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クリア済みゲームを今度はリアルで救う  作者: エスト
第六章 モンスターとの戦争
112/115

第112話 「最後」

「グア……ハッ……!」


 マキナの拳が俺の腹にめり込んだ。そしてその勢いのまま吹き飛ばされ、俺の体が壁にぶち当たる。

 たった一撃で5メートル以上も飛ばされた。さらにレベルが上がっているはずなのに、体の芯まで届くダメージが俺の体全身を駆け巡る。

 ……これ、やべえな。


「対象の生存を確認、危険度をCからBへと上げます」


 そう言ったマキナの体から、無数の管が出現した。先端が尖っており、明らかに殺傷目的のために作られた武器だ。

 そりゃそうか。神を殺すための兵器、それになんの武器も備え付けられていないわけがない。


「くそっ……俺は、求め……」


「阻止」


 スキルを発動しようとした瞬間、2本の管が俺を襲ってきた。顔面を捉えた正確無比な攻撃、俺はそれを避けるために、首を思いっきり横にずらす。

 ギリギリのところで避けた俺は、管が突き刺さった壁を見やる。


「ははっ、すげえな……」


 壁にはきれいな丸い穴が出来上がっていた。これを顔面にぶち込まれていたら即死は確実。まったく、危険極まりない。

 しかも今のタイミング、俺のスキルを阻止しようと動いたものだ。自分でも阻止と言っていたし、グレムウルフの時と同様、俺のスキルは完全に把握されている。

 俺以上のスピードを持つ敵相手には、このスキルは全く使えねえな。


「これ、どうやって勝てってんだよ」


 よろよろと立ち上がる。最初の拳でもらったダメージが後を引いており、十全に動ける状態ではなくなった。

 それでもレベルのおかげか、以前の俺よりかは動ける。

 まだダメージが致命的なものとなっていない段階で、勝負に出なければいけない。


「行くぞマキナ!」


 俺は地面を思いっきり蹴り、マキナとの距離を一気に詰める。ステータスで下回っている俺に、持久戦の選択肢はない。

 速攻でケリをつける。それが俺の取れる唯一の選択。

 だが唯一の選択が、正しいものとは限らない。それが最も最善であるだけ、正解というわけではない。

 機械であるマキナには油断を誘うことも出来ず、ただ粛々と倒される運命。どのような行動をとったところで、俺に勝ち目がないことぐらい分かっている。

 それでも、立ち向かう理由がある。

 神に頼まれたからではない。俺には俺の、願いがある。

 これがおそらく俺の人生で最後の時、願いをかなえるために、俺は俺のために行動するのみ。


「うおおおおおおおおおお!」


 己を奮い立たせるように、叫び声をあげてマキナへと襲いかかる。

 たとえ勝てなくとも、命を懸けてマキナと戦う。

 その果てに確実な死が待っていようとも、戦う理由がある以上、俺は立ち向かう。


「うおおおおお――――!」


 立ち向かった俺に、マキナの武装が突き刺さる。

 横っ腹がえぐられた。右肩を貫かれた。

 他にも数え切れないぐらいの傷が、俺に刻まれた。


「あっ……あぁ……!」


 激しい痛み、だが叫び声をあげることすらできない。

 体から流れ落ちる血が、止まらない。

 ああ、致命傷だ。


「容赦……ねえな……」


 息も絶え絶え、体から力が少しずつ抜けていくのが分かる。あと数分もしないうちに、俺は死ぬ。


「対象の危険度、Dに低下」


 Dか。それはちょっと過大評価しすぎじゃないかね。それとも、デッドのDか。

 やばい。もう気力がなくなりかけている。

 意識が遠のきそうで、体中の体温が低下していくのが分かる。


「消去」


 マキナが無慈悲な声とともに、俺へのとどめを刺しに来る。

 首を刎ねるための手刀が、俺の首を完ぺきにとらえている。

 ……死んだか。


「……いや……まだだ!」


 俺は残る力を振り絞って身を捻り、マキナの手刀を躱した。まだ、俺の体は動く。

 地面を蹴って移動もできる、左腕も、手がなくとも殴ることが出来る。

 体に穴が開いてても、こうして動くことができる!


「最後まで、粘らせてもらうぞ」


「……対象の損傷、スキャン…………エラー。動くことは、不可能……」


「……そんなの、俺にだってわからないんだ。お前に分かるかよ!」


 死ぬダメージを受けて、それでも立ち上がれる理由なんて、しるか!

 だがこうして立ち上がれて、そして動ける以上、俺の取る選択肢は一つしかない。

 動けるまで動き続ける、戦えるまで戦い続ける。

 死ぬまで生き続けることこそが、俺の生きざまであり、死にざまだ。

 もはやそこに思考はない。あるのはただ一つ、意地だ。


「どうだ? 何もわからないんだったら、全力出してみるか?」


「……不許可。エネルギー総量から計算、全力の価値はなし」


「……なんか、ショック」


 機械的な口調とはいえ、価値無しと断じられるのは少々堪える。

 ははっ、どてっぱらに穴あくより、こっちのほうが辛いなんてな。


「さあ、最後の勝負だ。全力で行かせてもらうぜ!」




 それから何分経っただろうか。

 自分でも生きていることが不思議だ。もう意識がなくなってもいいのに。もう膝をついてしまってもいいのに。なぜか俺の体は倒れない。

 痛みがないわけではない。正直泣き叫びたいほど痛いし、終わっていいんだったら終わってしまってもいいと、そう思っている。

 意地だなんだと言ってどうにかなるレベルはとうに超えているはずだ。それは、俺が一番よく分かっている。

 だからこそ、他人から見ればもっと不可解な物だろうな。


「エラー、エラー、エラー、エラー、対象の行動は不可能。死は確実」


 エラーという単語を繰り返し述べるマキナ。それでも俺の攻撃に対しては的確な対処をして、さらなる致命傷を負わせて来る。

 俺は心臓と脳、この2か所にだけは絶対に攻撃をくらわないようにしている。もはや死ぬことは確実なのに、意地汚く生き抜く。


「まだ……だぁ……!」


 体中の体温が低下している。まるで雪山で遭難でもしているんじゃないかと錯覚するぐらい、体が芯まで凍える。

 寒い。寒い。寒い。

 もう楽になってしまいたい。そう思っているのに。

 最後の最後、たった一つしたいことがあるから、まだ死ねない。

 手を伸ばし、俺は求め続ける。


「っ……! おか……しぃ……! 対象の損傷率、92%。生存確率、0%! なのに、なぜ生きてる!」


 さきほどまでの機械的な口調がだんだんと荒々しいものへと変わって言っている。

 全てを理解できる機械だからこそ、今のこの状況が理解できない。もう死んでいるはずなのに、生きていることがおかしいことのはずなのに、俺はまだ生き続け、マキナに立ち向かっている。

 その俺の無駄ともいえる行動が、マキナの中の何かを、確実に壊していた。


「早く……死ね!」


 マキナの攻撃が、俺の攻撃の対処から俺を殺す物へとシフトした。

 心臓を穿つ攻撃、脳を粉砕する攻撃、そのどれもが確実に殺すためのものだ。一度でも喰らえば死は免れない。

 だがそれも、喰らえばの話だ。

 機械であるはずのマキナは今、激昂している。油断など微塵も見せなかったマキナの攻撃は、単調な物へと変わっている。

 いかに圧倒的なステータスを誇り、いかに俺が死に際に瀕しているといっても、そのような攻撃をくらうほど落ちぶれてはいない。

 相手の攻撃を見極め、対処する。それは誰にも負けることなど微塵も考えたことのない、ゲーマーである俺の専売特許だからだ。


「当たらねえよ……」


 よろよろと、酔っ払いの動きにさえ見えるのに、マキナの攻撃を淡々と避け続ける。


「エラー…………エラー……エラー。エラーエラーエラーエラーエラー!」


 マキナの攻撃が止んだ。頭を抱え、苦しみにもがいている。

 一体何が起こったのか、俺には知る由もない。

 だがこれは、紛れもないチャンスだ。

 俺は左腕を伸ばし、マキナの体に触れる。


「っ……!」


 苦しみながらも、俺に触れられたマキナは即座に反応し、俺の腕を振り払おうとした。

 しかし、


「やっと……触れた……」


 俺がそう言うと、マキナの動きが止まった。


「……不可解。対象に攻撃の意思、感知不可」


「そりゃ……そうだ。攻撃する気……ねんだから……」


「……意味不明。先の攻撃、まるで意味が……ない」


「意味ならあるさ。こうして、マキナを抱けた」


 右腕は動かず、左手もない。

 残ってるのは左腕のみ。

 それをマキナの背に回す。


「目的は……果たした」


「もく……てき? これが? り、理解……不能……理解不能。処理機能に、重大な欠陥を確認。バックアッププログラムを、起動」


 なんか、言ってるな。

 だけどもう、耳もうまく機能しない。

 目もあまり見えないし、五感があまり働いていないんだ。

 だけど、ギリギリのところで、触覚は機能している。

 マキナの肌の感覚は、ちゃんと俺の腕に、体に、伝わっている。

 マキナの体は機械のはずなのに。いつだったか触れたこともあって、その時はひんやりしてたのに。

 ああ、今は……。


「あった……かいなぁ……」


 機械に確かなぬくもりを感じながら、俺は死を迎えた。


「……………………マサト?」


 マキナの声だけが、部屋に響いた。


次で最終話です。

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