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クリア済みゲームを今度はリアルで救う  作者: エスト
第二章 クエスト生活
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第27話 「ドーピング」

「勝負? 断る!」


 この女は何を言ってるんだ。わざわざ勝負をする理由がない。誓約が無効になったとはいえ、俺が勝負を受けさえしなければソウラはこいつらに小言を言われるだろうが結婚を強制されることはない。


「ふふっ、断るだろうとは思っていましたよ」


「あんたには分かり切っていたことだろ」


 本当に、この女が何を考えているのかがほとんど分からない。唯一予想できるのは、俺たちにとって良いことではないだろうことだ。


「そうゆうわけで、俺たちはもう行くぞ」


「あなたに拒否権があると思いましたか……と、言いたいところですが私にも少々予想外のことが起こっていましてね」


 ソウラの母親はレイトのことをさっきからチラチラと見ていた。

 おそらく予想外と言うのはレイトのことだろう。


「何人連れてきたんだ?」


「そこまで多くはありませんよ。ほんの20人ほどです」


 やっぱり実力行使に出るつもりだったのか。

 レイトがいて助かった……と言いたいところだが、この勝負、受けるしないだろうな。


「勝負って何をするんだ?」


「ちょっ、マサトさん!? 勝負を受けるつもりですか!?」


「多分、このギルドの入り口をこの女が雇ってきた冒険者に塞がれているはずだ。今はレイトがいるから逃げられるだろうが、レイトがいないときを狙われたら結局は勝負を受けざる負えない。だからレイトがいるときに勝負を受けて出来るだけ公平な勝負にする必要があるんだ」


 この女は予想外と言っていたが、それはこいつにとってさしたる問題ではないはずだ。レイトも四六時中俺たちと一緒にいるわけでは無い。レイトがいない時を狙えばいいだけの話だから。


「理解が早くて助かります。では勝負内容について説明しましょう。と言っても簡単なことです。あなたとライの一騎打ち、それが勝負の内容です」


 ライとの一騎打ち?

 はっきり言ってそれなら負ける気がしないが……いや、この女のことだ。何か考えがあるはずだ。


「勝負ってのは俺とライだけが戦うんだよな?」


「ええ、もちろんです。他の方々は一切介入できません。というよりも、もし介入ありのルールでしたらレイトさんを擁するあなたに有利でしょう?」


 その通りだ。いかに強力な冒険者を雇ったと言ってもレイトはこの世界では最強クラスの冒険者、かなうわけがない。最悪の場合レイトの仲間も参戦する恐れがある。


「それと、武器の使用は無しにしましょうか。いくらなんでも死んでしまうと寝覚めが悪いですからね」


「それは、魔法はありってことか?」


「ええ」


 この女は終始余裕を保っている。

 まるで自分の勝利を疑っていない、という表情で。

 この女の自信はソウラのような根拠のないものとは違う、根拠のある自信だ。

 それゆえにこの女は余裕を保っていられるのだろう。


「それでは外に出ましょう。ここで戦うわけにはいきませんからね」


 そう言われ俺たちはギルドを出て町の中心にある広場へと向かう。

 広場に着くと、そこはいつもの光景とは違った。

 いつもこの時間に開いているはずの店が全て閉まっている。

 おそらくこの女がしたのだろう。

 つまり全てがこの女の計算通りに事が運んでいるということだ。


「ここなら多少暴れても問題はないでしょう」


 それにしても不気味だったのは、この広場に来る道中ライが一言も発さなかったことだ。

 勝負となればライはいつも宣戦布告をしてきた。今回はそれがない。


「では早速始めましょう。ルールは簡単です。武器無し、魔法有り、降参するか気絶した方の負けです。ライ君が勝てばマサト君が私の言うことを一つ聞く、ライ君が負ければ私がマサト君の言うことを一つ聞きます。一応誓約書は用意しました。サインをお願いします」


 ソウラの母親がそういうと俺は誓約書に問題がないことを確認した後サインした。

 その後ナナ達は俺とライから距離を取った。

 魔法を用いた戦いとなれば被害をこうむる可能性があるから当然のことだろう。


 俺とライは広場の中心で向き合う。

 両者の距離はおよそ5m、近すぎず遠すぎずといったとこだ。


「それでは、始めていいですよ」


 ソウラの母親が開始の合図を出した。

 それは勝負の合図というにはいささか力のなさすぎる合図だった。

 

 そのせいで俺は一瞬反応が遅れてしまいライに先制攻撃を許してしまった。


「ウォーター!」


 ライがそういうと手のひらから水の球が現れ俺の所へと向かってきた。

 俺の噴射型の水魔法とは違い、圧縮した感じの水魔法だ。

 不意を突かれた俺はその魔法をモロに喰らってしまった。


「ぐああっ!」


 魔法をくらった俺は数mほど吹き飛ばされてしまった。

 そして間髪入れずにライは魔法を唱える。


「ウォーター!」


 体勢が悪かった俺だが、すぐに追加攻撃をしてくると予想できた俺はなんとか避けることができた。


 おかしい。

 ライの魔法にこれほどの威力があるのはおかしい。レベルは多めに見積もったとしても7程度のはずだ。 

 それなのにこの威力、今のナナには及ばないが、ヘルドッグ相手にレベル上げしていた時のナナの魔法に匹敵するかもしれない威力だ。


「フフフフ、ハーハッハッハッハッハ!」


 突然狂ったように笑いだすライ。

 その光景にソウラの母親以外の全員が呆気にとられている。


「マサト、お前こんなに弱かったんだな。俺の最弱魔法に吹っ飛ばされるなんてよ!」


 ライがそう言うと、両手を俺の方にかざした。


「ブラストウォーター!」


 ライの手から俺の水魔法とは段違いの太さの水が噴射される。

 この太さはナナのエルフレイムとまではいかないが、かなりの威力を持っていることが容易に想像できる。

 しかし軌道は直線的、大きな魔法を放つと予想できた俺は真横に大きく跳び、なんとか回避することができた。


「フハハハ、無様だな、マサト」


 明らかに俺の知っているライとは違う。

 強さも、性格も。

 ソウラの母親がこの光景に何の疑問も抱いていないのも気になる。


「母様! ライに一体何をしたのですか!?」


 ソウラが驚くほど剣幕な表情を母親に向ける。

 しかしそんなことはまるでお構いなしという風にソウラの母親は答える。


「ライ君にちょっとお薬を上げたのよ。そうしたらあんな風になってね」


「薬……だと? 母様、もしや、イルクの水を使ったのですか!?」


「ええそうよ」


 母親は何か問題があるのか、と問うような口調で答える。


「正気ですか!? あの水を用いたものは強大な力を得る代わりに精神が蝕まれていくのですよ!」


「大丈夫よ、ちゃんと量は調節したから。ほら、その証拠にまだ少しだけ自我があるでしょう」


 母親がライを指さし答える。


「マサト! ライはイルクの水を用いて強大な魔力を得ている! お前に勝ち目はない、逃げろ!」


 ソウラが必死の声をあげる。

 ライの急激なパワーアップ、そして性格の変貌は薬によるものらしい。

 簡単に言うと、ドーピングしたということだ。


「そうはいっても……やるしかないだろ! ファイア!」


 俺はライに向け魔法を放った。

 大きさはサッカーボールよりも少し大きい程度、以前の俺から考えればかなり成長しているが、ライの先程放った魔法と比べると非常に小さく見える。


「無駄だ! フィードウォーター!」


 ライの周りに水が出現し、ライの周辺を覆う。

 その水に俺の魔法が当たるも、まるでロウソクの火を吹き消すかのようにいとも簡単に俺の魔法は消え失せた。


「お前に勝機はない。お前の属性が火、俺は水に特化している。相性は最悪、魔力の質も量も俺の方が圧倒的に上、てめぇは俺に殺されるんだよ! ルプウォーター」


 水を周辺に覆わせたままライは魔法を唱えた。

 だが何も起こらない。

 ライの周辺には何も起こっていない。

 周辺の水にも何の変化もない。


「マサトさん、上です!」


 ナナの言葉を聞き見上げると、そこには先程のウォーターよりも一回り小さい水の球が俺に向かって落ちてきていた。


「くっ、ファイア」


 俺は水の球に当たる瞬間魔法を唱え、なんとか相殺した。

 おそらく今の魔法は任意の場所に魔法を放てる魔法、非常に厄介だがその分威力は低いと見た。

 ほとんどの魔法が手のひらから発射されるものだから、あの水のバリアを展開している間はこの魔法しか使ってこないということだ。


「どうだ、完璧な防御にこの攻撃、お前に勝機があると思うか?」


 ライは不気味な笑みを浮かべ挑発してくる。

 

 魔力量に差があるとはいえ、俺は魔力水を多少持っているからその差は埋められるだろう。

 問題は、あの水のバリアをどう攻略するかだ。

 一応考えはあるが、果たして魔力水が無くなるまでに間に合うかどうか、可能性は限りなく低い。


「マサト! もういい、本当に殺されてしまうぞ」


 ソウラの声を聞き振り向いてみると、ナナもアカネもソウラも、非常に不安な顔をしている。

 アカネなんか今にも泣きだしてしまいそうな表情だ。

 仲間にこんな顔させて、リーダー失格だな。


「やるだけのことはやってやるよ」


「マサト!」


 俺は顔をライの方に戻し、手をかざす。


「ファイア!」


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