第21話 「予想外」
朝9時ごろ、俺が泊まっている部屋に入るとそこには不機嫌な表情をしたナナがベッドの上で座っていた。
「みなさん、どこに行ってたんですか?」
声に怒気はないが明らかに機嫌が悪い。
「ちょっとソウラの家にな」
「ソウラさんの家に!? いったい何を……」
「バカな奴を罠に嵌めてきた」
「罠に?」
「というわけで俺たちのパーティの名前を決めるぞ」
「えっ? 名前ですか? 何で急に…………ちゃんと説明してください!」
「分かったよ。実はな……」
俺は事細かに事実を伝えた。
ライとの勝負に問題が発生したからソウラの父であるゴーマに会い、ライと新たな勝負を設け、その際の誓約書に俺たちが勝っても負けても問題ない文言を書き加えたこと
「これがその誓約書だ」
俺は誓約書をナナに手渡す。
「…………なるほど。ソウラさんがパーティを抜けられる状況になるまで一緒のパーティを続けられるということですか。だから名前を付けようと……分かりました」
さすがナナだ。ソウラやゴーマと違ってすぐに理解してくれた。
ソウラの奴は理由を言っても数秒固まってたからな。
「ですけど、これで納得してくれますかね? さすがに屁理屈だと言われるんじゃ……」
「平気だろ。書いてある通りなんだから」
「そう……ですね。ちゃんとした理屈ではありますし、なによりソウラさんの為ですから相手が無理言ってきても無理にでも通しましょうか」
予想通り
ナナなら多少納得できなくても理解してくれると思ったよ。
「で、何で私を置いていったんですか?」
「気持ちよさそうに寝てたからな」
「起こしてくれればいいじゃないですか! ソウラさんが大変な時に————」
「あのね、ナナお姉ちゃん。お父さんね、ナナお姉ちゃんみたいにはなしてたんだよ」
「私は最初、誰だこいつと思ったぐらいだ」
「目上の人と話すときは敬語は当然だろ。人として」
「……それはちょっと、見てみたかったですね」
確かにあの時の俺は少しナナに近かったかもしれない。
目上の人ってのもあったけど、ゴーマが怖かったってのもあったな。
あいつの少し父親的な発言がなければあんだけ流ちょうに話せなかったろうな。
「まあ、過ぎたことを言っても仕方ありません。それで、名前でしたね。何か考えているんですか?」
「全然」
あの時は名前を考えればいいやと思ってただけだから何も考えてなかったんだよな。
できればかっこいいのがいいな。
「何も考えていないのなら名前は後にして、クエストを受けに行きませんか? お金がもう心もとないですから」
ナナがカードの所持金の欄を見せてくる。
所持金は、100G、俺の所持金も似たようなもんだから確かにちょっとヤバイな。
レベル上げの時に魔力水を買い込みすぎたな。
「そうだな、まずは金だな。名前は……みんな何か考えておこう。今日の夜にでも話し合おう」
「うむ、とびっきりかっこいいものを考えておこう」
ソウラは自信満々に答える。
期待しないでおこう。
「それじゃあ飯食って早速ギルドに行こう」
俺たちは朝食をとり宿屋をでてギルドに向かう。
「また、えらく騒がしいな」
ギルド内はいつぞやのヴァテックスが来た以来の騒々しさだ。
時刻は10時、いつもなら冒険者は出かけている時間だ。
にもかかわらずギルド内には大量の傷ついた冒険者がいる。
「そこの人、何があったんだ?」
俺は近くにいる一般人に尋ねる。
「実はヴァテックスと配下のパーティが来てるんだ。なんでもモンスターとの戦いで大敗して、傷をいやすために安全なこの町に来たらしい」
なんだと!? ヴァテックスが大敗!?
あいつらはアカネ以上のステータスを誇っているはず。なのに配下ともども大敗だなんて、一体どんなモンスターと戦ったんだ?
「まさかヴァテックスが負けるとは……」
ソウラが驚きの表情を見せている。
ソウラはヴァテックスのことを本当に尊敬してるみたいだからショックだったんだろう。
「ん? あれは……レイトか?」
人ごみをかき分けてレイトがこちらへ向かってくる。
この前見たきれいな恰好とは打って変わって、服はボロボロ、顔にも傷がついている。
「マサト君、君にお願いがあるんだ。ナナさんの回復魔法を、みんなにかけてあげてくれないか?」
レイトが悲痛の表情で懇願してくる。
これは相当痛い目にあったな。
「ナナ、回復してあげてくれ」
「はい、分かりました」
ナナはレイトの配下たちに近寄り回復魔法をかける。
傷つき倒れていた冒険者たちが安らかな表情に変わっていく。
だが数が多すぎてナナでは対処しきれなさそうだ。
「ナナ、回復しきれるか?」
「持っている魔力水を使えばできますけど、この数を治すとなると日が暮れそうですね」
それは困ったな。俺たちは今後の生活費を稼がなくちゃいけないのに。
そうだ! 確か天界出身の女性は誰でも回復魔法が使えるはず。
「受付の人、あんたも回復魔法かけてやってくれないか?」
「へっ? 私が……ですか?」
「天界出身の女性ってみんな回復魔法使えるんだろ?」
「えっ? あのー、もしかしてあなたも天界出身で?」
「いや違う。だけどあそこで回復魔法をかけてる子は天界出身だ」
「そう……なのですか。だから分かったんですか」
受付の人は非常に困った、というような顔をしている。
何か問題があるのだろうか?
「しょうが……ありませんね。あまり目立つ行動はしたくないのですが……」
受付の人は持ち場を離れレイトの配下に近づく。
「今すぐ回復しますね」
受付の人が手をかざし回復魔法をかける。
みたところ回復量はナナと大差なく見える。
「驚いた! まさか受付の人が回復魔法を使えるなんて」
レイトが俺の横に立ち驚いている。
「お前は回復してもらわなくてもいいのか?」
「僕は見た目はボロボロだけどそこまでダメージは受けてないからね。回復されなくても平気さ」
さすが最強パーティのリーダーだ。こんなにボロボロでも全然余裕そうだ。
「で、どんなモンスターにやられたんだ?」
「…………正直思い出したくもないが、こういう情報は共有しないとね。僕らがやられたモンスターはドルミの町周辺を縄張りにするアガリアレプトというモンスターだよ」
アガリアレプトか、ゲームでもドルミの町周辺に出てたな。確か悪魔っぽい見た目に水のブレスが特徴のモンスターだったな。
予想外だ。まさかヴァテックスがアガリアレプトに勝てないとは。
アガリアレプトは確かにゲームでも強いモンスターだったがアガリアレプトよりも強いモンスターは何十種もいる。
はっきり言ってアガリアレプトにこの世界の最強パーティがボロクソにやられたら世界なんて救えないだろ。
「僕たちはしばらく活動休止だよ。君の所の調子はどうだい?」
「昨日ランクアップした。今後は、クエスト受けて金稼ぎの予定だ」
「ランクアップ!? 君は確か、3日前に会った時はレベル2だったよね? それでもうランクアップしたのかい?」
俺からすればたった3日でドルミの町まで行ってボロクソにやられてこの町に戻ってきた方が驚きだよ。
「いろいろ事情があってランクアップしなくちゃいけなかったからランクアップしたんだよ」
「しなきゃいけなかったって……出来るようなレベルじゃないだろう!? 普通はレベル15ぐらいで倒すモンスターだよ!」
なるほど、推奨レベルはゲームよりも高いのか。
「確かに俺たちはだれもレベル10にさえなっていなかった。はっきり言って死ぬかと思ったね。だけどなんとかダルトドラゴンの弱点を発見してな」
「ダルトドラゴンの……弱点? あのモンスターには弱点は存在しないはずだよ。倒すには強烈な一撃で首を落とすか、何度も剣を突き刺すしかないはず……」
「知らないのか? ダルトドラゴンは腹部が弱点なんだ。1回刺しただけで大ダメージだったぜ」
「そ、そうだったのか」
やっぱりこの世界じゃその倒し方が普通だったのか。
まあ普通なら俺たちじゃ勝てないな。首を落とすほどの攻撃力はないし、何度も刺せるほど剣も持ってないしな。
ん? もしかしてこの情報って高く売れるんじゃないのか?
「それはすごい発見だね! これでほとんどの冒険者がランクアップできるね」
しまった。こいつに話したせいでもう情報の価値が無くなった。
「なあおい、ちょっといやーな話が聞こえてきたんだが」
俺とレイトが話していると武器屋の店主が話しかけてくる。
「ダルトドラゴンに弱点があるんだって? しかもそこを狙えば1発2発で倒せると」
店主の顔は少しひきつった笑顔になっているように見える。
店主からするとダルトドラゴンは倒すのに大量の剣が必要で稼げるから弱点があると困るのか。
「本当だよ。1発刺しただけで大量出血してやがったよ」
「……なあおい、その情報、誰にも言わないでもらえるか? もちろんそれ相応の物は用意する。店の武器で1番良いものでも、金もそれなりに払おう」
「マジでか!?」
ラッキー! まさかこんなことで大金ゲットできるなんて。
「その話、あまり感心できないな」
レイトの表情は少し浮かない顔をしている。良い奴からしたら俺と店主の行いは見過ごせるようなものじゃないな。
だがこっちも生活が懸かってるんだ。所持金が約200Gちょい、しかも俺のナイフはひび割れて新しいものを買わなきゃいけないから本当にやばい状況なんだ。
「なあレイト、よーく考えてみろ。もしダルトドラゴンの弱点が露見すればほとんどの冒険者がランクアップできる」
「ああそうだ。だから他の冒険者にも知らせるべきだ」
「いーや違うね。いいか、ランクってのはただの称号じゃない。難しいクエストを受けるための条件でもあるんだ。もし実力が足らずにランクアップして難しいクエストを受けられるようになってみろ。最悪その冒険者は死ぬぞ」
「た、確かにそうだね。実力不足でランクアップすることはあまりいいことじゃない。だが君たちはどうだ。君たちは弱点を攻撃してランクアップしたんだろ?」
「俺たちは問題ない。なぜなら誰にも分からなかった弱点を見つけることができたんだからな。ステータスは少し物足りないが、総合的な実力なら申し分ないはずだ」
即興で考えた言い訳にしては筋が通っている。むしろ今考えたことなのに情報を明かさないことの方が正義な気がしてきた。
言葉の魔力ってやつかな。
「君の言う通りかもしれない。むやみやたらとランクアップさせるべきじゃないのかもね」
やった、納得してくれた。
あとは店主に口止め料いくらもらうかだな。いくらいっちゃおうかな、10万とかいっちゃおうかな。
「なんだ兄ちゃん、始めっから弱点を公表する気がなかったのか。心配して損したぜ。俺は店に戻る」
武器屋の店主は笑顔で店に戻っていった。
「えっ!? ちょっと待って! 今のはちが――――」
「マサト君、君はとても頭がいいんだね。弱点を見つけたことも、それを公表しない理由も、僕には考え付かなかったよ」
レイトはいつも通りの笑顔に戻り俺の言葉を遮る。
「いやだから、確かに公表しない理由は言ったけど――――」
「君みたいな冒険者が世界を救うんだろうね。今はまだ僕の方が強くはあるけど、君のことを本当に尊敬するよ」
何が尊敬するだ。俺は金が欲しいんだよ! せこいんだよ!
今から店主に話をすればまだ間に合うか?
「俺ちょっと店主に話があるから今日の所は――――」
「今後のことについて色々と話をしないか? 君とはぜひ交流を深めておきたいからね。僕の仲間の回復が終わるまでそこの酒場で話でもしよう」
「話を聞けぇぇぇえええ!」
結局武器屋の店主が金も武器もくれることはなかった。




