンどころか、中型モンスターですら無かった。


「にゃ~」


 森の奥から出てきたのは、モンキラの中でも最弱の部類に入る猫型モンスター、リトルリオンだった。


「何でこいつがこんなところに?」


 これは明らかにおかしい。

 さっきまでの大きな足音は何だったんだ?

 あれは中型以上で間違いないと思ったんだが。


「マサト、あれはなんだ?」


 そうか、ソウラは見たことがなかったのか。


「あいつはリトルリオンって言ってな、弱いモンス……ター……」


 俺はソウラに説明しつつ、リトルリオンのモンスター紹介文を思い出していた。

 モンキラではすべてのモンスターに紹介文が存在し、そのモンスターの大体の情報が載っている。

 猫好きな俺は猫型モンスターのリトルリオンは比較的お気に入りのモンスターゆえ、紹介文を覚えている

 その紹介文ではリトルリオンはこう説明されている。

 攻撃力、防御力、体力、全てが最弱レベルのモンスター。だが成長すれば大型モンスターに匹敵する力を持つモンスター。

 モンキラの中でも珍しい、成長して名前が変わるモンスター。

 そしてリトルリオンは成長すると、他のリトルリオンを守るために常に行動を共にする。

 

 森の中からリトルリオンの数十倍、ダルトドラゴンよりも大きな体のモンスターが姿を現す。


「ガルルルルルルルル」


 そのモンスターは、美しいとすら思わせる真っ白な体毛と、鋼鉄すら軽々と切り裂きそうな鋭い爪、あらゆるものをかみ砕くであろう牙を持つ殺戮の獅子、その名は


「サイドレオーネ」


 なんでだ? なんでサイドレオーネがこんなところにいやがるんだ!?


「マ……マサト……何だあいつは!?」


 見るとソウラは今までにないほど怯えている。


「マ……マサトさん……ど……どうしてこのモンスターがここに?」


 俺はモンキラのことを必死で思い出していた。

 この世界では生息地だけはモンキラの世界と同じのはず、今までの傾向から考えてそれは間違いないはずだ。

 なら何でここにサイドレオーネが……


「ランダム……クエスト……」


 モンキラのゲームでは1カ月に一度ランダムクエストが配信されていた。

 その名の通り、いつ起こるか分からないクエスト。31日に配信され、次の日の1日にも配信されたこともある。

 このランダムクエストに出てくるモンスターは通常のプレイでは出てこないモンスター、ランダムクエスト専用モンスター。

 俺が知ってる限りランダムクエストのモンスターは12種類存在し、そのすべてのモンスターには共通点が存在していた。

 特定の生息地を持たないと。


「逃げろおおぉぉぉぉ!」


 俺は今までにないほどの大きな声で叫んだ。

 だが、その叫び声に反応できるものはこの場にはいなかった。


「マサト……あ……足が動かない」


 ソウラの足は小刻みに震えていた。

 ソウラだけではない。ナナも、アカネも、みんな動けないでいた。


「ガルルルル」


 サイドレオーネは徐々に、少しずつ俺たちに近づいてくる。

 距離が10m、9m、8m、明らかに俺たちを狙っている。


「ウォータアアアアア!」


 俺は水魔法をナナ達に向かって放った。


「お前ら! 早く逃げろっ!」


 水を頭からかぶったナナ達は、なんとか足の震えが止まった。


「いいか、死にたくなきゃ町に向かって全力で走れ! 絶対に振り向くな!」


 ナナ達は何も言わずに町へ向かって走り出した。

 恐怖で頭が働いていないんだろう。

 それはもう一心不乱に、後ろどころか横も見ず、町だけを見て走っていった。


「さてと、どうすっかな」


 俺の目の前には今まで見た中でも最強のモンスター、はっきり言って何秒持つかもわからない。

 だが、ナナ達が逃げるぐらいの時間は稼がなきゃいけない。出来るなら、ナナ達が応援を呼ぶまで


「ガルルルルルルルル」


 サイドレオーネは徐々に徐々に距離を詰めてきている。

 これなら長い間この状況を保てるかもしれない。

 そう思った瞬間、


「ガル」


 サイドレオーネは地面を蹴り、俺との距離を一瞬にして詰めてきた。

 そしてその勢いのまま鋭い爪で俺を切り裂きにかかった。


「ぐあっ!」


 俺は咄嗟にナイフを前に出しサイドレオーネの攻撃を防御しようとしたが、爪が直接当たるのを防いだだけで、かなりの勢いで吹き飛ばされた。


 これは、ヤバイ。


 吹き飛ばされた直後に立ち上がろうとしたが、足にまるで力が入らない。

 いや、足だけじゃない。腕にも全く力が入らない。

 持っていたナイフは粉々に吹き飛び、腕が上がらないから魔法も放てない。

 完全に、詰んだ


「ガアアアアア!」


 サイドレオーネは即座に俺のもとに近づき、前足を振り上げた。


「うわあああ――――」


 サイドレオーネの攻撃で、俺の悲鳴はかき消された。

 そしてサイドレオーネの真っ白な体毛は、真っ赤に染まっていた。


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