第18話 「元引きこもりの役割」
さて、どうやって弱点を探るか。
町の奴らから何か情報がないか聞いてみたときにはダルトドラゴンの弱点は分からなかった。
ゲームだと色んな箇所に攻撃を当てつつ、敵の反応である程度弱点は分かったが、俺のステータスと武器じゃたとえ弱点に当たったとしても大した反応は示さないだろう。
全く情報がない…………出来るかな?
「グルアアアアア!」
ダルトドラゴンが俺には見向きもせずに俺とは反対方向にいるソウラへと顔を向け、炎を吐こうとする。
ソウラは今武器を持っていない。手も足も出ずにやられちまう。
「ファイア!」
俺はダルトドラゴンに向かって火球を放ち、ドラゴンの翼に直撃させるがこちらを見向きもしない。
俺の魔法はダルトドラゴンには効かないのか、それとも翼は防御力が高いのか……どちらだとしても今は奴の気をこっちに向けさせるのが先決だ。
「ウォーター!」
俺の手の平から水鉄砲ぐらいの勢いの水が噴射される。
俺の水魔法は今のところ攻撃力は一切ないが、注意をひきつけるぐらいならできるはず。
「グルルル」
背中に水が直撃したダルトドラゴンが顔をこちらに向けてくる。
「ソウラ! お前はアカネから剣をもらえ!」
「了解した!」
ソウラがアカネのもとへと走り出す。
アカネはダルトドラゴンの攻撃をくらって倒れてる。
一応ナナに回復魔法をかけてもらっているが、もし戦えてもソウラのほうが役に立つだろう。
アカネじゃリーチが足りない。攻撃を当てようにもダメージを与えられそうな顔面はアカネじゃ届かない。
かといって攻撃が当たりそうな腹部は弱点じゃなさそうだ。ソウラの剣が背中に突き刺さったままだっていうのに動きに全く衰えがない。
総合的に見てもソウラの方が戦える。
「グルアアアアアア!」
ドラゴンが俺に炎を吐いてくる。
威力は高そうだが、炎を噴く瞬間口の中が炎で満たされるから炎を吐くってバレバレだし、おまけにこんな直線的な攻撃、油断してなきゃ当たりゃしねぇよ。
俺は炎を避けドラゴンに向かって直進する。
「くらえっ!」
俺のナイフがダルトドラゴンの顔面に直撃する。
「…………効いて……ない?」
俺のナイフなど全く意に介さずにダルトドラゴンは俺に噛みついてくる。
俺はそれを避けダルトドラゴンの横に回り込む。
顔面が駄目なら……次は……
「ここならどうだっ!」
俺は尻尾に向かってナイフを突き刺す。
「グルア!」
しかしナイフは尻尾に刺さらずにびくともしない。
そしてダルトドラゴンがアカネを吹き飛ばした時と同じように尻尾を使って攻撃してくる。
「うおっ!」
俺は体を反らしてなんとか尻尾を避けるが地面に寝そべってしまった。
追い打ちをかけるようにダルトドラゴンは瞬時に顔を俺に向け炎を吐こうとしてくる。
「やられて……たまるか!」
俺は炎を吐こうとするダルトドラゴンに向けてナイフを思いっきり突く。
俺がナイフを突くとダルトドラゴンは炎を吐くのを中断し咄嗟にナイフを避ける。
その隙をついて俺は起き上がりダルトドラゴンと距離をとる。
…………なんだ今のは? 俺がナイフを突いたら……避けた?
今までこいつは避けるなんてことしなかったよな。状況的に避けられなかったと考えればそれまでだけど何か違う気がする。
こいつへの今までの攻撃は、確か最初はソウラとアカネが横から攻撃して、次は俺が顔に向けての攻撃、そして尻尾へ、アカネに反撃したが一度も避けたりはしなかった。
俺が咄嗟に突き出したナイフを避けられたんだ。避ける能力はそれなりのはず……なのに今までは避けなかった。
何か、何かが分かりそうだ。つまりこれは……
「グウ……グルアアア」
どこからかダルトドラゴンの声が聞こえる。
俺たちが戦っている奴の声じゃない。この声は、元気のない声……弱っている?
俺が声のした方を向くとそこには10を超える冒険者と無数の剣が突き刺さっているダルトドラゴンがいた。
ダルトドラゴンに突き刺さっている剣は20を超え、それに加えて無数の刺し傷がある。
「あれはまさか……ライの雇った冒険者か!?」
アカネの剣を取りに走っているソウラが足を止め声を上げる。
「マサト! あれはおそらくライの雇った冒険者だ!」
くそっ、あのクズ野郎。本当にやりやがった。昨日の今日で仕事の速いことだな。
ここから町まで、歩いておよそ20分。あの冒険者のペースだと30分はかかりそうだ。
つまりあと30分以内にこいつを倒さなきゃタイムオーバー、ソウラは冒険者をやめライと結婚することになる。
「ソウラ! あいつらは気にするな! 早くアカネの剣を!」
「あ、ああ。分かった!」
再び剣を取りに走り出すソウラ。距離的にあと10秒もかからない。
ソウラが戦えればこいつにもダメージを…………そういやあの冒険者たちはどうやって倒したんだ? ダルトドラゴンに無数の剣が刺さっていたから弱点なんか関係なくパワープレイで倒したのか? あれがダルトドラゴンの倒し方なのか? だけど俺たちにはあんなに剣を持ってない。あいつらの方法は使えない。弱点を探さないと……何か気付けかけたんだ。ダルトドラゴンの戦いの違和感に……
「グルアアア」
俺が考えているとダルトドラゴンが炎を吐いてくる。
さっきまで5秒ぐらいおとなしかったくせにいきなり来やがって……
「こんな炎いくら俺でも当たらねぇよ!」
俺は炎を避けてダルトドラゴンに向かって直進する。
「マサト! 待たせたな」
ソウラが剣を持ってダルトドラゴンに向かっていく。
「ソウラ! さっきみたいにこいつを挟み撃ちにするぞ!」
ソウラはダルトドラゴンの左側に、俺は右側に向かう。
さっきのアカネとソウラみたいにどっちかがやられるかもしれないが、背に腹は代えられない。
…………なんでアカネだったんだ?
あのときこいつを挟み撃ちにして攻撃した時ソウラの攻撃をまるで気にかけずアカネを攻撃した。特に理由なんか無かったのかもしれない。なんとなくアカネを攻撃したといえばそれまでだ。だけど……何か違う気がする……
考えてみるとダルトドラゴンに関して違和感がありすぎる。
この戦いで俺の攻撃を避けた時やアカネを吹き飛ばした以外にも……こいつは以前大量発生してそれを一掃していたといっていたのに誰も弱点を知らないなんてありえるか? ありえるとすればさっきの冒険者たちみたいにパワープレイをしたとかか。
そういえば武器屋の店主にダルトドラゴンの弱点を聞いたときにこんなことを言ってたな。
「今のお前らじゃ圧倒的に数が足りない」
あの時は俺たちのレベルじゃもっと人数がいないと勝てないと言ったんだと思ってたけど、もしかして武器の数が足りないといったのか?
ということはダルトドラゴンはさっき見た冒険者みたいにたくさんの剣を突き刺すのが普通なのか?
「マサト! やるぞ!」
俺はいつの間にかダルトドラゴンの横まで来ていた。
ソウラの声を聞き俺は咄嗟にナイフを振りかぶる。ソウラも剣を振り、ダルトドラゴンを切りつける。今度は抜けなくならないように浅めに切りつける。
俺のナイフはダルトドラゴンの背中には傷ひとつ付けられなかった。
「グルアアアアアアア!」
ダルトドラゴンは傷をつけたソウラに尻尾で攻撃する。
「ぐはっ」
尻尾に当たったソウラはアカネの時と同様吹き飛ばされた。
吹き飛ばされたソウラは不幸中の幸いかナナとアカネのもとに飛ばされた。
「ナナ! ソウラを頼む!」
「マサトさん! 今の私たちでは勝てません! 逃げましょう!」
ナナが必死の声で叫ぶ。
見るとアカネの回復はもう終わってるに見える。
「ナナ、安心しろ。勝つよ」
「マサトさん……」
「お父さん、わたしもたたかえるよ」
アカネはもう戦える状態まで回復したか。だけどアカネには待っていてもらおう。
俺のナイフじゃこいつには傷をつけられない。アカネの剣を貸してもらおう。
「アカネはそこでナナを守っていてくれ。あとこの剣、貸してもらうぞ」
「……うん」
アカネが不安そうに頷く。
「グルアアアアアアア!」
ダルトドラゴンが俺に向かって炎を吐いてくる。
ワンパターン野郎め。お前の攻撃はもう分かったよ。ドラコキッドほどスピードがないから読みやすいんだよ。
それに、さっきの攻撃でこいつの弱点が分かった……かもしれない。
まだ半信半疑だが、おそらくあそこがダルトドラゴンの弱点だ。
弱点が正解で、そこに当てた時のダメージ如何によっては、勝てる。
「いくぞおおおお!」
俺はダルトドラゴンに向かって直進する。
「グルアアアア!」
ダルトドラゴンは直進する俺に向かって口から火球をいくつも飛ばす。
マジかよ。ここにきて新しいパターンとか勘弁してくれよ……だけど、避けられないことはない。
一つ、また一つと火球を避けダルトドラゴンに近づき目の前に立つ。
「グ、グルアアアアア!」
ダルトドラゴンは俺の顔めがけ噛みついてくる。
予想通り、ここに来たら噛みつきに来ると思った。
俺はダルトドラゴンの攻撃を避け横に回り込む。
「ここだああああああ!」
横に回り込んど俺は剣を下から切り上げるように振るう。
「グアアアアアアアアアアア!」
剣がダルトドラゴンの腹部を切り付けると大量の血が流れる。
「やっぱり……そこが弱点かああああ!」
俺は再び腹部を切り付けようとするとダルトドラゴンは立ち上がり爪で切り付けてくる。
「お前、立てるのかよ!?」
俺はダルトドラゴンの爪を剣で受け止める。だがダメージを与えたようで思ったよりも攻撃が重くない。
こいつ、弱点の腹をむき出しにするなんて、なりふり構っていられないってことか。
だけどな、俺だってお前を早く倒さなきゃいけないんだよ。
仲間の為に!
「ファイアァァァァ!」
俺は片手をダルトドラゴンにかざし火球を放つ。
「グアア!」
ダルトドラゴンがのけぞる。
今だ!
「これでとどめだあぁぁぁ!」
ダルトドラゴンの腹部に俺の剣が突き刺さる。
「グ、グアアアアアアアア!」
ダルトドラゴンの叫びと同時に先程以上の血が流れる。
そして数秒後、ダルトドラゴンは地面に倒れ伏す。
「終わった……のか? そうだカード!」
俺は急いでポケットからカードを取り出しランクが書かれている場所を見てみる。
そこにはFではなくEと書かれていた。
「やった……やったんだ…………やったぞぉぉぉぉぉぉ!」
ダルトドラゴンに勝った。まだライは倒してないはず、これでソウラは冒険者をやめなくて済むはず。
「やりましたねマサトさん!」
ナナがソウラに回復魔法をかけながら喜んでいる。
「お父さん、すごくかっこいい!」
アカネも嬉しそうな表情をしている。
「すごいな……マサト……まさか……一人で倒してしまうとは」
ソウラも傷つきながら俺をほめてくる。
「一人じゃない。みんなのおかげで倒せたんだ。アカネとソウラのおかげであいつの弱点が分かったし、ナナがいたから2人を安心して任せられた」
実際俺一人の力じゃどうにもならなかった。色んな要因があってなんとか倒せたんだ。
「とりあえず町に戻ろう。またダルトドラゴンが出るかもしれない」
俺は傷ついたソウラをおぶりナナ達と町に向かう。




