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クリア済みゲームを今度はリアルで救う  作者: エスト
第六章 モンスターとの戦争
111/115

第111話 「神の覚悟」

 目の前にいる少女、その存在を俺はまだ信じることが出来ない。

 呆然とする俺に、含み笑いでイースが言う。


「紹介するわ。神殺しの兵器、デウス・キル・マキナ。通称、マキナよ」


 混乱する思考に、さらに追い打ちをかけるかのようにイースは言葉を並べる。


「私があなたを知ることが出来たのが、この子から全部話を聞いていたから。この子には来たる人間との戦争のためにあの場所でモンスター達の世話を秘密裏にしてもらっていたんだけど、偶然あなたと出会ってしまった、というわけよ」


 イースの説明が、右から左へ流れていく。

 もはや俺の頭はすべてを理解できるほど冷静でいられない。

 それでも、混濁する意識でいながら、精一杯の声を出す。


「マキナ……」


 俺がつぶやくと、マキナが俺の方を凝視して、こう言った。


「対象の分析を開始…………殺害対象、マサトと認識」


 機械的な声でマキナは淡々と述べた。俺の名前を、俺のことを……殺害対象と。

 目の前のマキナには、以前の感じたものがまるでない。前は無表情であったものの、態度や仕草には他者への関心が寄せられ、時に優しさを感じることもあった。

 だが今のマキナには何も感じない。

 心などもたない、ただの機械としか俺の目には映らない。


「ようやく絶望したわね。そう、あなたを親切に看病していたこの子は、本当は私の所有物。つまり、敵だったのよ!」


 イースは俺の呆然とする表情を見て、歪な笑みを浮かべた。

 俺という存在の、心の芯を砕いてやったと言わんばかりの、勝利の笑みだ。


「主様、対象の殲滅を開始しますか?」


「いいわよ別に。もう私に立ち向かう意思なんかないだろうし」


 俺への興味を無くしたイースが、自身の懐からスイッチを取り出した。

 それを見て喜びに打ち震えるイース、あれがおそらく、この世界を特異点と化するものなのだろう。

 だが俺には、もはやそれを止めようという気が起きない。

 初めて好きになった人、それが実は俺の敵だった。

 世界を壊そうとする奴の所有物、その絶望が、俺の意思を完全に打ち砕いていた。


 あの時のマキナのやさしさは、嘘だったのか?


 俺がマキナに対して抱いていた感情、それがすべて否定されたような気がして、立ち上がる気力すらも沸かない。

 俺の気持ちはただ一つ、悲しみだけだ。


「さあ、特大の祝砲をあげましょうか」


 絶望する俺を完全に無視し、イースは手元のスイッチに指を置いた。

 世界が終わる。

 この世界のすべての人間はイースの野望の捨て駒となり、無に帰すのだ。


 イースは力を込め、その絶望のスイッチを押そうとした瞬間、


「それはさせないよ」


 一人の男が現れた。

 どこからともなく現れた男の声は、聞き覚えがある。

 声に重みがなく、人の上に立つ存在だというのに威厳の欠片もない声。

 この状況でも軽薄さを感じられてしまうその声の正体は、神だ。


「ふー、さすがに疲れたね」


 額にうっすらと滲む汗を拭い、神は飄々とした態度でその場に立ち尽くしている。

 それを見たイースはスイッチを押すのも忘れ、目の前の神をただ茫然と見ている。

 それはまるで、俺がマキナを見た時のような感じだ。


「な……なんで……」


 ワナワナと震え、神を指さすイース。呆然とした表情には徐々に怒りが灯っていき、数秒もしないうちに激情を神へとぶちまける。


「なぜあなたがここにいるの!? 何もできない能無しのクソ神が! どうしてここに!」


 怒りに満ちたその表情には一切の神々しさが感じられず、醜悪な女の顔となっている。

 それほどまでに神への憎悪は深いということか。

 その激しい怒りに、神は普段と変わらない様子で応える。


「なんでって、さすがにこんな状況になったら出張らなきゃ。これでも一応、神だった(・・・)からさ」


 神、だった?

 そのおかしな言い回しに、カラとなっていた俺の脳内にほんの少しだが、思考が戻る。

 神は規約違反を犯したことにより、中枢の判断でこの世界に降りることが出来なくなった。なのにこうしてこの場に現れた。

 その疑問は、神が即座に解決する。


「君を裁くために、神の力は捨ててきた」


「神の力を……捨てた?」


 その言葉にイースが、怒りに満ちた表情をポカンとさせ、間抜け面を晒した。


「大変だったよ、神の力を失いながらこの世界を降り立つのは。久々に自前の力を使ったから、肩こっちゃった」


 神は肩を回しながら中年のような仕草をする。

 かなり重大なことを言っているはずなのに、相変わらずのこの態度、それにイースは再び怒りを取り戻す。


「神の力を捨てたって、どういうことよ!?」


「どうもこうも、僕は神だから中枢のプロテクトを受けてこの世界にこれなかった。だから神の力を捨てて、そのプロテクトを外した。ドゥーユーアンダスタン?」


 あくまでも軽薄な態度を変えない神。

 その先も飄々と説明を続ける。


「腐っても神になった僕だ。神の力を失っても、ある程度のことは出来るんだよ。普通の天界人なら神や中枢のサポートを使ってなんとか下界に降り立つことも、僕ならできる。だからこうして君の暴走を収めに来たわけさ」


「……待って。神の力を捨てたなら、次の神は誰よ!?」


「イスタ君だよ。彼は僕が神になった後も見捨てずにいてくれた数少ない天界人だ。能力も優秀、彼以上の適任はいないと判断したわけ」


「イスタか。ちょっと面倒だけど、やることに変わりはないわ」


 神の話を聞いて、イースは再び余裕の笑みを取り戻した。

 手元のスイッチに再び力を込め、この世界の得意天下を目指そうとする。

 神……否、元神が出張ってきても、計画に支障がないと判断してのことだろう。

 だが神は、イースの行動を封じる手を用意していた。


「天界中枢、位置情報、a88-e32、情報照合」


 神が何かを唱えた。いや、唱えたというよりは、連絡したという表現の方が正しいか。

 そのよく分からない言葉を述べた後、異変は起きた。


「な、なによこれ!?」


 イースの体がまばゆい光に包まれたのだ。

 あの光は見覚えがある。神が俺を転送するときによく見た光だ。


「不思議だったんだ。君がどうしてこんなことが出来たのか」


 慌てふためくイースと呆然とする俺を放置して、神は説明を始めた。

 その顔に、いつもの軽薄さが感じられなかった。


「君はこの場に特殊な結界を張り、中枢の発見を阻止していた。ずっとそう思っていた。だけど違った。君は自分の個人情報を天界から抹消した。だから、罰せられなかった」


「ま、まさかあなた……!?」


「そう、君のデータを復旧し、この場に天界規約を違反した天界人がいるとリークしたのさ。君は間もなく天牢に送られる。データの復旧とともに君のやろうとしたデータも中枢は拾い上げた。罪の重さから考えて、懲役3万年はくだらないだろうね」


「ふ、ふざけるなああああああ!」


 イースは元神に向かっていき、拳を振り上げた。

 圧倒的な力を手に入れたイースの速さは俺なんかの目には全く映らず、神もまた、身動き一つ取ることすらできなかった。

 だがイースの最後の攻撃も、無に帰った。

 当たる瞬間に、消えうせたのだ。


「さて、あとの問題は、君か」


 元神がマキナの方を見た。

 物色するように眺め、嘆息する。


「君には悪いことをしたね。僕とイースのせいで、心を完ぺきに失った。本当にすまなかった」


 それは心からの謝罪の言葉だった。

 深々と頭を下げ、神は俺の方に振り返った。


「マサト君、彼女は僕が作り上げた、人間をベースとした兵器だ。昔は人の心もちゃんと持っていたが、イースによってそれをすべて消去された。あの兵器を、止めてくれ」


「そんなの……」


「あれは、マキナは……イースだけじゃない。僕とイースの罪の結晶だ。本来なら僕が何とかすべきことなんだろうけど、もう時間がない」


 そう言うと、神の体が光に包まれだした。


「なにが……?」


「僕も天界違反を犯した。神でもないのに勝手に下界に降りた。まあイースよりも軽い罪だけど、懲役刑は免れない」


「それって……お前、自分を犠牲にしたのか?」


「まさか。自分で自分の尻拭いをしただけだ。これは犠牲とは呼ばない。端的に言うなら、天罰? 神様に対しての」


 ハハハと笑い、神は笑顔を見せた。

 すぐあと、神は真剣な顔に戻し、俺に頭を下げた。


「マサト君、頼む。僕の犯してしまった罪を、雪いでくれ。本当に身勝手な話だけど、マキナはどうにかしないといけない。そうしないと、イースのインプットした情報通りに、人間の虐殺を始めるだろう。大丈夫、君ならできるさ。なんたって、神が選んでこの世界に送った、勇者なんだ」


 消える直前、満面の笑顔を浮かべて、神は消えて行った。

 この空間に残ったのは、俺とマキナ、ただ2人だけ。


「主の消失を確認、行動を事前入力行動に移行。人間の虐殺を開始します」


 マキナは無慈悲にそう言い放った。

 そして、俺を襲いに来るのではなく、別の場所へ移動しようとする。

 おそらく、人間を殺しに行くのだろう。俺のような無能ではなく、人として脅威になりうる存在を。


「……ハハハ、好きな女に無視されるのって、堪えるな」


 自虐的に笑いながら、俺は立ち上がる。

 歩みを進めるマキナを止めるため、ボロボロになっている左腕を構える。


「ファイア」


 左腕から放たれた火球が、マキナのすぐ横を通り抜ける。

 マキナはゆっくりとこちらに振り向き、機械的な口調でこう言った。


「対象を敵個体と認識。破壊します」


 マキナが俺に驚異的なスピードで向かってきた。


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