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胸キュン☆ゲット大作戦  作者: 中嶋千博
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昼休みの出来事

 唯の胸キュンをゲットするために、どうにか唯と話すタイミングを見計らっていたが、それらは妨害されて、ことごとく失敗している。

 強硬手段にでるしかない。

 つまり呼び出しだ。

 同じ学校にいるのに、今までのこの手を思いつかなかったほうが不思議なほどだ。

 唯と話す時間ができないことに理由をつけて、俺自身が唯と話すことを無意識に避けていたのかもしれないと今では思う。

 昼休み、自分の昼食は後回しに、俺はすぐさま隣のクラスに向かった。唯は友達と一緒に学食に向かうため、教室をでるところだった。


「唯、ちょっと話があるんだが?」

「これからご飯を食べるのよ。一緒にご飯をたべながらでもいい?」


 俺たちの会話を遠巻きに見ているみんな。唯の友達も口元に意味ありげな笑みを浮かべている。

 一緒にご飯を食べたら、みんなから聞き耳を立てられそうだ。きっと近くには唯の友達も一緒だろうしな。


「食べ終わったあとに、どこかで待ち合わせしよう」

「どんな話? 面倒な話なの?」

「そんなに面倒じゃないと思う。場所は後でメールする」

「わかったわ」


 俺たちはいったん別れた。自分の教室に戻ると、二ノ宮が清瀬と一つの机をはさんで、昼食を食べていた。

 二ノ宮と清瀬は付き合っていることを周りには秘密にしていたが、そのうち誰かにばれて、今では知らないやつはいない。

 そのため、いちいち隠れて会うこともなく、清羅なんかはこうして、昼休み堂々の違うクラスにいる二ノ宮のクラスにやってきて、二ノ宮と昼食をとるというスタンスになっているのだった。


「なんだ、小林。学食に行ったんじゃなかったの?」

「まあな」

「だったら一緒に食べましょうよ」


 清瀬の言葉に頷くと自分の席に座り、弁当を取り出す。そこに声がかかった。


「小林君、二人の時間の邪魔をしたら悪いわよ」


 岡崎だった。


「わたしはかまわないわよ」

「僕もかまわないよ」

「と、二人は言っているが?」


 岡崎は二ノ宮と清瀬ににこりと笑いかけた。


「わたしが、小林君を独り占めしたいのよ」

「小林がいいんなら、それでも別にかまわないよ」

「小林君の意思に任せるわ」

「だそうよ?」


 なんなんだろう、この状況。せっかく二ノ宮たちが一緒にご飯を食べようと誘ってくれたのに、岡崎が割り込んできて、俺を横取りしようとしている、という構図か。


 岡崎の意図は分かっている。

 岡崎には告白の返事をしなければならないのだ。

 唯のことが気がかりだが、岡崎のことも後回しにはできない。


「二ノ宮、清瀬、わるい」

「うん。いってらっしゃい」


 清瀬が気の毒そうな表情を浮かべた。


「小林君もいろいろと大変ねぇ」


 さて、岡崎の席に岡崎が座り、俺は岡崎の近くの誰かの机の椅子を引っ張ってきて、そこに座った。はからずとも、清瀬と同じ座り方になる。岡崎の机の上に弁当箱を置く。


「小林君はお弁当派なのね」

「母さんが作ってくれるんだ。父さんの分と一緒にな」

「小林君のお母様の料理、とても興味あるわ」

「普通の弁当だぜ」


 岡崎は自分の鞄から弁当箱を取り出した。

 その間に俺は唯に待ち合わせ場所のメールを送った。

 その様子をさりげなくなると、岡崎は弁当箱を自分の前に置く。


「私もお弁当派なの。わたしたち気が合うわね」

「あはは。そうかな」


 今日の弁当は、鳥のからあげに、ほうれん草のおひたし、たまご焼き。赤いミニトマト。ご飯には日の丸弁当そのままに真ん中に梅干しがのっている。

 岡崎の弁当は、タコさんウィンナーに、茸のパスタ、ポテトサラダに、たまご焼き。チャーハンのようなものだった。


「岡崎の弁当はかわいいな。いつもこんなやつなの?」

「そうよ。家族の分もわたしがつくっているのよ。たまにキャラ弁も作るけれど、時間がかかるからめったに作らないわ」


 岡崎はスマホを取り出すと、いくつかキャラ弁の写真をみせてくれた。子供に人気の妖怪アニメのキャラ弁があるかと思えば、ゴッホのひまわりをまねたキャラ弁もある。


「すごいな。芸術的ですらあるぞ」

「今度、小林君にも作ってきてあげようか?」

「いや、気持ちだけでいい。弁当はおふくろが作ってくれるからな」


 普段は「母さん」と言っているが、「おふくろ」とちょっとかっこつけて言ってみる。


「二つ食べればいいじゃない」

「俺を太らせてどうする?」

「丸くなったおなかをなでてあげる」

「俺は妊婦か」


 そんな会話をしながら、各々の弁当を食べる俺たち。

 壁時計をみると、すでに20分が経過していた。話していると時間が進むのが早く感じるよな。

 唯は大食いの早食いだから、すでに待ち合わせ場所に来ているかもしれない。

 俺は急いで残りの弁当を平らげた。

 岡崎のほうをみると、もともと俺よりも量が少なかったこともあり、俺と同じくらいに食べ終わっていた。

 適当に弁当をハンカチにくるんでいる先で、岡崎は丁寧にハンカチに包んだ。


 切り出すなら今だ。


「なあ、岡崎。先日の回答なんだけど」


 岡崎はちらりと俺をみると、すぐに自分の弁当箱に目線を戻した。


「ここでところで告げるのもなんだが……」


 俺が最後まで言う前に、岡崎は言った。


「もっと早く小林君とこういう仲になりたかったなぁ」

「え?」

「小林君はわたしのことを嫌いじゃない。けれど恋愛としての好きという気持ちでもない。わたしのことはただのクラスメイトの位置づけね」


 心の中で漠然としていてたものが、そう言葉で表現されると、確かなものとして実感する。

 俺は頷いた。


「ああ、そうなんだ」

「それにわたしと一緒にお昼ご飯を食べていたのに、違うことに気持ちがいっていて、気がそぞろだわ。時間を気にしているのは、このあと他の人と待ち合わせわしているからかしら?」


 俺は岡崎の感の良さに内心舌を巻いた。


「悪い。感じ悪かったよな」

「いいわよ。何の約束もくお昼ごはんを食べようと誘ったのはわたしだし」

「ああ、また一緒に食べよう。今度は二ノ宮たちも交えてな」


 俺は言って、椅子から立ち上がると、椅子を元の位置に戻して、自分の弁当場を持った。


「わたしは引き下がったわけじゃないからね」

「え?」

「わたしのことは嫌いじゃないなら、まだチャンスはあるということ。今度、またお菓子を作ってきてあげるわ」


 俺はそんな岡崎に苦笑いで答えると、いったん自分の席に戻り、空になった弁当箱をカバンの中に入れ、カバンを元の場所に戻し、教室を出た。

 時刻は一時間ある昼休みうち20分切っている。俺は急いでプール更衣室のほうに向かった。

 唯は待ちきれなくてすでに帰っているのではないか。と懸念していたが、唯はまだそこにいた。

 地面にしゃがみ込んで何かを見ている。


「唯、悪い。待たせた」


 唯は顔だけ俺のほうに向けて、わざとらしくむくれながら言った。


「そうよ。待ったわよ」

「何してたんだ?」

「こんなに寒いのに、花が咲いていたから、すごいなぁって見ていたの」


 再び地面に目線を戻す。

 俺は唯の隣りにしゃがみ込むと、唯が見ている先をたどった。


 そこには名も知らない白い小さな花がいくつも咲いていた。


「小さいな」

「小さいけど、よく見ると、5枚の花弁があって、きちんと花の形をしているの。すごいよね」

「生命力がたくましいな。唯みたいだ」

「女子に言うセリフじゃないなぁ。あたし、ヒロ君にどう思われているのかな」

「踏まれても踏まれてもへこたれない雑草だな。すぐ病気になるバラじゃないのは確かだ」

「ひどい、いわれようね」

「ほめてるんだぞ」

「ほめられている気がしないわ」


 俺は立ち上がった。唯も立ち上がる。


「こんな寒い日にこんなところに呼び出してどうしたの?」


「まあ、なんだ。この前のテスト、どうだった?」


 軽くジャブを振るう。


「自分でいうのもなんだけど、ばっちりだったわ。今までにない手ごたえを感じるの。ヒロ君は?」

「俺はダメだった。中間テストがよかったから調子こいていた。それになんだか最近いろいろと忙しくてな」

「遠目から見てもヒロ君、いつも誰かと一緒にいてあっちにいったりこっちにいったりして走り回っているものね。昔のヒロ君に戻ったみたい」

「昔のって?」

「小学生のころよ。小学生の頃のヒロ君もいつも人に囲まれていたね」


 俺にとっては遠い昔のことだ。そんな記憶ははるか向こうに放り出されている。


「そうだっけ?」

「……とぼけているっていうわけではないのよね?」

「小学校の思い出は思い出したくない」

「そうなんだ」

「ところで唯」

「なあに?」


 俺は唯をじっと見つめ、単刀直入に聞いた。


「唯が胸キュンするポイントを教えて欲しいんだ」


 唯が変な顔をした。


「胸キュンってなに?」


 しまった。なんの説明もなしに、業界用語を使ってしまった。業界用語といっても一部の業界で使っているだけだが。


「唯が胸がキュンキュンするときってどんなときだ?」

「胸がキュンキュンっで胸キュン。 なんのひねりもないネーミングね。逆におもしろい」


 本当におもしろそうに唯はあははと笑った。俺も最初、その名前を聞いたときには、同じように思ったものだ。


「で、どうなんだ?」


 唯は無表情になり、静かな声で聞いてきた。


「どうしてそんなことを聞くの?」

「え? それは……」


 俺は動揺した。

 確かに唯の疑問ももっともだ。


 突拍子の無い事実の理由よりも、理路整然と納得する虚偽の理由のほうが相手を説得しやすい。しかし俺はその嘘の理由を用意していなかった。


 不覚!


 内心の焦りを具現化するように両脇から汗がじわじわとわいてくる。


「わざわざ呼び出してそんなことを聞くからには何か理由があるのよね?」


 唯、なんでそんなに無表情なんだ。

 いつもの唯らしからぬ態度に、俺はさらに焦る。


「あたしがどういうときに胸キュンするか聞いてヒロ君はどうするつもりなの?」


 どうするかと言われたら、唯を胸キュンさせて、唯の胸キュンをゲットするのだ。


「――唯を胸キュンさせなければならないんだ」

「なにそれ? 誰かから言われてあたしを胸キュンさせたいってこと? ヒロ君の意思じゃなくて?」

「俺の意思……?」


 俺の意思は……俺はどうしたんだ?


 俺は自分で自分がどんな表情をしているのか分からなかった。

 唯が泣き笑いのような表情を浮かべた。


「あたしにはヒロ君の気持ちが分からないよ」


 そして、すぐに笑顔になった。


「ただ言えるのは、あたしは今のヒロ君には絶対に胸キュンしないってこと」


 予鈴がなった。


「教室に戻ろう」


 唯はスキップをしながら俺に背中を向けた。

 俺はそんな唯の後姿を黙ってみつめるだけしかできなかった。


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