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クリア済みゲームを今度はリアルで救う  作者: エスト
第二章 クエスト生活
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第16話 「レベル上げ」

「とりあえずモンスター討伐クエストを受けつつレベル上げを行う」


「レベル上げに適したモンスターってどんなのですかね?」


 ナナが掲示板を見ながら聞いてくる。


「この町周辺だとヘルドッグが一番だな」


 俺たちはヘルドッグを討伐するクエストを探すが、今現在ヘルドッグの討伐はなかった。


「しょうがない。今日の所はクエストはやめとこう」


「すまないな、私のせいで……」


 ソウラが申し訳なさそうに言う。


「別に気にすることはない。近々レベル上げはする予定だったからな」


 俺はソウラをフォローしつつ武器屋に向かう。

 金も多少稼げてるから新しい武器を買おう。さすがに初期装備のブロンズナイフじゃダルトドラゴンとやるときキツイ。今のうちに新しい武器にしてダルトドラゴンとやるときまでに慣れとかなければいけない。


「ダルトドラゴンと戦えて、かつヘルドッグとも戦える武器っていったら……これか」


 俺は店の中の安物が置いてある場所で、それなりに長さのある剣を持ち上げる。


「剣か……確かにダルトドラゴンにもヘルドッグにも有効だが、いささかパーティのバランスが悪いな」


 ソウラが俺の持っている剣を見ながらつぶやく。


「そうか、なら他の武器がいいか」


 確かに今のパーティですでに剣持ちが2人いる。俺は別の装備の方がいいだろう。


「マサトはナイフの方がよいのではないか? 今までもナイフであったし、何よりマサトは役割的にはナナの近くでモンスターを近づかせないようにすることだろ」


 俺は今までの戦闘を思い出してみる。

 ドラコキッドと戦うときは最初は俺とソウラが先頭に立って戦っていたが、アカネが戦いに慣れるといつの間にか俺は後衛になってナナに近づくモンスターを蹴散らす役になっていた。

 洞窟でヘルドッグと戦っていた時なんかはソウラとアカネが俺の役をこなしつつモンスターを倒していた。

 あれ? 俺が何の装備だろうがこのパーティには関係なくね? ていうか俺いらなくね?


「俺、当分この装備でいいや」


「そうですか、なら早くレベル上げに向かいましょう」


 俺たちはギルドを出て洞窟に向かう。




 洞窟の中、俺たちの目の前に無数のヘルドッグがいる。


「おお! いるいる。経験値がたくさんいるぞ」


「マサトさん、油断しないでくださいね」


「分かってるって」


 どうせ俺はそこまで役に立たないけど


「この数は……さすがに多すぎるぞ」


 ソウラが初めてモンスターに対して弱気な発言をする。


「ナナ、とりあえずあいつらに魔法を放ってみてくれ」


「分かりました」


 ナナはヘルドッグに向けて手をかざし魔法を唱える。


「ファイア!」


 ナナの手からサッカーボールほどの大きさの火球が現れ、その火球がヘルドッグへと向かっていく。


「キャイン!」


 火球が先頭にいるヘルドッグに当たり、その衝撃で数匹にダメージを与える。

 凶暴な見た目とは裏腹に普通の犬のような鳴き声を上げるヘルドッグ。そして数十匹いたヘルドッグのおよそ半数はあとずさる。


「ナナ! 追い打ちをかけるぞ!」


「はい!」


 俺とナナはソウラとアカネの前に立ち魔法を放つ。


「「ファイア!」」


 俺とナナの手から火球が飛ぶ。俺の火球はナナよりもだいぶ小さい、野球ボールほどの大きさ、明らかに弱い。


「キャイン!」


 またも可愛らしい声を上げるヘルドッグ。

 そのうち数体は息絶える。

 ナナの魔法2発でヘルドッグは倒せるのか。これは良い情報を得た。


「ナナ、魔法はあとどれくらい放てる?」


「今の威力なら30発は余裕です!」


 そういいナナは間髪入れず「ファイア!」と叫びヘルドッグへと魔法を放つ。俺も続けて魔法を放つが10発ほどで魔法が撃てなくなる。


「マサト、気にするな。レベル2ならそれくらいが普通だ。ナナがおかしいんだ」


 ソウラが俺の肩に手を置き慰める。

 ナナは回復魔法じゃなくて魔法全般の才能がすごかったらしい。


「ファイアー!」




 ナナが魔法を撃ち終えるとそこには数十匹のヘルドッグの焼死体があった。


「ふう、もう撃てません。魔力切れです」


「ご苦労様、ナナって強かったんだな。魔力水飲んどけ」


 俺は道具屋で買ってあった魔力水をナナに渡す。


「ありがとうございます」


 ナナが魔力水を一気に飲み干す。

 結構な量あったと思うんだが、よっぽどのど乾いてたんだな。お疲れさま。


「よーし、まだまだいけますよー」


 ナナはまだやる気らしい。そういえば初めて武器を買うときナナって結構戦うの楽しみな感じだったな。


「今回私たちの出番は無いな」


 ソウラがつぶやく。


「まあいいじゃないか。俺たちは楽できるし、ナナは楽しそうだし、レベルもこの短時間で上がったし」


 この小1時間ほどで俺とアカネとソウラのレベルが1上がった。直接ヘルドッグを倒しているナナはレベルが2上がったらしい。俺は何もしてないのに今日中にまたレベルが上がりそうだ。

 今回分かったことがある。それは、洞窟のような1本道の場所だと魔法は最強だ。


「ナナお姉ちゃん、かっこいい!」


 アカネがナナの魔法を見て声を上げる。


「ありがとう、アカネちゃん」


 ナナは嬉しそうな表情をして再度ヘルドッグに向けて魔法を放つ。

 アカネは素直な子だし可愛いからほめられるとすごい嬉しいんだよな。

 ……それにしてもナナはいつまで戦う気だろう。ヘルドッグを追いかけてるうちにかなり洞窟の奥深くに来ちまった。


「ナナ、時間も時間だから一旦町に戻ろう」


「えっ!? もうそんな時間ですか!?」


 ナナが驚きの声を上げる。

 楽しいことをしてると時間の流れって早く感じるよな。分かる、分かるぞー。俺もゲームをしていて何度徹夜したことか。


「ギルドで昼めし食ったらすぐここに戻って来るから今はもう引き上げよう」


「分かりました」


 俺たちは洞窟を出て町に向かう。


「しかしこの短時間でレベルが上がるとは思わなかったぞ。魔法使いがいるというのは良いものだな」


「確かに、このペースなら3日もかからずにレベル10になりそうだな」


 実際あのペースならナナは今日中にあとレベルが2か3は上がりそうだ。


「そうですね、私はこの時間でレベルが3も上がりましたからね。もしかしたら明日にはレベル10になるかもしれませんね」


「3!? 2じゃなくてか?」


 俺は驚きつい声を大きくなってしまった。


「はい、魔力水を飲んだ後にヘルドッグを数匹倒しましたよね。その時にレベルが上がったんです」


「確かに最後の方の火球は少し大きく見えたな」


 本当にナナだけなら明日にでもレベル10になってしまいそうだ。


「これならライよりも早くランクアップできるな。ていうかいつのまにかナナはライのレベルに追いついたってことか」


「ふっ、下卑た方法でレベルを上げたライなどすぐに追い越せて当然だ」


 ソウラが忌々し気に答える。


「下卑た方法って、どういうことだ?」


「あいつは雇った冒険者にモンスターを捕獲させ自宅に連れて行き、安全なところでとどめを刺しているにすぎん」


 あいつ、クズだな。そんな方法思いもよらなかった。ていうかそれでレベル5まで上げたってどれだけ捕獲させたんだよ。


「だがまあ今回はダルトドラゴンを自分で倒そうとしてるからまるっきりのクズと言うわけではなさそうだがな」


 そうか、そんな方法もあったか。誰かにダルトドラゴンを弱まらせてとどめは自分で、なんとも簡単なランクアップだ。

 そんなことされたら今日ランクアップされてたな。


「そんなレベル上げをしてたからレベル5でもあんなに弱かったんだな」


 俺はあの日のことを思い出していた。ライはレベル5だというのに俺に簡単に攻撃を避けられ身動きできないうちにナイフを首に突き付けられていた。

 あいつじゃドラコキッド1匹にも負けそうだ。


「まああいつのことはほっとこう。どうせダルトドラゴンには勝てないだろうし、最悪返り討ちになって死んでそうだからな」


 話をしているといつの間にか町についていた。

 俺たちはギルドの酒場で昼飯を食べた後、道具屋で魔力水を大量に買い込み洞窟に向かう。

 向かう前にアカネとソウラに魔法を撃ち、魔法を使えるようにした。

 ソウラは水と風、アカネは火、光、闇を使えた。3つも使えるとはさすが神の作った子だ。




 俺たちは洞窟内で魔法を放ちまくった。それはもう何発も。

 買い込んでいた魔力水もかなり少なくなっている。


「お前たち、そろそろ帰ろう。アイテムも無くなりかけてるし、レベルも十分に上がった」


 今日だけで俺のレベルは5、アカネのレベルが6、ナナとソウラのレベルが7になった。


「順調に行き過ぎているな。怖いぐらいに」


 ソウラがつぶやく。

 たしかにうまく行き過ぎている。だがレベルが上がって着実に俺らは強くなっている。魔法だって15発撃てるようになった。他のみんなもかなり強くなっている。もしかしたらダルトドラゴンに勝てるかも……


「強くなってるんだからいいじゃありませんか。ねぇアカネちゃん」


「うん!」


 アカネは笑顔で答える。

 純粋な子はうまく行き過ぎても疑うってことを知らないんだろうな。


「ところで今何時だ?」


「5時半ですね」


 5時半か。普通はモンスター交代の時間だが洞窟の中だからかそのルールは適応外のようだな。


「さっさともどろう。早く戻らないとダルトドラゴンに出くわすかもしれない」


 俺たちは急いで洞窟を出て町に向かう。


「これは明日にはレベル10になるな」


「そうだな、みんながレベル10になったらダルトドラゴンと戦おう。ライが倒せるわけがないが、早いに越したことはないだろう」


 俺たちが話をしながら町に戻っていると、遠くの方に人影を見かける。


「あれは、冒険者か?」


「2人……でしょうか?」


 ナナの言う通り2人か? 何か違うように見えるが……


「違うな。あれは2人が傷ついていて、担いでいるんだ」


 確かによく見れば、あれはおんぶをしているように見える。


「ナナ、まだ回復魔法は使えるか?」


「はい大丈夫です! 急ぎましょう!」


 俺たちは駆け足で傷ついているだろう冒険者に駆け寄る。


「お前たち、大丈夫…………ライ!?」


 傷ついているのはライとシズクだった。


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