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胸キュン☆ゲット大作戦  作者: 中嶋千博
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ミッションコンプリート

 気が付いたとき、俺と唯は日の出公園のベンチに座っていた。

 唯はそのまま、俺のほうに体を預けてきた。


「おい、唯?」


 唯は目をつぶっていて動かない。


「大丈夫か? 唯!」


 俺は慌てた。


「気を失っているだけですよ。いろんなことがあって気が張っていたのが、一気に解けたのですね」

「そうか」


 俺は唯の体を支えたまま、頷いた。


「博士のおかげで、胸キュンを満杯まで集めることができました。これで契約は満たされ、解消されます。

 博士様、ありがとうございました」


 ぺこりとノエルは頭をさげた。


「おい、なんだよ、改まって」

「博士様、キスをしてください」

「はぁ?」

「契約をしたときにもキスをしましたよね。解消するのにもキスは必要なのです」


「わ、分かったよ」


 俺はノエルのおでこ、でなく頬っぺたにキスをしてやった。


 ボウッとノエルの頬があかくなる。


「おい、なんで照れているんだよ」

「照れてなんかいません」

「顔があかい。こっちまで照れちまうだろうが」

「博士様は自分のこと、もっと知ったほうがいいですよ」

「どういうことだ?」

「博士様は自分が思っているよりももっとイケているということです」

「はぁ? それはどういう意味だ」


 俺の質問にノエルは答える機会がなかった。

 俺たちの会話に割り込んできたやつがいたからだ。


「人の子、そしてノエル、よくやりました」


 いつの間にか、大人になったら絶世の美女になること間違いなしの幼女が俺達の近くにいた。アフロディーナだ。


「アフロディーナ様」


 ノエルが地面に片膝をついて、頭を垂れる。

「こちらが胸キュンを集めた小瓶です」


「しかと受け取りました」


 アフロデーナはノエルから小瓶を受け取った。そして、小瓶を持っていないほうの手の久しさ指をノエルのおでこにそっとつけた。


「再びエンジェル見習いノエルを正式にエンジェルへと昇格させます」


 ぽうっと指先から光がともると、その光がノエルを包み込み、ぱさり、とノエルの背から白い何かが現れた。光が消えたとき、ノエルは偽物ではなく本物の白い翼をその背にもっていた。

 アニスは黒い翼だったがノエルは白い翼だ。


「ノエル、本当にエンジェルだったんだな」


 今までノエルは小さな妖精くらいにしか見てなかったことに気づかされる。


「やったぁ。ようやくもとの姿に戻りました」


 ノエルはその場で翼をはためかせて小躍りした。


「調子に乗るんじゃありません。同じ失敗をしたら次はありませんよ」

「はーい」


 アフロディーナは俺のほうを向いた。


「やってくれましたね」

「何がだ?」

「対価のことです」

「記憶を捧げただろう」

「確かに記憶ではありますが……」

「何が齟齬があると?」


 アフロディーナはため息をついた。


「認識の違いという意味では、齟齬はありました。うまく私たちの言葉と博士様の言葉が翻訳できなかったということもありますし、人間社会の文明の発展が早すぎて、私たちの認識が追いつかなかったということもあります。ですから、今回は妥協しましょう」


 やりぃ。

 俺は心の中でガッツポーズをした。


「唯が目覚めたら、唯は、やっぱり今までの女の子のように俺との思い出は記憶だけが残っているのか?」

「この子は、アニスの憎悪の弾丸を受け、強制的にあなたを嫌いにさせられました。しかしあなたのラブオーラパワーで正気に戻り、さらに精霊界にやってきて精神的にも肉体的にも負荷がかかっています。

 ここでこの子がさきほどあなたに胸キュンしたときの感情を忘れさせてしまうと、この子さんの精神が危なくなります。だから、この子さんはこのままにしておきます。

 あとのことは人の子よ、任せましたよ」


「任せたって、おい?」


「少しの間でしたけど、博士様と一緒に任務ができて楽しかったです。また機会があったら会いましょう」


 ノエルが手を振りながら言った。


 そうか。ノエルともアフロディーナともこれでお別れなんだな。

 そう思うと、名残惜しいようなしんみりとした気持ちになる。


「元気でな」

「博士様も」


 アフロディーナとノエルは身体を輝かせ、次の瞬間には姿を消していた。精霊界、もしくは神界に帰ったのだろう。


 まるで、そこにもとから二人がいなかったかのように、二人がいた場所にはえていた草の葉が風にそよいでいた。


 しばらくして唯が目を覚ました。


「不思議な夢をみたわ」


 唯は俺の膝枕から頭を起こすと、目をこすりながら言った。

 思わずその唯の寝癖で跳ね上がった髪をなでる。


「え? 何?」

「夢じゃないぞ」


 唯の耳元で言うと、唯は一瞬目をぱちくりしたが、次の瞬間、ボウッと擬音語が発生しそうな勢いで、顔を赤らめた。


「あ、あたし、なんか変だわ。ひとっ走りしてから帰るね。ヒロ君、またね」


 唯は逃げるように駆けていった。


 家に帰ってまず確認したのは、数々のゲームのメモリカードだった。ゲーム機によってセーブデータを記憶するメモリカードは違う。それらをすべて確認したが、すべてデータは初期化されていた。


 これがアフロディーナとの交わした対価だった。俺が今までためて行った記憶、それを引き換えに唯を助けたのだ。


 アフロディーナは俺の頭の中の記憶を想定していただろう。しかし、俺はメモリカードを必死な心の中で思い浮かべていた。

 どう判断されるか半々だったが、対価はメモリカードということになったのだ。


 メモリカードにため込んだ記憶はなくなったが、俺の中に記憶はある。

 ゲームに費やした時間も記憶も俺の中にあるのだ。


 俺の記憶が消えなくてよかった。

 本当によかった。


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