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胸キュン☆ゲット大作戦  作者: 中嶋千博
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変化

 文化祭は金曜日だったため、土日を休んで月曜日に登校することになる。

 この土日は、久しぶりにゆっくりできた。

 今までダンスやら佐々木のカラオケやら、ときには山田達を交えてゲームしたりと常に誰かと一緒にいる時間が続き、、一人でゆっくり過ごすことができなかったのだ。

 俺は久々のゲーム三昧を満喫した。


 夢の時間が終わって、月曜日になった。

 学校に登校し、外履きから上履きに履き替えようと下駄箱を開けると何かが入っていた。

 白地にピンクの花がらがついた封筒だった。


 これはラブレターか?

 誰かの下駄箱と間違えたな。


 俺は封筒はそのままそこに置いた。


 昼休みに、放送で名ざしで生徒指導の先生から呼び出され、指導室に向かった。呼ばれたのは、文化祭で出演した、ダンスとバンドのメンバーだった。


「やっぱ、呼び出されたか」


 俺はため息をついた。


「陰ながら応援しているよ。いってらっしゃい」


 二ノ宮に同情よりも、冷やかしのこもった笑顔で見送られ、俺は指導室に向かった。


 指導の教師は、体育の教師でもある。

 つまり、体育館が盛り上がってきたときに、怒鳴り込んできた教師だ。

 文化祭のときにはどこかのSPみたいにスーツを決めていた教師は、強面の顔をますます怖くして、見慣れたジャージ姿に仁王立ちで俺たちをにらんだ。


「誠心の生徒とあろうものが、文化祭で体育館のステージで告白とはどういうことだ?

 進学校としての、誠心の品位をさげる行いは罰則に価する。

 罰則として、今週1週間、放課後、体育館ステージ裏の掃除をすること」


 佐々木が控えめに発言した。


「俺、部活があって、放課後はできません」


 女子の1人も言う。


「わたしも塾があって、掃除ができない日があります」


 ピクピクと教師の眉が動く。

 部活はともかく、塾を休ませるわけにはいかないだろう。


「ええい。それじゃあ、今週の土曜日にまとめて掃除しろ。

 反論は認めん」


 というわけで、土曜日は登校することになってしまった。

 1週間ほど先だが、掃除のことを想像すると気が重くなった。

 下校時、俺の下駄箱には封筒が置かれたままになっていた。


 誰だか知らないが、封筒がそのまま置かれていたら、置いた場所を間違えたことにも気づくだろう。

 俺は封筒を置いたまま、家に帰り、そのあとは封筒のことを忘れていた。

 次の日、下駄箱には同じ封筒が入っていた。今度は封筒の真ん中に「小林博士様」とかわいらしい文字で、大きく名前が書かれていた。


「俺宛てなのか?」


 なぜ俺に?

 と思うと同時に一気に心臓が跳ねた。

 俺宛てにラブレターなのか?

 急いでカバンの中に入れ、靴を履き替える時間も惜しいと思いながら急いで履き替えると、トイレに駆け込んだ。

 大のほうの個室に入る。封筒を開くときに手が震えた。便箋には、まるっこいかわいらしい字でこう書かれいた。


「小林様

 放課後、体育館裏に来てください

            S・S」


 「S・S」って誰だよ? 間近な人間なら、佐々木蹴斗くらいしか思いつかないぞ。


 教室に入ると、朝礼が始まる前に、二ノ宮に便箋を見せた。


「なにこれ?」

「俺の下駄箱に入っていたんだ」

「ラブレターってこと?」

「分からん。『S・S』っていうやつにも心当たりがない」


 俺は昨日からの不可解な出来事を二ノ宮に説明した。


「どう思う? 二ノ宮」

「ラブレターだと思うよ。この字は女の子の字だし、昨日に続き今日も下駄箱に入れていたとなると、脈ありだと思うな。2回目は名前も書いているってことは、間違えて小林の下駄箱に入れたんじゃないというアピールにもなっているし。行ってみれば?」

「そうか……」


 先生がやってきたため、俺は自分の席に着いた。

 授業と授業の間の短い休み時間に、俺は隣のクラスの佐々木を訪ねた。


「これ、佐々木じゃないよな?」

「俺はこんなピンク色の封筒つかわないぜ。これはどこからどうみてもラブレターだろ?」

「やっぱりそう見えるか」

「行ってやれよ。その子、遅くなるまでそこで待っているぜ」

「そうか……」


 俺は放課後体育館裏に行ってみた。

 誰もいなかった。と思ったら、


「小林君?」


 かぼそい声で名を呼ばれ、ふりむくと、小柄な女子生徒が隅っこのほうに立っていた。


「えっと……」


 誰だ? この子。まったく知らない子だぞ。その女子はにこりと笑みを浮かべた。


「来てくれたんだ」

「君が手紙の人?」

「わたしは佐藤雫といいます。良かったら付き合ってくれませんか?」

「俺たちって面識あったっけ?」

「直接にはないわ。けれど、わたし、小林君が女の子を悪い人達からかばっているところを見たことがあって……かっこいいなぁと思ったんです」


 安奈のときのことか。見ている人はいるもんだなぁ。


「そんなにかっこよくないぞ。あのときも一方的にぼこぼこにされたし」

「弱くても、男の人にせめられている女の子を助けるその行動がかっこいいです」


 あのときは、ラブオーラが発動していたから出たんだ。素だったら、絶対に飛び出していない。

 そんな俺の事情を知らない彼女は言葉を続ける。


「ずっとまた会いたいと思っていました。この前の文化祭でダンスを踊っているのを目にしてあなたが同じ学校にいる人だってわかりました。同じ学校だったんですね。ダンスもお上手でした。男子の中では一番上手でしたよ」

「あはは。そうか。ありがとう」


 そのダンスの腕はゲームで培ったものだがな。


「わたしとお付き合いしてくれませんか?」


 うるんだ瞳で俺を見上げる佐藤雫。小柄で色白で、目が大きくて。めちゃくちゃかわいい。こんな子が告白してくれるなんて、まるで夢みたいだ。

 俺が口を開くより先に、どこからかやってきたのかノエルが俺に言った。


「断ってくださいね!」

「なんでだ?!」

「え?」


 佐藤雫が驚きと若干の脅えを交えた表情をした。


「あ、わるい。突然叫んでしまって。告白って慣れていないから、動揺してしまってな」

「そうですか……」


 なおも不審そうな表情を浮かべる佐藤雫。

 そんな俺たちのやり取りを目にしながら、ノエルは早口で言い放った。


「博士様は唯さんを胸キュンターゲットにしている身。それなのに、ほかの子とお付き合いを始めたら、唯さんは絶対に博士様に胸キュンしなくなります」


 し、しかし。せっかく初めて告白されたんだぞ。

 こんなかわい子に。


「ただかわいいからってすぐになびいてしまうような軽薄な子に、わたしは博士様を育てたつもりはありませんよ」


 おまえは俺の母さんか!


「そもそも博士様はこの子のことを何も知らないでしょう? 告白されたらからといって、すぐにOKをするなら、アニスとなんらかわりはありません」


 ぐぅ。あんなタラシと一緒にされるのは嫌だな。


 改めて佐藤雫を眺めてみる。

 かわいい、の一言に尽きる。付き合ってから相手のことを知っていくというのもアリだと思う。


 この子と付き合う。一緒に買い物に行ったり、遊園地に行ったり、水族館に行ったりするんだろう。

 それはきっと、とても楽しいに違いない。


 しかし。俺はこぶしを握り締めた。

 初めてラブレターをもらって初めて告白されたのに、断らなければならないなんて、こんな苦行があるだろうか。


 俺は断りの言葉を言うのをしぶった。

 ノエルがじっと俺を見据えた。


「博士様、ここで告白を受け入れたら、唯さんの胸キュンをゲットする可能性は消え失せます。

 千佳さん、三瀬さん、泉先生、安奈ちゃんの胸キュンをゲットするために、どれだけ苦労したか忘れたわけではないでしょう? その苦労がすべて水の泡になるんですよ」


「っくぅ」


 俺は喉の奥で呻いた。今までの努力が水の泡になるのは嫌だ。嫌だが。


「千佳さんの胸キュンをゲットするために、アーサーのコスプレをして千佳さんに告白し、くすりと笑われた恥ずかしい思い出や、安奈ちゃんを荒くれ者たちから助けて自分がぼこぼこになった思い出も、すべて意味がなかったことになるんですよ」


 くそう。ちくしょう。

 俺は心の中で涙しながら口を開いた。


「告白してくれてありがとう。きっととても勇気がいったと思う。けれどごめん。俺には気になる人がいるんだ」

「そうなんですか」

「ごめん」

「分かりました。それではしょうがないですね」


 佐藤雫はあっさりと引き下がった。


「さようなら、小林君」

「ああ、さようなら」


 体育館裏に一人取り残された俺。

 俺は自分の頬をつねってみた。


「いてっ!」


 夢ではないらしい。


「博士様、見事です。よく断りましたね」

「おまえが断れっていったんだろう?」

「本当に断ることができるかはさなかではありませんでした」

「そんな話を聞いたら、絶好のチャンスを逃したかもしれない気になってきたぞ」

「いろんな意味でお断りしてよかったと思いますよ」

「なぜだ? あんなかわいい子に告白されることなんて、これから先もうないかもしれないんだぞ」

「あの子からは魔性のにおいがしました。男を駄目にする魔性のにおいです」


 もとエンジェルのノエルが言うと、真実っぽく聞こえる。俺は思わずつばを飲み込んだ。


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