第2話 「ギルドへ行こう」
俺の目の前には広大な街が広がっていた。本当に世界は危機に瀕しているのか疑いたくなるほど住民は活気にあふれている。
「ここがモンキラの世界……ゲーム通りならここは最初の町のタストのはず……いや、ちょっと待てばあの神がお供をよこすはずだからそん時に聞いてみるか」
俺はあふれる人波を眺めながらお供の女の子が来るのを待っていた。
しかし俺の元に誰一人としてこないまま、1時間が経過する。
「遅い! 神の野郎すぐに送るとか言ってやがったくせに! これじゃ本当に来てもかわいい子かどうかも怪しいぜ」
俺がしびれを切らし、いいかげんどこかへ行こうとした。ゲームである程度のマップは、最初の街ゆえにうろ覚えだが、多少は覚えている。何とかなるだろう。
そう思った時、一人の女の子が話しかけてきた。
「あ、あの、マサトさんですよね? 私神様に言われてあなたのお供をすることになったナナっていいます」
「………………」
「あの、マサトさん……ですよね?」
そう聞かれて、我に返った。
本当にかわいい子が来たので、思わず茫然としてしまった。
身長は155ぐらいでちょい小さめだが、肩ぐらいまでの短めの黒髪はきれいで、シンプルに顔が可愛い。
「いやちょっと考え事をしてて、これからよろしくな、ナナさん」
「こちらこそよろしくお願いします、マサトさん。一緒にこの世界を頑張って救いましょう。それと、呼び捨てでいいですよ」
ナナは小さな両手をグッと握りしめ気合の入った声で意気込む。
その仕草に俺は思わず口がにやけそうになるのを隠すために口を手に当てる。
「それにしても遅かったな。神の野郎はすぐに送るって言ってたけど何かあったのか?」
俺は当然のことを聞いたつもりだが、ナナは困惑した顔つきになる。
「実は、あなたを転生した時点で誰をお供にするかはまだ決まっていなかったんです」
はぁ? あの神それなのにすぐ送るだのかわいい子だの言ってやがったのか。本当に適当な奴だな。
「それであなたのお供をすぐ決めようとしたんですけど、希望者が一人もいなくて仕方なくくじ引きで決めたんです」
「く、くじ引き!? 俺のお供ってそんなに嫌なことなのかよ」
くじ引きと言う単語を聞いて俯いた俺に、ナナは両手を大げさに振り慌てて否定する。
「い、いえそうではないです。みんなマサトさんのお供が嫌というわけではなく、危険な世界にわざわざ行くことを拒否したのであって、決してあなたにマイナスイメージを持ってのことではありません」
「ホントに?」
「本当です。私はあなたのこと嫌いじゃありません。むしろ私たちの作ったゲームをあんなに真剣にプレイしてくださりとてもうれしく思っています」
この子、いい子だなぁ。かわいい子と一緒にこれからやっていくにあたって色々あれな妄想してたけど、この子にはそんな事できない。むしろこの子にはそういう下世話なものから守ってあげたい、そんな気持ちすら沸いてくる。
まあ童貞の俺には、妄想で済ませるぐらいで、実際に行動熾す勇気なんかなかったが。
「よかったよ、君みたいな子がくじに当たってくれて。安心してくれ、俺が君のこと守ってあげるから」
「いえ、私はくじで当たったから来たわけでは無いんです。本来なら私はデスクワーク専門で今回のようなこととは関係ないのですが、くじで当たった子がこの世界に来たくないと駄々をこねていて、私が行きたいと言ったら特別に許可されたんです」
俺は思わず感動してしまった。
こんな子が自分から危険な世界に来るなんてどんだけいい子なんだよ。やばい、この子は何が何でも守ってあげないと俺の気が済まない。
「ありがとう、俺頑張るよ。頑張ってこの世界を救って見せる」
「はい! 一緒に頑張りましょう」
「それじゃあ早速ギルドに行きたいんだけど、場所分かる?」
「はい、あのゲームの地理の設定は私の担当だったので大抵のことは分かります。ギルドならここから10分ほど歩いたところにありますのですぐに着きますよ」
俺とナナはギルドに向かって歩き出した。
これは案外楽にいけるかもしれない。マップについてはあまり詳しくなかったからそこが唯一の懸念だったのだが、モンスターの弱点を知り尽くしている俺と、町の構造を知り尽くしているナナがいれば、よほどのことがない限りつまづかないだろう。
そう思ってからの数十分後、すぐに俺の考えは改められる。
「あれ? あれ? 確かここにギルドがあるはずなんだけど」
俺とナナは明らかにギルドではない場所にいた。
町の中心からどんどん遠ざかっていたから何かおかしいと思っていたが、まさか町の端まで来るとは思わなかった。
「ナナ、町の構造は大抵わかるって言ったよな。なら教えてくれよ、ここがどこなのか」
「す、すみません。どうやら道に迷ってしまったみたいで」
ナナは目を涙でにじませながら、頭を何度も下げて俺に謝る。
「はあ、しょうがない。一旦町の中心目指して歩こう。それでいいな?」
「……はい、分かりました」
さらに数十分後
「ナナ、一体ここはどこだ?」
俺たちはまたしても町の端にいた。
やはりと言うべきか、薄々こうなるのではないかとは思っていた。
「あ、あれ? なんでこんなとこに来ちゃったんだろ。ちゃんと真ん中に向かってまっすぐ向かったはずなのに……」
あれをまっすぐというか。こっちの方が近道です、とかそっちの道よりこっちのほうがよさそうですとか言って………この子あれだ、方向音痴だ。しかも重度の。
「ナナ、今度は俺が先頭で中心に向かう。あとナナは道については何も言わないこと。分かった?」
「……はい、分かりました」
俺とナナは街の中心に向かい歩き始める。
ナナは俺に怒られたと思ったのかひどく落ち込んでいて、下を向きながら歩いている。
しょうがない、中心に向かいながら少しぐらいフォローしてやるか。
「なあナナ、俺は別に怒ってるわけじゃないからな。ただこうする方が得策だと思ったから道について何も言うなって言っただけだからな。だから気にするな」
「はい、分かりました」
こりゃあかなり落ち込んでるな。
『はい、分かりました』ってもう3回目だよ。まあ俺が怒ってないって言っても道を間違えたのは事実だからしょうがないか。ここはひとつ話を変えるか。
「なぁナナ、あのゲームさ、私たちが作ったって言ってたけど、あれ神が一人で作ったわけじゃないのか?」
「あ、はい。あのゲームは私と他の人たち数10人で作ったものなんです。というか神様はこの世界をゲームにしようと言っただけで、ゲーム制作には何も関与していないんですけどね」
あの神、さも自分がやったように言っといて何もしてねーのかよ。ろくでもねえな。
「あのゲーム作るのすごく苦労したんですよ。モンスターの種類は300を超えて、それに合わせて武器や防具の数も膨大になっていってゲームの完成まで10年かかったんですよ。大変だったなー」
じゅ、10年!?
ナナは道を間違えて落ち込んでいたのは治ったが、別の地雷を踏んでしまったか、目がちょっと死んで見える。
俺はコミュ力がないなりに頭を働かせ、なんとかいい方向へ持って行こうとする。
「で、でもさすが10年かけて作っただけあるな。俺めっちゃはまっちまってよ、1年間ずっと同じゲームしたのなんて初めてだよ」
どうだ、ナナの機嫌は少しは良くなったか?
「そうでしょう! 長い年月かけただけあって自信作なんですよ。設定に凝りだしてこの世界とは多少違った部分も作ってしまいましたがそれがゲームとして最高のものにできた要因だと思うんですよね」
よかったー、ナナの機嫌は良くなったみた……ん? この世界と多少違う? それってもしかしたら大問題なんじゃ……
「ナナ、この世界とは多少違うってどういうこと?」
「そうですね、いくつか例を挙げると、この世界にはゲームにはない魔法があるんです。ですが武器のみで戦うほうがシンプルになって人気になると思ったんですよね。あと他にはオリジナルのモンスターを20種ぐらい入れたことですかね。あとはモンスターの弱点を序盤は当てやすく、終盤になればなるほど当てにくい場所にして難易度を調整したとか……」
「弱点を……? それ本当か?」
「ええ、本当です」
はははは、そうかあ、弱点を変えたのかあ。じゃあ俺の持ってる知識はほとんど役に立たないってことだな。なるほどなあ…………。
ふざけんなああぁぁぁぁ!
それじゃあゲームだと弱点だった場所が実際は違うのか?
終わった、俺の異世界生活完璧に終わった。ていうかバカだろ。弱点を変えたら本末転倒だろ。何のためのゲームだったんだよ。魔法があるって言ってもプラマイゼロどころじゃねー、マイナス100だよ。
俺が心底落胆しているとナナが声を大きくして俺を呼ぶ。
「マサトさん、この建物、ギルドじゃないですか!」
ナナが指さしている建物を見上げるとそこには確かに『ギルド イン タスト』と書かれた看板があった。
外観もゲームとほぼ同じだから、ここがゲームで使用されているギルドで間違いないだろう。
「よかったですね、無事ギルドに着くことができて。早速中に入りましょう」
ナナは元気よくギルドに入った。
逆に俺は、意気消沈しながらギルドに入る
はあ、俺の異世界生活、いったいどうなるんだ。