第14話 「最強パーティ」
俺たちは今洞窟内で鉱石を集めている。俺はつるはしをもって鉱石回収、ナナ達3人が俺が鉱石を集めている間にモンスターに襲われないように守ってくれている。
普通男の俺が守る役だよな。なんかちょっと情けなくなってくるな。
「ここのモンスターでも楽に倒せてしまうな。もう少し手ごたえがあると思っていたのだがな」
ソウラがモンスターの相手をしながらつぶやく。
今ソウラたちが相手にしているモンスターはヘルドッグ、ゲームでは推奨レベル3の敵だ。
ヘルドッグは5体、普通ならレベル3のソウラ、レベル2のアカネとナナなら手こずるはずなんだが、アカネはともかくソウラまで基本スペックが高いのか。
「なあソウラ、お前訓練とかしていたのか?」
俺がつるはしを振りながらソウラに尋ねる。
「確かにソウラさんってレベルの割にはちょっと強すぎですよね」
ソウラはヘルドッグの攻撃を見事にさばきながら答える。
「私は幼いころから親に稽古を強制されていたからな。それはもう来る日も来る日も稽古と、当時はうんざりしたものだ」
ソウラが遠い目をしている。どうやら本当につらいものだったらしい。悪いこと聞いちゃったかな。
「だがそれが今の私を作ったのだ。今では親に感謝しているよ」
ソウラの顔が少しだけ晴れやかに見えた。
親に感謝、か。俺も親には感謝しないとな。3年間も引きこもっていたのに親はいつでも俺に優しかったからな。
「ソウラさん、頑張ったから強いんですね」
「ストレートにほめられると照れるな」
ソウラの頬が少し緩んでいる。
俺のパーティはみんな良い奴らで良かった。
「それよりもマサト、鉱石はもう集まったのか?」
「ああ、多分これぐらいでいいはずだ」
「よし、それならばもう帰ろう」
珍しいな、ソウラは結構好戦的な部分があるから夜までいたいというかと思っていたが……
「それじゃあ今日の所はもう帰るか」
俺は手に入れた鉱石をカードの中に入れブロンズナイフを装備する。
「町に戻るまで油断するなよ」
俺は今日モンスターと戦ってないけどずっとつるはしを振っていたからいつもより働いた感があるな。これはこれで気持ちいいけどレベルもあげなきゃいけないからモンスターとも戦いたいな。
町に戻るまでモンスターとは一度も出会わなかった。
くそっ、こういう時に限ってなんでモンスターは出ないんだよ。俺って運ないのかな?
まあ今日は順調にクエストクリアできたからよしとするか。
俺はクエストの報告をしにギルドに向かう。
もう加入クエストの時みたいな失敗は絶対にしない。
そう思い俺はギルドのドアを開けるとそこには大量の冒険者、そして冒険者じゃない一般人がいた。
「なんだこれは!? 何かあったのか?」
俺は近くにいる男に話しかけ事情を尋ねる。
「ヴァテックスだよ! ヴァテックスが来たんだ!」
ヴァテックス? なんだそりゃ?
「ヴァテックスだと!? 最強パーティのひとつと言われているあのヴァテックスか!?」
ソウラが声を荒げる。
「知ってるのか?」
「知らないのかマサト!? この世界でも指折りの人間が集まったパーティだぞ。しかも強いだけでなく名前付きのパーティ、仲間同士の絆も厚い皆の憧れではないか!」
「パーティが名前付きだと何かあるのか?」
「パーティに名前を付けるともう一生そのパーティでなければいけないんです。例えパーティメンバーが死んでもメンバーを足すことは出来ません」
ナナが淡々と答える。
アカネはともかくナナもヴァテックスに驚いてる様子はない。
「で、そのヴァテックスがこの町に何しに来たんだ?」
「なんでもこの町にいる誰かをスカウトに来たらしいぞ」
スカウトねぇ、最初の町の冒険者に最強パーティにスカウトされるようなやつがいるのか?
人ごみの中から強そうな装備の4人が見えた。多分あれがヴァテックスだろう。
「なあナナ、パーティって4人までなんだよな。あのパーティもう4人なのに仲間を増やせるのか?」
「確かにパーティは4人までですが、パーティの下に配下として複数のパーティを入れることができるんです。ちなみに配下は一度なると頂点パーティの了承なしに抜けられません」
なるほど、あの4人はこの町にいる誰かを配下にしに来たってことか。一体誰なんだ?
おそらくヴァテックスであろう4人が人ごみをかき分けて俺たちに向かってくる。
「なんか、こっちに来てないか?」
「まさか、私たちの中の誰かをスカウトに……そんなはずはないか」
ソウラの言う通りそんなはずはないだろう。あるとすればステータス的にも100歩譲ってもアカネぐらいかな?
ヴァテックスは俺たちの、正確に言えばナナの前に立つ。
「やあ、君がナナさんかな? 初めまして。僕はヴァテックスリーダーのレイトです。本日はあなたをスカウトに来ました」
ナナ!? まさかのナナ!? 回復魔法ができるぐらいしかさしたる取り柄のないナナを最強パーティがスカウト!?
「ど、どうも初めまして。ナナです。あのー、私をスカウトって一体……」
「君は噂によると回復魔法を使えるみたいだね。僕たちのパーティやその配下には才能ある人がたくさんいるが、回復魔法を扱える人はいなくてね。君のその力、是非とも僕たちとこの世界のために使ってくれないかな?」
さわやかな笑顔でレイトはナナを勧誘する。
「申し訳ありませんが、私はマサトさんのパーティに入っているのであなたのパーティの配下にはなれません」
ナナが深々と頭を下げる。
その通り。パーティは半年間は抜けられないからナナがレイトの仲間になるのは不可能だ。
「分かっています。ですから、このパーティのリーダーは君かな? マサト君、是非僕らのパーティの配下にならないか?」
笑顔で何言ってやがる。この世界では配下になるってことは普通のことかもしれないが、俺からするとすごく傲慢な言葉にしか聞こえないな。
「悪いけど俺は誰かの下に就く気はないんだ。どうしてもナナと仲間になりたかったら、お前たちが俺の配下になるしかないな」
俺の言葉にレイトの仲間の一人である女騎士が声を荒げ、腰の剣に手をかける。
「貴様、駆け出しの冒険者のくせに、あろうことか私たちに配下になれだと? ふざけるな! こちらが下手に出ていれば調子に乗りおって」
レイトが女騎士の前に手を出し制止する。
「よすんだ。彼らからすれば僕たちは才能ある仲間を奪いに来た、いわば敵だ。このような態度も仕方ないだろう」
こいつ、かなり良い奴だな。強くて優しい、しかもイケメン。こんな奴が世界を救うんだろうな。はっきり言って俺とは役者が違う。
「マサト君、勘違いしないでほしいが僕は君たちを下とみているわけじゃないんだ。形式上では君たちが配下になるというだけで僕は対等な関係を築きたいんだ」
こいつ、強くて優しくても頭はそれほど良くないらしい。レイトの仲間の一人の賢そうな老人が渋い顔をしている。こいつは分かってるみたいだな。
「なあレイト、お前のその理屈だとお前たちが俺の配下になっても問題はないんじゃないか?」
レイトはハッとした顔で一瞬固まるがすぐに笑顔に戻る。
「確かにそうだ! 僕たちが君の配下になれば君を満足させたうえでナナさんとも仲間になれる。ナイスアイデアだね」
ま、眩しい。レイトの笑顔が眩しすぎる。こいつどこまで良い奴なんだよ。配下になってやってもいい気がしてきた。
「レイト、馬鹿なことを言うな! お前はこの世界を救い皆の上に立つ存在、誰かの配下になっていいわけがない!」
女騎士が声を大きくしてレイトに抗議する。
当然だ。レイトは良くてもこの女が俺たちの下に就くとは思えない。
「レイト、わしもそれには反対じゃ。お前が配下になるなどわしたちも、配下のパーティたちも認めん」
「そうだぜ、人がいいのも大概にしろ! お前が誰かの下に就くってことは、お前を認め配下になってきた奴みんなを裏切ることになるんだ!」
他のパーティメンバーが一斉にレイトに抗議する。
「みんな……だけど……」
「だけどもへったくれもない!」
「うう、分かったよ」
レイトはひどく落ち込んでいるようだ。
「おい貴様! レイトの優しさにつけこんで私たちを配下にしようとしてもがそうはいかんぞ! レイトが良くても私たちはお前のことを絶対に認めん!」
「そうだ! 俺たちはレイトにだけ一生ついていくと決めたんだ」
レイトのパーティのでかい槍を持った男と女騎士が同時に俺をにらみつけてくる。老人はそんな二人の態度に呆れている。
「2人とも、この者はわしたちを配下にしようなんて気はないよ。ただ仲間をわしたちに渡さないように言ったに過ぎん。すまんな、マサトとやら」
老人は俺をにらみつける2人を窘め謝罪する。
「なあマサト、別に配下になってやってもいいんじゃないか? 私たちが損することはなさそうだし……」
ソウラが俺に懇願するような態度で言ってくる。
ソウラは意外とミーハーなのかもしれない。洞窟を見つけた時よりテンションが高いように見える。
「損はする。考えてもみろ。こいつらの配下になったらナナはこいつらと一緒に最前線で戦うだろう。そうしたら俺たちが一緒に戦えない」
「むっ、確かにそうだ。ナナがいなければ私も安心して戦えないからな。ナナがいなくなったら防御を考えながら戦わないといかんから困るな」
ナナがいてもいなくても防御は考えろよ。こいつはやっぱ馬鹿だな。
「ナナお姉ちゃん、もういっしょにいられないの?」
俺たちの話を聞いていたアカネが泣きそうな顔で聞いてくる。
「大丈夫ですよアカネちゃん、私はずっとマサトさんと一緒にいます。だからアカネちゃんとも一緒です。約束です。なんなら今私たちのパーティに名前つけちゃいましょうか?」
ナナがアカネを慰めながら俺に聞いてくる。
名前か、俺は別にかまわないな。どうせ皆と最後まで一緒にいるつもりでいたし。ソウラさえ良ければ名前を付けてもいいかもしれないな
「そうだな、私もお前たちとはずっと一緒にいたいと思っていたからな。名前を付けるか」
名前を付けるのは決定か。どういう名前にしようかな……
「話が盛り上がってるところ悪いんだけど、ナナさんは僕たちの仲間になってくれないということなのかな?」
「悪いな、ナナがいなくなると困るんだ。ソウラも存分に戦えないしアカネも泣いちゃって戦うどころじゃなくなる」
「貴様! そんな幼い子を戦わせているのか! この外道が!」
女騎士がアカネを指さしながら俺をにらみつける。
この女、事情も知らないくせに好きかって言いやがって。いい加減俺も怒るぞ。
「お父さんのことをわるくいわないで!」
アカネが女に向かって声を大きくして反論する。
アカネが大きな声出すなんて珍しいな。そんなに俺が悪く言われたことが嫌なのか。泣かせてくれるぜ。
「お父さん……だと? 貴様どう見てもレイトと同じぐらいの年齢だろう。なのにもうこんなに大きな子供を……ふ、不潔だ!」
女の顔がみるみる真っ赤に染まっていく。
お約束だな、こういうキャラはこういうネタに疎いって……
「マサト君、僕もそんな幼い子を戦わせるのは反対だな。いくら人数が少ないからって子供だよ。大人よりも弱いんだ」
「大人よりも弱い? ハッ、アカネは俺らのパーティの中で最強だ! なめんなよ!」
「君たちの中で最強? この子が?」
「ハハハハ、こんな子供が一番強いだと? お前らよっぽどレベルが低いんだな」
槍男が腹を抱えて笑っている。
確かにアカネは子供だしこいつらから見たらまだレベルは低いだろうが、ポテンシャルはそりゃあすごいんだぞ。レベルが上がった時も俺は1だけだったけど、アカネは一気に10以上もステータスが上がった天才なんだぞ。
「失礼だけど、この子のカードを見せてもらえないかな? ちょっと興味が沸いちゃってね」
「アカネ、あの人たちにカード見せてあげてもらえるか?」
「このお兄ちゃんとおじいちゃんならいいけど、ほかのひとはヤダ! お父さんのことわるくいうから」
アカネがそう言いレイトにカードを渡す。
槍男と女騎士は納得がいかないという顔をしている。
「ありがとうアカネちゃん」
レイトはアカネからカードを受け取りステータスを見ると、驚愕の声を上げた。
「なっ、なんだこれは!? 僕たちには及ばないが、このステータスは常人ならレベル30相当……レベルがまだ2!? ありえない!?」
ふっ、驚いてるな。なんたってアカネは神がこの世界を救うために作った女の子なんだ。そんじょそこらの大人より何倍も強いんだよ。
「アカネちゃん! 僕らの仲間にならないかい!?」
「いやっ!」
アカネがレイトからカードを奪い取り俺の後ろに隠れる。
こいつ見境なさすぎだろ。
「す、すまない。つい取り乱してしまった。ごめんよ、アカネちゃん」
「うちの子は人見知りなんだ。あまりグイグイ来られても困る」
「悪かった。しかしすごいね。レベル2でそのステータスだなんて。そちらにいる女性も見ただけで分かる。見事なたたずまい、相当訓練を積んでいるとお見受けするよ。いやはや、見事なパーティだ」
「ふふーん、そうだろうそうだろう。俺の仲間はすごいんだ。良いパーティだろう」
……ん? 俺については何も言って無いな。それに俺のセリフ、うちの父ちゃんパイロット並にダサいな。
「で、お前はどんな力があるんだ?」
槍男が俺に聞いてくる。当然の質問だろう。なんたってこれほど才能ある奴らが集まるパーティのリーダーなんだ。
どうしようか。俺には自慢できるものが何も…………いや、一つだけあった。俺にも誇れるものが!
「俺にはこれがある!」
俺はレイト達にカードを見せる。
「なんだこのステータス、レベル2のくせにそこらへんのレベル1より弱いんじゃないのか? なんでお前がリーダーなんかやってんだ?」
「いやよく見てみるんだ。ステータスは確かに弱いが……スキルがある」
「ほう、本当じゃ。それに……リバース? はて? 聞いたことがないのう」
「お前が知らないだと!? ならばこのスキルはもしやこいつだけのもの……」
「このスキルは大型モンスターさえ仕留める可能性を持っている。どんなものか今見せられないのが残念だよ」
ふっ、驚いてるな。なんたってこのスキルは神からもらった俺専用スキルなんだ。知ってる人間なんかいないだろうな。
…………まあアカネを元に戻すためのスキルだから何の役にも立たないけど……
「どうやら君たちはすごい可能性を秘めたパーティのようだね。君たちはいずれ僕らと同じ最前線に来るかもしれない。その時はよろしく頼むよ」
レイトとそのパーティの一行はギルドを出て行った。
良い奴だったな、レイト。槍男と女騎士は気に食わないけどあの老人は良い奴そうだ。いつかまた会えるといいな。
「まさかあのヴァテックスにほめられるとは……」
ソウラがこれまでにないほど晴れやかな顔をしている。
「それにしてもマサトさん、よくあんな堂々と嘘が言えますね。以前嘘はつきたくないと言っていたのに」
「嘘なんか言って無い。実際あのレッドドラゴンを倒した。神も言っていただろう、元に戻すこと=殺すことだって」
「はあ、そうですか」
ナナが呆れている。自分でもひどい屁理屈だと思う。だけどああ言わなければ俺は馬鹿にされていただろう。それはなんか嫌だ。
「それにしても回復魔法ってそんなに珍しいのか?」
俺の質問にナナではなくソウラが答える
「過去に回復魔法を使えた人間は片手の指で事足りるな」
ソウラの返答にナナが補足する。
「以前回復魔法は才能が必要とは言いましたが、実は回復魔法は天界の女性は全員使えるんです。過去にこの世界で回復魔法を扱っていたのは半分は天界出身なんです」
なるほど、この世界で回復魔法を使えた人間は最高でも3人ぐらいしかいないのか。レイトが欲しがるのも納得だな。
「とりあえずクエストクリアの報告してさっさと帰ろう。みんなの目線が痛い」
今俺は周りの冒険者及び一般人にきつい目で見られている。当たり前だろう。なんたってみんなの憧れであるヴァテックスに自分の下に就けば仲間になってやるなんて偉そうなこと言ったんだからな。
それにしても俺ってパーティメンバーに恵まれていたんだな。この世界では珍しい回復魔法を使えるナナ、幼いころから英才教育を受けさせられていたソウラ、あのグラシャ=ラボラスの力を取り込んでいるアカネ、最強パーティにもほめられる奴らだ。
なんか俺、世界を救える気がしてきた。




