第1話 「理不尽な異世界転生」
俺の名前は正田勇人、18歳。3年前から引きこもっている。今もパソコンを使ってオンラインゲームをしている。
「ついに……ついにここまで来た。こいつが最後のモンスター、グラシャ=ラボラス。こいつを倒せばモンスターキラーのモンスター全てコンプリートだ!」
俺が今やっているゲームは『モンスターキラー』、通称モンキラ。300を超えるモンスターを様々な武器を用いて倒す世界でも大人気のオンラインゲーム。
俺はマサトというプレイヤーネームで1年前からプレイしている。
「こいつを倒せば俺が世界で最初の攻略者だ! ぜってーぶっ倒してやる!」
…………3時間後
「や……やった……ついに……ついに倒した…………グラシャ=ラボラスを倒したんだぁぁぁ!」
長かった。まさに死闘だった。アイテムも底をつき何度諦めかけたことか。
ていうか強すぎだろ。なんだよ攻撃くらえば体力の90%もっていきやがるわ、そのくせこっちの攻撃は弱点以外じゃノーダメージで、弱点殴っても全然体力減らないし、マジで反則だろ!
……だけど勝ったんだ。この反則級のラスボスを、俺一人の力で倒したんだ。
「よっしゃ、早速みんなに知らせてやろう! 思いっきり自慢してや……ってもうこんな時間か。これじゃ誰も起きてないか。しょうがねぇ、今日はもう寝て明日自慢すっか」
俺はゲームの電源を切り3日ぶりにベッドに入った。ラスボスを倒しテンションが上がり、なかなか寝付けないと思っていたが、3日完徹の俺はすぐに寝入った
…………そして俺は2度とこの世界で目覚めることはなかった。
「ん……んー……あーよく寝たな。今何時だ?」
俺は目をこすりベッドの横に置いてあるはずの携帯をとろうとした。しかしそこにあるはずの携帯はなかった。
「あれ? おかしいな、いつもはここに……ってなんだここ! 暗っ!」
真っ暗だった。俺の目の前に広がる光景は、携帯どころか何もかもが存在しない暗い世界だった。
……ちょっと待て、なんだ、何が起こっている。俺は確か部屋にいたはず。モンキラのラスボス倒して時間が時間だったからベッドに入ってそのまま寝たはず……
「やぁやぁ目が覚めたみたいだねーマサト君」
俺が必死に頭を働かせていると突然男が話しかけてきた。
「いや突然すまないねー。マサト君、実は君にちょっとお願いしたいことがあってだね」
「俺に……お願い?」
なんだ、何を言っているんだこいつは。なんで俺のプレイヤーネームを知っているんだ。どこかで会ったことは……ないよな。俺は中学卒業と同時に引きこもったからリアルのモンキラの知り合いはいないはずだし……
「単刀直入に言うとだね、君に世界を救ってもらいたいんだよ」
…………は?
「あー困惑してるねー、まーしょうがないよね、いきなりこんなこと言われても。よし、じゃー今から順を追って説明するね。まず君ね、死んだから」
えっ? 死んだ? 俺が?
「それで死んだ君には記憶と肉体はそのままで、とある世界に転生してもらいたいんだよ。んで、その世界を救ってほしいっていうのが僕のお願い。説明は以上。分かったかな?」
「えっ、今ので説明終わり? もっとこう、なんで俺が死んだとかその世界が今どういう状況にあるかとか、詳しい説明は?」
「あー、そういう説明もしなきゃか。よし、じゃあまず君に救ってもらいたい世界について説明するね」
そういうと男はゲームのプロローグのような口調で説明を始めた。
「その世界は今、未曽有の危機に瀕している! 数百種を超えるモンスター達が世界で暴れまわっている! そのモンスターに立ち向かうために人間はギルドを世界各地に設立し強者を募った!しかし、モンスターの中には強大な力だけでなく知能を併せ持つ者もいる。人間はモンスターに力で負け、知能で負けた。さぁ、人類の未来はいかに!」
「……なんか聞いたことあるな。どこで聞いたんだっけ? うーん…………そうだ! これモンキラのオープニングで言ってた事じゃん!」
俺がモンキラという単語を口に出すと、男は俺の目の前に指を立て、
「そのとーり! 君に行ってもらいたい世界はまさにモンキラの世界! あのゲームをクリアした君ならばきっとあの世界を救うことができる!」
「マジでか!? モンキラの、ゲームの世界に行けんの!?」
「ゲームの世界か、正確にはちょっと違うかな。じつはあのゲームは僕が作ったんだ。君に行ってもらいたい世界を模してね。つまり君に行ってもらいたい世界はゲームじゃなく現実、リアルの世界さ」
なるほど、つまりこいつはあのゲームで転生する人間を選別していたってわけか。それであのゲームをクリアした俺にお呼びがかかったってことか。
そうかそうか、なるほどなー、全部理解できたよ。
俺がここにいる理由と、俺が死んだ理由が!
「おい、さっきお前俺が死んだって言ったよな」
「うん言ったよ。正確には僕が殺したんだけどね」
「やっぱりかぁー! てめぇ何しちゃってくれてんだよ! 普通殺すか? あほじゃねぇのか? 馬鹿じゃねぇのか? ていうかてめぇ何様だよ! 人のこと勝手に殺しやがって!」
「なんだよー、さっきまでうれしそうだったのに、あと僕神様ね」
「それとこれとは話が別…………神様?」
こいつ今神様って言ったのか?
こいつが、こんなのが神様!?
世界中の神を信じている奴らに謝れと叫んでやりたい。
「気が変わった。誰が転生なんかしてやるか! 世界がどうなろうと知ったこっちゃねー! それによく考えてみたらあのゲームをクリアしたからって引きこもりの俺がモンスターに勝てるわけないだろ! 今すぐ俺を生き返らせろ! 今すぐだ!」
俺の抗議に自称神様は困ったように答える。
「生き返るのはもう無理だよー。転生が嫌って言うならもう地獄に落ちてもらうしかないよー」
「地獄? 俺転生しないと地獄に行くの?」
「そりゃそうだよ、18にもなって家に引きこもっているような人間、地獄行きに決まってるだろう?」
ぐっ、確かにそりゃそうだけどさ、ちょっと理不尽すぎないか?
引きこもった代償に殺されて、地獄に行きたくなきゃ危険がいっぱいの世界に行けなんて、引きこもりってそんなに悪いことですか、神様。
「で、どうするの。地獄に行くの? 地獄のような世界に行くの?」
こいつ、マジで殴ってやりたい。神じゃなけりゃぶん殴ってるとこだぞ。
「分かったよ、転生するよ、転生すりゃーいいんだろ」
俺の言葉を聞き神が満面の笑顔を浮かべ、
「ありがとう、君ならそう言ってくれると信じていたよ。それじゃ君にこれを上げるね」
神はポケットからあるものを取り出し俺に差し出した。
「なんだこれ……カード?」
「それは向こうの世界の身分証明書みたいなものだよ。そのカードに君の名前とステータスが書いてあるから」
カードの表には俺の名前が書いてあり、その下には俺のステータスと所持金が載っていた。
「ふーん、これが俺のステータスか、所持金はゲームの初期金額より多い……うわ、筋力値とか敏捷値1桁しかねえじゃん。やっぱ引きこもりだからか……ん? HPはないんだな」
「ああそれね、HPっていうのは数値にできないんだよ。ほら、実際ボコボコに殴られたりナイフとかで死ぬようなダメージを受けても、力を振り絞って立ち上がれたりとかするだろ。そういう風に気持ちの力で体力と関係なく動けたりするからさ」
なるほど、確かにそうだ。HPがありゃ切られても生きてるなんてこともありえるしな。それはまぁいいとして、実際こんなステータスでモンスターに勝てんのか?
「あとステータスが1桁って言ってたけど、それもこれからレベル上げすればいいよ。まぁ元々の能力が低いからレベルもステータスも上がりにくいけど」
マジかよ、俺そんなんで世界救えるのか。モンキラの敵が出てくんだよな。絶対グラシャ=ラボラスとか倒せる気がしねえよ。
「でも君は全部のモンスターの弱点を知っているんだよ。これは他の人にはない君だけの大きな武器だよ。自信を持っていいよ」
そうだ、そうだよ。グラシャ=ラボラスはともかく他の雑魚モンは倒せるだろうから生活には困らなそうだな。むしろあの引きこもり生活より充実しそうだ。
「それと一人だと心細いだろうから一人お供をつけてあげるよ。喜んで、けっこうかわいい女の子だよ」
「本当に!? それマジで言ってるの!?」
おお、これは本当に異世界転生万歳って感じだな。あの引きこもり生活からおさらばして、しかもかわいい女の子とお近づきになれるなんてリア充街道まっしぐらじゃねぇか、神様ありがとうございます。
「喜んでくれて何よりだよ。これで君を殺したことチャラにしてね」
こいつ、今感謝したばっかだけどやっぱり嫌いだ。
俺は神をぶん殴ってやろうと拳を握りしめ振りかぶる。
瞬間、神はヤバイと感じすぐさま転送しようとしたのか、俺の体が光に包まれた。
「それじゃあ頑張ってねー。お供の子はすぐに送るからちょっとだけスタート地点で待っててね」
「待ててめー! 1発殴らせろー!」
「がんばってねー」
神は笑顔で手を振り、俺を見送った。