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胸キュン☆ゲット大作戦  作者: 中嶋千博
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聖なる夜

 がやがやおしゃべりをしながらゲームセンターに移動する。

 地上に向かう地下通路を歩き、長いエスカレーターを上がって、地上へ。地上に出たら目の前はシャンシャイン通り。ゲームセンターはすぐそこだ。

 シャンシャイン通りはすごい人込みで、ゲームセンターに向かう途中、俺は誰かにぶつかってしまった。


「あっ!」


 その人はスマホを落とした。


「わっ、すみません」


 誰かに踏まれる前に、スマホを拾って、持ち主に渡す。スマホにはネズミの遊園地のストラップがついていた。受け渡すと同時に、相手が誰か気づく。スマホを受け取ったのは千佳さんだった。


「ありがとう、あら?」


 礼を言ってから、千佳さんも俺に気づいた。


「こんなところで会うなんて偶然ね」

「本当ですね。コンビニの制服を着ている千佳さんばかり見ているから、こういう私服を見ると、すぐには気づきませんでした」


 千佳さんの隣に所在投げに立っていた男の人が声をかけてきた。以前、千佳さんと水族館で偶然あったときに一緒にいた人と同じ人のようだ。

 けれど、あのときよりも二人の距離が近い気がする。



「千佳、知り合い?」


 千佳さんと同じくらいの歳だろうか。俺を見る目が怖い。俺の女に手を出すな、と目線で訴えている。


「わたしがバイトをしているコンビニによく来る子なの」


 それにあわせて俺も軽く頭を下げる。

「どうも、お世話になっています。いつも立ち読みばかりしてすみません」


 ほっとしたように目元をほころばせる男の人。


「そうか。それだけの関係か」

「千佳さん、彼氏ですか?」

「うん」


 こくりと千佳さんは頷いた。恋する乙女の表情だ。男の人がポケットからスマホを取り出して液晶を光らせた。


「千佳、早く行こうぜ。映画の時間に間に合わなくなる」


 そのスマホには千佳さんとは色違いのネズミの遊園地のストラップがついていた。


「あ、そうね」

「デート、楽しんでくださいね」

「小林君もね!」


 手を振ってその場はら離れる。二ノ宮達からだいぶ離れてしまっていた。

 俺は急いで二ノ宮達を追いかけた。


 ゲームセンターは混んでいた。時期的にかカップルが多い。

 そして、見知った顔が先客としていた。

 妹の安奈だ。しかも安奈だけではなくおまけのように山田がいた。先に気づいたのは安奈の隣にいた山田だった。


「師匠もきてたんですか」

「安奈と一緒にゲーセンとは、やるなぁ」


 朗らかに言ってから、じろりと山田をにらむ。声を小さくして一言。


「安奈に変な事をするんじゃないぞ」

「も、もちろんですよ」

 山田の返事の声も小さくなる。


 そんな男同志の会話が聞こえなかった安奈は、迷惑そうな表情を俺に向けた。


「お兄ちゃん、どうしてここへ?」

「友達と遊びにきたんだ。学生が数人集まったらゲームセンターに行くのは当然じゃないか」

「ふーん。お兄ちゃんの友達ならきっとオタクなんでしょうね」


 うさんくさい目で俺を見る安奈。

 そこに、俺たちに気づいた三瀬が、しぼんでいたバラも再び咲き誇るような明るい表情で聞いてきた。


「きゃあ、かわいい。この子、小林君の妹さん?」


 佐々木が驚きの声をあげる。


「うお、小林にこんなにかわいい妹がいたとは。反則だろ」


 突然の兄の友達の乱入で、目を白黒させつつも、


「え? あ、はい。小林安奈です。いつも兄がお世話になっています」


 ぺこりとお辞儀をさげる安奈。さすが俺の妹。そんな俺の心境を代弁するように三瀬がつぶやく。


「しっかりしているわね。さすが小林君の妹さんね」


 三瀬は安奈に目線を合わせるように膝を曲げて、その膝に両手を乗せて言った。


「安奈ちゃん、こんにちは。わたしは小林君と同じ学校に通っている三瀬美月よ。よろしくね」

「よろしく、三瀬、さん……?」

「美月お姉さんって呼んでくれたらうれしいな」

「美月お姉さん……」

「かわいすぎるわ。家に持って帰りたいくらいよ」


 唯が山田に気づいて安奈に話しかけた。


「安奈ちゃんと一緒にいるそこの男の子はもしかして?」

「どうも、小林さんと同級生の山田卓といいます」


 頭をかきかきお辞儀をする山田。この場にいる誰もが知らない。

 俺と山田はゲームの世界では師匠と弟子であることを。

 俺がそんなことを思っていると、佐々木が聞いてきた。


「おい、小林、安奈ちゃんたちの歳はいくつなんだ?」

「中学2だから、何歳だっけ?」

「13歳だよ」

「13歳でデートかよ。最近の子供はませてるなぁ」

「3歳しかちがわないぞ」

「3三年は大きい」

「そうよ。3年なんてあっという間よ。安奈ちゃん、今のうちに女を磨くのよ」


 そこに、唯がみんなを誘うように声をあげた。


「ねえねえ、こんなに人がいるんだからみんなで車で競争しようよ」

「よし、やろうぜ。高校生対中学生。男子対女子。なんでも受けて立つ」


 俺の中に流れるゲーマーの血が目覚めた。


 車対決は俺の圧勝となった。意外に佐々木がうまかったのには驚いた。

 車対決の後、三瀬が、


「わたし、太鼓をやりたいんだったわ」


 と思い出したように言い、太鼓対決になった。


 ゲーセンでみんなでわいわいと騒いでいるとき、唯とも何度も目が合い、微笑み合っていた。

 唯は自分から車の対決を言い出したくせに、へたくそでゲームなのに一生懸命で、誰かに追い抜かれたら、気落ちするし、誰かを追い抜いたらいきなり元気になった。

 そんな山の天気か海の天気のようにころころと表情を変える唯を見ていてるのは楽しかったし、うれしかった。


 直接の会話は少なかったが、それでも久しぶりに唯と近い距離で一緒にいることができて、それだけでいままでのぎこちなかった関係が氷解していくような気がした。


 ゲームセンターで楽しんだ後、サンシャインシティに行き、ウィンドウショッピングをしてから、展望台にのぼった。


 金がない学生の俺たちだが、今日ぐらいは奮発していい思い出作ろうぜ、と誰かが言いだし、みんながそれに乗ったのだ。

 ちょうど夕日が地平線に沈む時刻。クリスマスイブの空は雲一つないどこまでも澄み渡る空。

 夕日を背にした富士山には威厳があった。


「シャンシャインシティの展望台なんて、子供のころ家族で来たきりだぜ」


 と、はしゃいでいた佐々木も美しい富士山の姿をだまって見つめていた。


 いつの間にか夕日は完全に地平線の向こうに落ちて、空は群青色になり、東京の町の明かりがとてもきれいだ。

 すぐ隣で唯が窓の外を見つめながらつぶやいた。


「不思議だね」


 その瞳には眼下に広がるネオンが輝いている。

 俺は短く相槌を打った。


「ああ。不思議だな」


 唯が怪訝な表情を浮かべて俺のことを見つめてきた。


「あたしが何が不思議だと言った分ってて、相槌を打っているの?」

「もちろんだ。あの明かり一つ一つの中にそれぞれの生活があるってことだろ?」

「……正解。よく分かったわね」

「唯とは長い付き合いだからな」

「……」


 唯は複雑そうな表情を浮かべて再び窓の外に目線を戻した。


 付き合いが長いから唯が「不思議だね」と言った理由が分かったわけではない。これはとあるギャルゲーの彼女と一緒に夜景をみるシチュエーションの選択肢の一つなのだ。

 三つ選択肢があってその中の一つが俺が今言った言葉。他の二つは「どうやって電気がついているんだろうね」と「ここで地震が起きたらどうしよう」だった。余計なことまで思い出してしまった。

気持ちをもとに戻そう。前を見ている俺には唯がどんな表情を浮かべているか分からない。


 これはチャンスではないか。なんのチャンスかといったら告白するチャンスだ。


 俺はぎゅっと目をつぶり、覚悟を決めて、隣を見た。


「ゆ……、あれ?」


 そこに唯はいなかった。どこに行ったのかと周りをみれば、展望台の一画に設けられた遊戯的な要素があるブースで、安奈達と一緒に騒いでいた。


「いやあ、すごい太って見える」

「こっちの鏡は首が長く見えるよ」

「これ、みて。手が八本」

「あはは。おもしろい」


 誰がどの言葉を発したか、いちいち書く気になれない。

 俺は楽しそうに目を輝かせて笑っている唯の姿を見て、ため息をついた。


 チャンスを逃してしまった。


 帰りの電車の中は混んでいたが、たまたま座ることができた。ちょうど向かい側の席に、そう遠くない過去に俺に告白してくれた佐藤雫がいた。

 彼女は俺たちと同じ年ぐらいの男子と隣同士に座っていた。俺に気づくと、うっすらと笑みを浮かべた。俺も笑みを返した。


 彼女にとっては隣にいるのは俺じゃなくてもよかったのだろう。少し寂しい気持ちになったが、彼女と付き合わなくてよかったと思った。彼女の隣にいる男子は近いうちに違う男子に替わるだろうとなんとなく分かった。


 ノエルと出会って胸キュンゲットの任務のため、ノエルのアドバイスのもと、恋愛偏差値を高めてきた。

 今までリアルの女の人とデートなんかしたことなかったのに、ノエルに尻を叩かれて、カフェでデートをしたり遊園地に行ったりした。

 自分の服装にも気をつけるようになった。今までは自分さえよかったのに、他人を思いやることも覚えた。相手が言うよりさきに飲み物を用意したり、かばんをもってあげたり。

 そういうのは相手にこびる行為だとおもっていた。しかし、そういう行動をして、相手にお礼を言われたり喜んでくれたりすると、普通にうれしかった。そして分かった。それらの行為はこびてるのではなく、相手に喜んでもらいたいから、そうするのだと。

 ノエルと出会う前と比べると、確実に恋愛というものが詳しくなっているはずなのに、任務ではなく、本当に心から告白したい人に告白できない自分がいる。


 南浦和駅で降りたのは俺と唯だけだった。他のやつらとはまだ池袋に用があるだとか、切符買うのに発見売り場で並んで送れたりとか、路線が違うとかしてばらばらになっていたのだ。


 俺と唯の家は駅の通りを逆に進むことになる。このまま別れたくない。

 せっかく二ノ宮と清瀬がセッティングしてくれた機会だし、俺自身が嫌なのだ。

 幸運の女神の前髪はつかみ損ねた。


 それなら。

 自分自身で、チャンスを見つけるしかない。


「唯、少し話さないか?」

「え?」

「ジュースおごってやるぞ」

「それじゃあ、しょうがないわね。少しだけ付き合ってあげますか」


 唯はくったくなく笑った。

 足を向けたのは日の出公園だ。

 時刻は六時になろうとしている。冬の日の出公園は一部がライトアップされ、クリスマスらしい雰囲気になっている。ところどころにライトアップを楽しんでいる人達がいて、気ままに歩いていていたり、ベンチなどに腰かけて、クリスマスの夜を楽しんでいる。

 さらに、ジョギングをしている人や、犬の散歩をしている人がいる。

 空は暗いし、空気は冷たいが、全体的に柔らかい雰囲気に包まれている。


 そんな日の出公園の通りを、俺たちはゆっくりと並んで歩いていた。

 ここにもきっと胸キュンはあふれている。俺はネオンきらめく空間の中、嬉々として胸キュンを集める女の子の姿を探してみたが、当然のごとく見つけられなかった。


「今日はおつかれだったな」

「ヒロ君もね」

「大勢の人がいたらろくに会話もできなかったな」

「けれど楽しかったわ」

「そうだな」

 そのときのことを思い出して、笑みを浮かべる。

「体調とか大丈夫か?」

「うん。この通り元気よ」

「清瀬が言っていたぞ。最近唯が元気がないって」

「そんなことないつもりなんだけどな」

「俺も唯の態度が以前よりも他人行儀な気がする」

「そう、かな」

「あそこに座ろうか」


 日の出公園の中に足を踏み入れた俺たち池のほとりのベンチの近くまで着ていた。そのベンチを俺は示した。

「うん」


 唯が頷くのを見て、


「何か温かい飲み物買ってくるから、先に座ってて」

「わかった」


 近くに見える自動販売機に向かって小走りに走り出した。ほっとレモンとホットコーヒーをチョイスすると、ベンチに座った唯のところに向かう。


「お待たせ。どっちがいい?」

「こっち」


 唯はほっとレモンのほうをしめした。唯の手のひらにほっとレモンのペットボトルを置くと、俺も唯の隣に座った。

 唯はほっとレモンを両手のひらで包み込むようにして言った。


「あったかい」


 その様子が、女の子らしくて、どきりとする。


「ヒロ君、変わったね」

「どんなふうに?」

「こんな気がきいたこと、する人じゃなかったわ」

「俺も成長しているんだぞ」


 唯はただ微笑んだ。ほっとレモンのキャップを開けて一口飲む。


「アニス君のこと、覚えてる?」

「ああ。思い出したくないけどな」

「あの時の記憶は今でもあいまいで夢を見ていたような気がする。アニス君ともあれから連絡がつかないし。アニス君という存在すら本当に実在したのか、分からなくなるときがあるわ」

「あいつはこの世のどこかにいるさ。やたら自信過剰で、すべての女は自分を好きになると信じて疑わないやつだった。まったく思い出すだけでむかつく」

「あはは。けれどイケメンで女の子に優しくて、素敵な言葉をかけてくれる人だった。モテて当然ね」

「唯は違ったのか?」

「なんかあの笑みに裏がありそうだったんだもの。それにアニス君が現れて気づいたこともある」


 ちらりと俺のほうを見てすぐに目線を足元に移す唯。


「俺はアニスがいたおかげで、自分の気持ちに気づいた。いつだったか二ノ宮が言っていた。近づいて気づけないこともあるって」


 唯は俺の目線を避けるようにベンチから立ち上がると、俺に背を向けて、池のほうを眺めた。


「あーあ、わたし、どうしてオタクで運動音痴で、鈍感で、人の気持ちも分からない人の事、好きになっちゃったんだろう。付き合いが長すぎて、いつから好きだったかもわからないくらいよ」


 俺は手に持っていたホットコーヒーのペットボトルを椅子の上に置くと、立ち上がって唯の隣に立った。


「俺もおっちょこちょいで、せわしなくて、卵に砂糖と塩を間違えて卵焼きをつくりそうなやつが、すごく気になるんだ。どうしてなんだろうな。そいつが俺のことをどう思っているのか気になって昨日は眠れなかったくらいだ」

「卵に砂糖と塩ってなんの話?」

「唯ならそんなことをしそうだなと思ってさ」

「そんなこと、まあ、したことはあったけど」

「あったんだ」

「同じ失敗は繰り返さないわよ。塩と砂糖は同じ白い粉だけど、よくみれば砂糖のほうがきめがこまかいことに気づいたから」

「てか、少しなめてみれば分かるじゃないか」

「それじゃあ、プロっぽくないでしょ?」

「そもそもプロじゃないだろ。まだ学生だし。プロっていうのは、世の中のコックさんみたいなのをいうだろう」

「身近なところにいるわよ。お母さんとか」

「なるほど。それは言える」

「近すぎて気づかない、かぁ」

「唯」


 俺は唯に向き直った。唯も俺を見つめる。


「俺は唯に伝えたいことがある」


 唯は何も言わずに俺を見つめている。


「そのことによって、俺と唯の関係がもしかしたら今まで以上にぎこちなくなるかもしれない。逆にもっといい関係になれるかもしれない」


 冬の風が唯の髪をなでていく。


「唯、好きだ」

「……て」

「え?」

「キスして」

「ええ? いいのか?」

「これがわたしの答え。 不満?」

「不満じゃない。ぜんぜん不満じゃない。うれしすぎて気絶しそうだ」

「なにそれ」

「い、いくぞ」

「うん」

「うわぁ、緊張する」

「わたしも緊張しているわよ。はやくして。これが初めてじゃないでしょ?」

「え? どういう意味だ?」


 思わずどきりとなる俺。千佳さんの、三瀬の、泉先生の、安奈の、キスまで行きそうになったときのことが走馬灯のようによみがえる。


 そして唯。唯とは異世界で確かにキスをした。


「あの時のことが夢ではなかったと示して」


 俺は唯の背中に手を当てた。


「唯、好きだ」


 耳元で囁く。そしてそっと唯の唇に自分のそれをあてた。

 唯とのキスはあまずっぱいほっとレモンの味がした。


 今日はクリスマスイブ。恋人同士が愛をささやく日。


 勇気ある告白をしてカップルになった人に祝福あれ。


『胸キュンゲットしました!』


 耳の奥でノエルのうれしそうな声が確かに聞こえた。


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