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胸キュン☆ゲット大作戦  作者: 中嶋千博
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アーサーをリサーチする

 部屋に戻った途端、ノエルは俺に抗議した。


「小林博士様、あなたの名前は『はかせ』様じゃなくて『ひろし』様だったんですね。

 どうして最初に教えてくれなかったんですか? ずっと間違えた名前で呼んでいましたよ」

「たまに読み間違えられるから慣れているんだ。いちいち訂正するのも面倒だしな」

「名前は大事なものです」

「俺は気にしないぞ。そういえば俺、ノエルに名前を名乗ったっけ?」

「わたしには相手の名前がわかるんです」

「どういうことだ?」

「その人物に目線を当てて、知りたいと望めば、視野の文字がホップアップするんです。名前と性別、年齢はそれで分かります。

 それでコンビニのお姉さんのことも分かったんですよ」

「ゲームのキャラステータスみたいだぞ。便利だな」

「ただ、わたしたちが使用する言語と、人間が使用する言語は異なります。

 なのでこの世界でいう翻訳機能みたいなものを使ってわたしが読める文字で表示されるんですけど、ときどき不具合を起こすんです」

「なるほど。だから『はかせ』と呼んだんだな」

「そうです。これからはきちんと『こばやしひろし』様と呼びますね」

「それはいいや。長いし、普通に『ひろし』で」

「い、いきなり呼び捨てだなんて、わたしにはできません!」

「……ノエルが呼びやすい呼び方でいいぞ」

「それじゃあ、『ひろ』くんで」

「――いきなり愛称かよ!」

「冗談です。わたしと『こばやしひろし』様は愛称で呼び合うほど親しい間柄ではありません。契約にもとづき行動を共にしているだけ。

 ですので『ひろし』様と呼ぶことにします」

「『様』はいらないぞ。俺はノエルのこと、最初からノエルって最初から呼び捨てで呼んでるしな」

「『様』はつけます。これはわたしのモットーなのです」

「さいですか」


 別にどうでもいい。


「さて、リサーチしますよ」

「リサーチって?」

「コンビニのお姉さんが恋慕しているアーサーの情報を集めるのです。このゲームの中にアーサーの情報がいっぱい詰まっているのですよね?」


 言って手に取るのは『ときめきトワイライト』のゲームパッケージだ。


 アーサーを攻略するのにどれだけ時間を割いたことか。

 俺はその間の苦労を思い出した。

 攻略したときの感動はひとしおだったがな。


「このゲームはどうやって動かすのですか?」

「そこからかよ!」


 今までゲームで遊んだことがないノエルに、プレイするゲーム機の種類から説明し、『ときめきトワイライト』を起動させる方法、遊び方を教えることになった。


「本を読むのと同じだ。そこに映像と音楽と音声が付く。

 時々、自分の行動や会話で選択肢を選ぶイベントが発生する。

 相手にとって最善の選択を選ぶと好感度が増す。そして、一定量の好感度がたまると、スペシャルイベントが発生するんだ」

「めんどくさそうですね」


 心底面倒くさそうに顔をしかめるノエル。リサーチのためとぶつくさとつぶやき、ゲームを始めた。


 そんなノエルを目の端で見ながら、俺はポータブルのPSPを手に取る。

 プレイするのは五日前に購入したゲームだ。典型的なRPGで、ゲーム自体は三日でクリアできた。

 しかし、ところどころに小クエストが残っていて、それらをまだクリアしていない。このゲームを全後略するのが目下、俺の目標だ。


 ゲーム機の操作方法について時々飛んでくるノエルの質問に答えながら、自分のゲームを進める。


 気づいたら夜の0時を過ぎていた。

 明日は眼科と床屋、もとい美容院に行かなくてはならない。


 モテる男になるために!


「ノエル、そろそろ寝るぞ」

「いいえ、まだ寝ません!」


 ノエルは画面に顔を向けたまま言った。


 ハマったな……。


 最初こそリサーチのためだけにゲームをやり始めたのに、ものの数時間で、アーサーの好感度をアップするために、あの手この手でアーサーにアタックしているノエルの後ろ姿を、俺は「ゲームの世界へようこそ」という歓迎の意とともに、これからノエルが味わうであろう喧噪、敵意、焦燥感その他もろもろの感情を予感し、哀愁のこもった目で見つめた。


「ノエルは寝なくてもいいのか?」


 言ってから気づく。自分の質問が意味する根源を。


 なぜなら俺の部屋には部屋が寝るベッドしかないのだ。もしノエルが寝たいといったら、二人で同じベッドに寝ることになる。


 それはいかがなものか。

 ノエルは子供とはいえ女の子だ。


 ノエルと二人でベッドインより、雑魚寝することを選んだ。

 正直嫌だが。


「俺は床で寝るから、ノエルはベッドで寝ろよ」

「おかまいなく、博士様はベッドで寝てください!」


 即答だった。


「じゃあ、おまえはどこで寝るんだよ?」

「寝ません」

「寝なくてもいいのか?」

「睡眠欲はありますが、人間よりは少なくてすみます。なぜならわたしはエンジェルですから!

 博士様、わたしに気兼ねなく先に寝てください」

「そ、そうか。

 ゲームを続けるつもりならイヤホンをしてくれ。夜は音が響くからな」


 ときめきトワイライトは純粋な乙ゲーだが、音声だけを聞くと、やましい声に聞こえてしまう場面が時折ある。


 そんな音声を家族に聴かれたらコトだ。


「電気はつけておくな」

「おかまいなく」


 ノエルは画面に目を向けながら返事をした。コントローラを操作し、その操作に従ってテレビの画面が移行していく。


 ノエルは世界の認識で動かないものに対しては動かせないが、、他の要因が加わって簡単に動く物質に対しては、意識をちょっと集中させると普通に動かすことができるのだそうだ。


 ノエルが今、コントローラを操ってゲームを進めることができるのは、コントローラに意識の一部を集中させているからなのだ。


 俺には普通にゲームを楽しんでいる小学三年生ぐらいの女の子にしか見えないが、他の人が見たらコントローラが宙に浮き、ゲームが勝手に進んでいるように見えるのだろう。


 こんなところ、絶対誰にも見せられないな。


 そんなことを考えていると自然にあくびがでた。いろんなことがあって頭が冴えていたはずだが、精神的には疲れていたらしい。


 眠りはすぐに訪れた。


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