第13話 「マサトとライ」
あれから俺たちはギルドの説明を受けた。ギルドの心得だの長ったらしい話をされたが要点をまとめるとこうだ。
このギルドに加入したことにより世界各地のギルドを使用できること、クエストを受けるときは一人につき10G支払うものとすること、クエストを失敗した時は100G支払うものとすること、もしも同じクエストを受けたものが先にクリアした場合は100Gは払わなくていいということ、ほとんどゲームと同じだった。
ゲームと違う部分はランクアップの方法だけだった。
ギルドにはランクが存在しFからSSまである。ゲームなら特定クエストをクリアするのが条件だったが、ゲームのように同じクエストがいくつもあるわけでは無いこの世界では、特定クエストではなく特定モンスターの討伐がランクアップの条件だ。
今俺たちのカードには裏の一番上にランクFと書かれている。
FからEに上がるにはダルトドラゴンの討伐すること、ゲームでは推奨レベル10、1カ月もあればランクアップできるだろう。
「それじゃあ何のクエストを受けようか?」
俺は掲示板に貼ってあるクエストを俺たちは物色していた。掲示板にはクエストの張り紙が数え切れないほど張り出されている。
クエストの内容は回復薬や魔力水などの素材の採取クエスト、ドラコキッドなどの小型モンスターの討伐クエストが大半を占めていた。
中にはダルトドラゴンのような中型のモンスターの討伐クエストがいくつかあり、大型モンスターのクエストは一つもなかった。
ちなみにランクアップ対象のモンスターの討伐はクエストの受付をする必要がない。討伐すれば自動的にカードが記録し、カードに書かれているFがEになるという。
「とりあえず最初は採取クエストなどでいいんじゃないでしょうか?」
「何を言う、ここはモンスターの討伐だろう。私たちは小型モンスターとはいえ同時に30匹は相手にできる力があるのだ。大抵のモンスターなら倒せるだろう」
「ソウラさん、過信はいけません! 地道にコツコツといきましょう」
「過信ではない、事実だ! 力があるのに地道に行くなど愚の骨頂だ!」
この2人、全く違うタイプだな。方や地道に、方や大胆に、戦闘においてはバランスがいいけど、普段はめんどくさいことこの上ない。
「マサトさんはどうですか? やっぱりここは安全にですよね」
「マサト、我々ならモンスターの討伐が合っている。それにこちらの方が報酬もいいぞ」
うーんどうしたものか、危険なことはまだレベル2だからしたくないけど、討伐の方が金をもらえるしレベルも上がるよな。
「アカネはどんなのがやりたい」
「アカネは、なんでもいい。お父さんといっしょなら」
アカネが俺の手をギュッと握って答える。
おお、嬉しいことを言ってくれるな。でもどんなクエストにするか迷うな。親が夕食何がいいって聞いて何でもいいって言われるのってこんな気分なのかな?
おっ、このクエストなんか良さそうだな。
「まずはこのクエストにしよう」
俺が手に取ったのは採取クエスト。1週間以内に洞窟の中にある鉱石を持ってくるものだ。ちなみにこの洞窟は俺たちが以前アカネと出会った場所ではなく世間でも普通に認知されているものだ。
「採取クエストか、マサトが言うならそれでも構わないが……」
いつのまにか俺がこのパーティのリーダーみたいになってきてるな。ソウラが俺の言うことを聞くなんて。
「ソウラ、そう落ち込むな。確かにこれは採取クエストだけど洞窟の中にもモンスターがいるし、それにほら、ちゃんと見ろ。報酬も結構いいだろ」
「むっ、確かにいいな。そうか洞窟か、また大型モンスターが出るといいな」
あんなもんそうそういてたまるか! 大体あれは神の野郎のせいでいただけで、このあたりには中型のダルトドラゴンとかで最大のはずだっての
「ナナもこれでいいか?」
「はい、洞窟というのが少々気がかりですが、危険じゃないところなんてありませんしね」
良かった、ナナも納得してくれて。
「それじゃまずは道具屋に行って鉱石を取るためのつるはしを買ってくるぞ。ソウラは受付済ませてきてくれ」
「うむ、分かった」
これはナナから聞いた話なのだが、1度クエストを共通の物にすると最低でも半年間はパーティを組み続けなければならないらしい。ちなみに上限は4人まで。だからパーティメンバーが勝手にクエストを受注すると俺たちもそれをやるハメになる。
まあこのパーティでそんな事する奴はいないだろう。ソウラは度々アホな言動をするが無責任な人間ではないだろうし……アカネの時最初逃げたが……
それでも装備品をくれたりとかはしたから信用は出来るだろう。
「つるはしっていくらぐらいかな?」
「武器や防具、道具の値段はゲームと同じはずですよ」
「なら1つ50Gか。荷物がかさばるとよくないからパーティ全員分はさすがに要らないよな」
「道具はカードの中に収納できますよ。武器や防具も入れることは出来ますが何があるか分からないので装備していることをお勧めしますが」
なんだって! そんな某猫型ロボットのポケットみたいな便利機能が!?
「ナナ、そういうことはもっと早くいってくれると助かる」
「す、すいません。この世界では常識の範疇なので説明を忘れていました」
「わぁホントだ! 剣とか盾がスーってはいっていくよ」
アカネが装備していた剣と盾をカードに入れている。
なるほど、収納するときはカードに押し込めば入っていくのか。
「アカネ、ナナが言ってたろ。装備してた方がいいって」
「う、うん。あれ? これどうやってだすの?」
アカネがカードの中に腕を入れようとしている。
「それはね、カードに手をふれて取り出したいものを考えると出てくるんだよ」
「へえ、やってみる」
アカネが集中すると1秒ほどで剣が飛び出てくる。
「わあっ!? すごーい! でてきたよ! お父さん」
「おお、すごいなー。こんな便利な機能があるなんてな」
カードの新機能に興奮しているとソウラの声が聞こえてくる。
「しつこいぞ! 私はお前と関わってる暇などないのだ!」
なんだ、ソウラの奴。何かあったのか?
俺はソウラの方へと行くとソウラは見知らぬ男と口論している、というかナンパされてる感じだ。
「そんなこというなよ。仮にも婚約者だろ」
こ、婚約者! ソウラの奴、お金持ちだとは思っていたけど婚約者までいるなんて……
「そんなもの親が決めたことだろ!」
親が決めた、か。お金持ちにも苦労ってのがあるのかな。
「大体私はお前と付き合う気など毛頭……むっ、マサト」
なんだその、マズいものでも見られたっていう目は。俺は別にお前に普通のことなんて期待してないんだがな。
「マサト、こいつはだな、そのー」
ソウラの動揺した姿なんて初めて見たな。ドラゴンがアカネになった時も落ち着いてたし、神の話も割とすんなり納得してたのにな。
「なんだお前は? ソウラの何なんだ!?」
ソウラと話している男が俺をにらみつけてくる。
ソウラの婚約者だからこいつも金持ちなんだよな。金持ちって心に余裕があるから性格が良いと思ってたけど、こいつは性格悪そうだ。
「何なんだって言われると……仲間?」
「仲間? お前みたいな貧弱装備の貧乏人がソウラの仲間? ハッ、笑わせんな」
こいつ、確かに俺の装備はいまだにブロンズナイフ1本だけど、初対面の俺に貧乏人って……
「おいソウラ、クエストはもう受けたのか?」
「あ、ああ。受けたが……」
「おいお前! まだこっちの話が終わってねぇぞ!」
「それじゃあつるはしも買ってきたからさっさと洞窟に行くぞ」
「無視すんな! この貧乏人が!」
「アカネ、ギルド出るまで耳ふさいどけ」
アカネは俺の言ったことにさしたる疑問もなく握ってあった手を放し両耳に当てる。
うちの娘は手のかからない良い娘だなあ。
「おい! ふざけるのも大概にしろよ。マジでキレるぞ」
もうキレてるだろうに。
「ナナ、ここから洞窟までどれくらいだ?」
俺が聞くと 心なしかナナがちょっと不機嫌そうに答える。
「30分ほどで着くと思います」
ナナは方向音痴だけどさすがに地理の設定に関わっていただけにこういう情報は確かだからな。
俺は町の構造は分かっても実際歩いてどんぐらい時間かかるか分からないから結構助かる。
「ソウラ、結構時間かかりそうだから早く出発するぞ。それにこの男の態度はアカネの教育に悪い」
子供の前でこんな態度をする人間は本当にクズだと思う。神より質悪いよ。
「なんだと!? てめぇみたいな育ちの悪そうな貧乏人が教育に悪いだと? なめてんのか! 」
はいそうです。育ちの悪い元引きこもりです。いや、引きこもってても不自由はしなかったから貧乏では無かったかな?
俺はこいつの言ってることはすべて無視しようと思っていたが、この男にナナが食って掛かる。
「さっきから何なんですかあなたは! これから私たちはクエストに行くんですから邪魔しないでください!」
ナナが本気で怒ってる。
さっきまで戸惑っているだけだったのに急にどうしたんだ? 何か気に障ることでも言ってたかな。
「うるせえ! 俺は今こいつと話してんだ! 邪魔するな!」
「あなたこそ私たちの邪魔です! さっきから聞いていればマサトさんのことを育ちが悪いだの貧乏人だの、あなたにそんなこと言われる筋合いないです!」
もしかして俺が貶されたから怒ってくれたのか? ナナ……なんていい子なんだ。
「ナナ、こんな奴ほっといてさっさとクエストに行こう。こういうやつは無視するに限る。ソウラも、さっさと行くぞ」
「てめえ!!」
男が腰の剣を抜き俺に向けてくる。素人の俺にもわかるぐらい殺気に満ちている。
「決闘だ! 勝った方がソウラを連れていく。受けろ!」
「却下だ」
いまどき決闘って……大体初期装備の俺が真正面から戦って勝てるわけないんだから誰が受けるかってんだ。
「ハッ、俺に無様に負けるのが怖いのか? この腰抜けが!」
「当たり前だ。分かってるのか? 剣は人を簡単に殺すことのできる物なんだぞ。怖いに決まってるだろ」
これだから頭の悪い奴と話すのは疲れる。
俺は男に背を向けギルドのドアへと向かう。
「くそ野郎がああああ!」
男が剣を振りかぶって俺に向かって切りかかってくる。
バレバレだっつの。
「なっ!?」
俺は男の剣を避けすぐさまナイフを男の首に当てる。
感情的になった人間ほど弱い奴はいないな。
オンラインゲームでは対人戦はいつも得意だったんだ。それにネットで色んな護身術の知識とかも知っている。これぐらいの奴なら動きも読みやすくて御しやすい。
これがモンスター相手にできるといいんだけど、あいつら表情読めないんだよな。
「もういいだろう、ライ。今日の所はもう帰れ」
ソウラが男の肩を持ち窘める。
こいつの名前ライっていうのか。
「だ、だけどソウラ……」
「マサトもそのナイフをしまってくれ」
「ああ、もとよりこっちはやる気はないからな」
俺はナイフをしまいライと距離をとる。
「お父さんかっこいい!」
アカネが両手を耳に当てながら俺をほめる。
こんな状況でも俺の言うことを聞いてるって、ああもう、可愛いな!
「マサトさんって強いんですね! かっこよかったです!」
ナナも俺をほめてくる。
可愛い子にほめられるっていい気持だなぁ。ライ、ほんのすこーしだけ感謝しておくよ。
「そんなことない、こいつが弱すぎるだけだよ。それにモンスターとの戦いで分かってるだろ。俺がパーティ最弱だって」
身体能力はアカネに遠く及ばない。魔法もナナに及ばない。武器の扱いもソウラに及ばない。今後の伸びも期待できない。俺は自他ともに認めるパーティ最弱なのだ。
「いいえ、マサトさんは強いです。ソウラさんとアカネちゃんが群を抜いて強いだけで、マサトさんも身体能力はそれほどでもないかもしれませんが頭の良い戦い方をして十分な強さを見せてると思います」
人をほめるときは駄目な部分も言いつつ良いところを言うと素直に認められるんだな。覚えとこ。
「マサトよ、ライは一応レベル5なんだ。その……それぐらいにしといてやれ」
レベル5!? これで!? こいつも俺と同じで才能がないのか?
見るとライは俺に敵意を向けつつも落ち込んでいるように見えた。そりゃそうだな。間接的にソウラやアカネより弱いって言われてるようなもんだしな。
「ソウラ! なんでこんな男とパーティなんか組んだんだ!?」
こんな男って……今さっき無様な姿を晒しておきながらよく言えるな。ある意味すげえわ。そのメンタル尊敬するよ。
「別に私は誰でもよかった。たまたま仲間がほしいときにマサトたちが仲間を募集していただけだ」
そうだとは思ってたけどはっきり目の前で言われるとちょっとショックだな。
「ではみんな、待たせてすまなかったな。クエストに行こう」
ソウラがライに背を向け俺たちに近づく。そしてソウラは俺の耳に口を近づけ囁く。
「あの時は誰でもいいと思っていたが、今はマサトで良かったと思っているからな」
……ソウラ、今までのお前のアホの部分を見てなかったら思わず惚れてたかもな。




