第19話 「理由」
「マサト……どうして弱点が分かったんだ?」
町に向かう途中傷つき俺におぶられているソウラが尋ねてくる。
「マサトの最後の攻撃、あそこが弱点だと分かって攻撃したろう?」
「まあ、半信半疑だったがな」
実際腹部が弱点じゃない可能性だってあった。そのときはまあ……皆殺されていただろうな。
「それでも、お前はあそこが弱点だという考えに至ったわけだ。誰も分からなかったダルトドラゴンの弱点が分かったのは何故だ?」
「ソウラ、お前そんだけ傷ついといてよくしゃべるな。アカネとは体のつくりが違うんだからまだおとなしくしてろ。理由は後で話してやる」
ソウラはアカネとは違って普通の人間なんだ。アカネがあんだけダメージを負う攻撃をまともに受けたんだからもっとおとなしくしてもいいだろうに。
「大丈夫だ。ナナに回復魔法をかけてもらっているからな。回復魔法がこれほど聞くとは思わなかったぞ」
「なら歩け。いやならおとなしくしてろ」
「うっ……分かった。おとなしくしてる」
どうやらソウラはまだ歩くことは出来ないようだ。意識ははっきりしているが、それでもダルトドラゴンから受けたダメージはすごいものらしい。
「マサトさん、私も聞きたいです。どうして倒せたのか」
ナナがソウラに回復魔法をかけながら尋ねてくる。
「ナナもああいっているではないか。今話してもよかろう」
ナナの奴、余計なことを。
俺は直接攻撃をくらったわけじゃないけどすごく疲れてるんだぞ。できれば一言も話したくないぐらいに……
ていうかなんでこいつらはこんなに元気なんだ。
ソウラは歩けないようなダメージを受けて、ナナもさっきから回復魔法をかけっぱなしだっていうのに全く疲れを見せない。
「アカネも……ききたい」
アカネもか!
「しょうがないな。俺がダルトドラゴンの弱点に気づいた理由は4つある。1つ目は、最初アカネとソウラが攻撃してきたとき、ソウラじゃなくアカネに反撃してきたこと」
「あれに何か理由があったのか? ただなんとなくアカネに攻撃したのではないか?」
「いいから聞いてろ。理由の2つ目は、俺がダルトドラゴンの尻尾を避けて地面に寝そべった時に苦し紛れに突き出したナイフをあいつが避けたこと」
「ありましたね。あれは見てて怖かったです。もう駄目だって思っちゃいましたよ」
「俺も死ぬかと思ったよ。だけどあれがきっかけで弱点に気づいたんだ」
「あれが……ですか? 私にはただのピンチに見えたんですけど」
「あいつがナイフを避けたこと、これがヒントだったんだ」
ナナもアカネも首をかしげている。
俺もこの段階ではまだ多少違和感がある程度だったから分からなくてもしょうがないだろう。
「この2つの理由から考えられるのは、ダルトドラゴンは下からの攻撃に注意していたってことだ」
「下から……そうか! だからあの時私ではなくアカネを最初に攻撃したのか!」
ソウラが俺の耳元で大きな声を上げる。
顔が近いから余計うるさく聞こえる。
「そうだ。多分ダルトドラゴンはアカネに弱点を攻撃されると思ったんだろう。俺のナイフを避けたのも同じ理由だろうな」
あの時の俺は寝そべっていた、つまり図らずも下からの攻撃になりダルトドラゴンは弱点をやられるかもしれないと反射的に避けてしまったんだろう。
「だがまだ理由はある。3つ目は俺とソウラが同時に攻撃したとき、攻撃が当たってから傷をつけたソウラに反撃したこと」
「なるほどな、ダルトドラゴンは2人同時に攻撃すればよりダメージを与えた方に反撃する。にもかかわらずアカネの時は攻撃が当たる前に反撃してきた。だからマサトはおかしいと思ったのだな」
「まあ、そのとおりだ」
驚いた。ソウラの奴が思った以上に理解している。
今まで馬鹿だと思ってたけど、ちょっとだけ見直したよ。
「よく気付けましたね、あんな状況で」
自分でもよく気付けたと思うよ。ゲーマーの勘ってやつかな。
「それで、4つ目の理由はなんだ?」
「4つ目はライの雇った冒険者をみたからさ」
「ライの?」
ソウラが疑問の声を上げる。ナナもアカネも首をかしげている。
「あいつらはダルトドラゴンに無数の剣を突き刺して倒していた。弱点なんか関係なくな」
「弱点と関係ないなら参考にならないんじゃ……」
「ダルトドラゴンを捕獲したんだ。あの冒険者はそれなりの力を持っているだろう。その冒険者があんな倒し方をするってことは、多分あれがダルトドラゴンの一般的な倒し方なんだ」
「はあ……かもしれませんね」
「俺はずっと不思議だった。ランクアップのためのモンスター、そして以前大量発生したにもかかわらず弱点の1つも分からないなんて……それで考えたんだ。以前ダルトドラゴンを一掃した冒険者はレベルが高く、力押しで倒していたんじゃないかってな」
「そう……だろうな。確かにそう考えるのが自然だ。だがそれがどうした?」
「いくら力押しでも大量発生していたんだ。弱点の1つでも見つけてないとおかしい。だが見つからなかった。だから俺は考えた。ダルトドラゴンの弱点は普通に戦っていたら当たらない場所にあるんじゃないかと」
実際ダルトドラゴンの弱点は腹部、四足歩行の腹部は普通に戦っていたら当たらないだろう。
「4つの理由を総合的に考えると弱点は腹部の可能性が高かったというわけだ」
「可能性……むしろ他に何の可能性があるんだ? 今の話を聞く限り腹部以外ないだろう」
「バカ! 腹部以外にもあるだろ。手とか足とか。それにアカネへの反撃も俺の攻撃を避けたのもただの気まぐれだったっていう可能性もある」
「バ、バカはないだろう! バカは!」
「バカだからバカって言ったんだ。ちょっとは頭使え!」
「何だと! 今までの話は全部理解できたぞ! 頭は使っている!」
俺とソウラが程度の低い言い争いをしているとナナが尋ねてくる。
「あのー、腹部が弱点だと考えた理由は分かったんですけど、腹部と背中って違うんですか?」
なるほどな。もっともな質問だ。腹部も背中も同じ胴体、そこまで差は無いように見える。弱点が見つからなかったのにも一役買っているだろうな。
こればっかりは実際にダルトドラゴンの腹部に剣を突き刺さなきゃ分からないだろうな。
「ダルトドラゴンの体は、多分2層構造になってるんだ」
「2層構造?」
「ああそうだ。ダルトドラゴンの背中と腹部を隔てるようなものがあるんだ。つまりダルトドラゴンの体の仕組みは、背中が空洞、腹部に血管やら内臓みたいな重要なもの、そしてそれを隔てる壁があるんだ」
「なるほど。マサトさんは攻撃する前に分かったんですか?」
「ああ。ソウラの剣も、ライの雇った冒険者の剣もあまり深く刺さっていなかったからもしかしてって思ったんだ」
「すごいです! さすがあのモンキラを最初にクリアしただけのことはありますね」
「モンキラ? なんだそれは?」
そうか、ソウラは俺たちが神に関わりがあることは知ってるが異世界から来たってことは知らないんだったな
「こっちの話だ。それよりもお前はちゃんと理解できたのか?」
この世界の人間にゲームとかどう説明していいか分からない、うまく説明できても納得してくれるか分からない。
面倒くさいし説明したくない。
「当たり前だ! お前は私をなんだと思っている! そこまでバカじゃない!」
よし、煽って正解だ。モンキラのことは頭からなくなったみたいだ。バカでありがとう!
「そういやダルトドラゴンの死体ってどうなるんだ? というか今まで倒したモンスターって放置しといて大丈夫なのか?」
なんとも今更の質問だが突然気になってしまった。
「はい、倒したモンスターは周辺のモンスターが処理してくれます」
「モンスターが……処理?」
それってもしかして共食いなんじゃ……
「死体を研究対象として持って帰る場合もあるのですが、そうするとなぜかモンスターが人間に襲う頻度が高くなるんですよね」
なぜかって……それ食糧がないからじゃないか? 死体を放置すればそれを食べる、死体を持って帰ると食べるものが無くなるから人間を襲うってことじゃないのか?
モンスターの世界ってのも案外俺たちがモンスターを倒してるから成り立ってるのか。
「マサト、そろそろ降ろしてもらっても構わない」
「そうか、無理はするなよ」
俺から降りたソウラはふらふらとおぼつかない足取りで歩き始める。
「大丈夫か? まだ回復しきってないんじゃないか?」
「大丈夫だ」
ソウラは胸を張って堂々と歩く。
少し速度が遅いけど。
「そろそろ町に着くからですよ。さすがに恥ずかしいんでしょう」
ナナが小声で耳打ちしてくる。
恥ずかしいか、確かに街中で俺におぶられてる所を見られたら良い気分ではないだろう。
「しかしまあ、無事にダルトドラゴンを倒せてよかったな。これでソウラは冒険者をやめなくて済むな」
「ああ、本当に……感謝しても……しきれん」
ソウラの声が途切れ途切れになっている。
「ソウラお姉ちゃん、泣いてるの?」
ソウラを見てみるとその目は少し滲んでいるように見える。
「な、なにを言っているんだアカネ!? 私は別に泣いてなど……」
ソウラが焦りながら目を指でこする。
それをナナは多少ニヤけながら見ている。
「ソウラさん、こういう時は素直になった方がいいですよ」
「だ、だから別に泣いてなど————」
「おい、もう町に着くぞ。ソウラはこれからどうする? 家に帰るか?」
「あ、ああ。私はもう家に帰る。親に早く報告したいからな。あと、私は別に泣いてなどないからな!」
「分かったよ、お前は泣いてない。そういうことにしとくよ」
ソウラは納得が言って無いというような表情をしている。
意外と可愛いとこもあるんだな。
「じゃあまた明日な。9時にギルドでいいだろ」
「ああ、それでいい」
ソウラと別れ俺たちは宿屋に向かった。
宿屋に着いた俺たちは夕食を取ってすぐにベッドに入り就寝した。




