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クリア済みゲームを今度はリアルで救う  作者: エスト
第六章 モンスターとの戦争
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第103話 「10000年と10000万年」

 移動を始めて5時間、俺はとある街の真ん中で立ち往生していた。


「……なんだ……これ?」


 目の前には巨大な建造物。塔のような、何の飾り気もない無骨な1本の巨大な柱が立っていた。

 ゲームには無かった。ここまで巨大な建造物は始まりの街のタストにしかなかったはずだ。いや、ゲームのタストでさえ、これほど巨大な物はなかった。

 この建物はこの世界の、俺が知らない物だ。

 普通ならこのような建物、興味を引き立てられ探索をしていたかもしれない。だが、今は急を要する状況、気にかかるものの無視が得策だ。

 と、俺は柱に沿ってぐるりと回り、迂回しようとした。

 だが一定の距離を歩いた時に、問題が起こる。


「うおっ!」


 突如、電流のようなものが走った。

 目の前には何もない。電気の膜が張っているわけでもなく、何らかの装置が設置されているわけでもない。一切の無駄なものが排除された、完全な無だ。

 それなのに、俺の行く手を阻むかのように目に見えぬ電撃が壁となって立ちふさがる。

 柱から離れて前に進もうとしても同じだ。どうやらある一定の地点を境目に、この電撃が地平線の彼方にまで及んでいる、そう考えても差し支えない。

 ならば、俺がとるべき道は自ずと限定されていく。

 見覚えのない建造物に、目に見えぬ電流の壁、この2つが無関係とは俺には思えない。何かしらの因果関係がある。そう考えた。

 無論、何の根拠もない考えだ。だが感じた。この建造物に何かあると。

 言ってしまえば、ゲーマーの勘というやつだ。


 俺は塔の入り口まで急いで戻り、中に入ろうとした。

 その時、入り口付近にはこう書かれていた。


『蟲毒の塔』


 蟲毒。

 確か、1か所に毒虫を集め、その毒虫たちを戦わせて残った毒虫が最強の毒虫だ、というものだった気がする。

 この文字を見て最初に考えたのが、イーバ達レイ教だ。あいつらのやったことは、どことなく蟲毒に似ているかもしれない。

 同類の人間を殺し、自らが最強になろうとしたイーバ達は、蟲毒と同じと考えても問題ない。

 そんなことを考えながら、俺は塔の中に入る。

 塔の中は暗かった。申し訳程度に照明は設置されているものの、目を凝らしてみなければ何がどうなっているのか、それを認識することも困難だ。

 そして足を踏み入れた途端、唐突に声が響いてきた。


『ようこそ、蟲毒の塔へ!』


 明るく歓迎ムード満載の声が、薄暗いこの塔とは非常にミスマッチだ。

 俺は身構え、周囲に敵がいないかを探る。


『そこの君、もしかしてマサト君なのかな?』


「……そうだ」


 姿の見えない何かに、返事をする。声のした方を見てもそこは天井。てっぺんが見えないほどの長い長い天井があるだけ、モンスターの一匹すらも見当たらない。

 警戒を続ける俺に見えない何かはなおも語り続ける。


『君だけが来たか。それは予想外だったわ』


「お前は誰だ! どこにいる!」


『慌てない慌てない。今からちゃんと説明するから、安心しなさい』


 軽薄な口調が俺を苛立たせる。この雰囲気、覚えがある。まさしく神と対話するときのようなそれだ。

 どんな時でもマイペース、空気を読むことの欠片も知らないバカとの対話そのものだ。


『まず、自己紹介でもしておきましょうか。私こそ次の神になる存在、天界に住む美の女神と呼ばれた、イースよ!』


「……天界?」


 聞きなれた、だがこの場所では聞くはずもないはずの言葉が俺に疑問符を浮かべさせる。


『そう、私は天界の天使。正確には元だけどね』


「ちょ、ちょっと待て! 天界の天使? それって、受付の人やナナみたいな?」


『そう! 私は数十年前に神と袂を別ち、離別した天使! そして天使でありながらモンスターとともにこの世を統べる存在よ。モンスターの十の幹部の1人、イースとはこの私の事よ!』


「お前あの時に宣戦布告した奴か!」


 今の声と過去に聞いた声の記憶が一致した。

 あの時、ほんの一瞬だが神々しいと思った見目だけ麗しい女、あいつが今俺と話している。

 これはこれで望むべき状況、今までの、そして今わき上がった疑問をぶつける時だ。


「お前、どうして俺を殺すとか言った! なぜアカネを攫った! 天使なのに、なぜ人間を襲う!」


『そんなにいっぺんに聞かないでも、ゆっくりと教えてあげるわ。まず一つ目、あなたを殺す理由は神の使いだから。二つ目は、私は関係ないわ。モンスターどもが欲しいっていっただけ。三つ目、あの神がきらいだから。以上、あなたの質問には全部答えたわ』


 あまりにも簡素すぎる答えで俺からの質問を打ち切ろうとした。

 だがそれだけで納得できるはずもない。

 もっと深く、根掘り葉掘り聞きたいのだ。


「アカネに関しては、知らないならしょうがない。だが残りはもっと細かく説明しろ。あの神を嫌う理由は分からないでもない。だが、それだけでこんなことをするのか? もっと深い理由があるんじゃないのか?」


『……そうね。あの神がきらいでも、私は我慢しようとしたわ。神の任期は1万年。人間からすれば途方もないかもしれないけど、天界の人間からすればそこまででもないわ。人間で言えば10年ぐらいっていったところかしら』


 桁違いの数字を聞かされて理解できかねるが、それでも何とかその事実を頭に叩き込む。

 神は1万年ごとに入れ替わる。


『でもね、あの神があまりにもダメダメだから、特別処置が施されたの。それが機械を利用してシステマチックに神の業務をこなすというもの。神はこの機械のおかげで、要所要所でしか力を行使できないようになったわ。まあその要所要所は結構重要なことだから、神の重要性が損なわれてるわけじゃないんだけどね』


「それは知ってる。神が自分で言ってた」


 ホームレスにカードを渡してもらった時だったかな。その時に天界のシステムの一端について、何となく察した。

 神が無能、ゆえに感情のない機械に任せることにしたと。


『でもね、その機械が完成した時に、問題が起きたの』


「問題?」


「機械には神とその神の任期も登録する必要があったの。そうしないと機械が神の力を行使できず、意味のないものになるからね。で、その任期を設定するときに問題が起きたの。……設定する時の期間の単位は、年ではなく万年だったの」


「…………もしかして……」


 アホみたいな推論が組み立てられた。それはあまりにもアホで、規格外な失敗。

 目も当てられない究極の間違い。


『設定をするとき、10000万年にしてしまったの』


「バカじゃねえの!?」


 10000年と10000万年じゃ違い過ぎる。

 1万年と1億年ということだ。それは……こんな凶行をしても仕方ないと思ってしまう。


「でも、機械だろ? 設定のし直しとかできなかったのか?」


『そんなポンポン変えることが出来たら危険よ。機械をいじくれる者が思い通りに神を変えることが出来るってことだから』


 確かにそうだ。神が誰か、その神がどれだけ神をやるか、その設定を変えられるようにしてしまえばどんな存在にすら神になるチャンスが出来てしまう。

 それは危険すぎる。もしも自分勝手な奴が神になってしまえば、この世の終わりと同義だ。


『だから私は、あの神を殺し新たな神になり替わる! 神の設定を変えられなくても、今の神そのものがいなくなってしまえば設定を変えられるかもしれないから!』


「……気持ちが分からんでもない。だが、ならどうしてこの世界の人間を襲う? モンスターの力を借りれているお前には、力を求めることは必要ないはずだ。それに最終目標が神の殺害なら、この世界を焼け野原にする意味もない」


『意味ならあるわ。この世界を無茶苦茶にし、システムをこの世界に介入させる。それに乗じて神を殺しうる兵器を天界に送り込む。それが狙いよ。元々神を殺すと考えてもあまり現実味のない話だった。だけどあるときに理想は現実になりえた。神が趣味で作った兵器、それを神はゴミのように分解してこの世界に廃棄したの。私はそれを好機ととらえたわ。この世界に存在する受付嬢たちのようにこの世界に降り立ち、神の元から離れたその兵器を利用して神を殺すと決めたの』


「やっぱ神のせいかよ!」


 全く持って擁護できない。

 完全な自業自得。自分の行いのせいで今こんな状態に陥ってしまっているということだ。

 あいつのせいでこの世界は危機に陥り、自分の身すら危険にさらしている。


『これが私の行動理由よ。分かったかしら』


「呆れてものが言えねえよ」


 どこまで行っても神の無能さが原因であることに嘆息する。

 ほんとどうしようもねえな、あの神は。


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