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胸キュン☆ゲット大作戦  作者: 中嶋千博
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ターゲットは幼馴染

 机の上の目覚まし時計を見れば、時刻は5時を過ぎていた。

 やばい。コンビニに行かなくては。


 今日は土曜日。週間サタデーを立ち読みする日なのだ。

 傷む体に鞭打って、コンビニに向かった。


 今の俺は目が合った相手をターゲットにしてしまう状態だ。


 誰とも目を合わせないようにしなくちゃな。

 道を歩いている買い物帰りのおばさん。塾帰りの小学生。電車をこいでるおじいちゃん。

 俺は彼らと目を合わせないようにしながらコンビニに向かう。

 人と目を合わさないで歩くコツがわかってきた。

 今日は安奈をストーカー、もとい見守るため、渋谷まで行ったが、その時に気づいた。

 人がたくさんいるところを歩くとき、いちいち人の顔を見ない。人はみな、動く障害物とみなしているのだ。 そう考え方を変えれば、人と目を合わせないように歩くことは簡単だ。


 と、いきなり、声をかけられた。


「ヒロ君」


 声というのは本当に不思議な力があると俺は思う。声をかけられると、いやおうなしにそちらのほうを見てしまうのだから。


 そこにはジョギングの服装をした唯がいた。目線が合う。


「ターゲット、ロックオン。標的は幼馴染の女の子平野唯さん十六歳です」


 え? まじか? 冗談だろ?


「どうしたの? すごく驚いた表情をしているけど」

「えっ? いや、その……こんなところで唯に会うとは思わなかったからさ」


 唯の家は、ここから歩けば30分はかかるところにある。驚いた理由になるだろう。


「自主トレか?」

「うん、今日の部活は午前中だけだったのよ。なんだか走り足りなくて、日の出公園まで足をのばしてみたの」

 にっこり笑う唯。


「ヒロ君はどこかに出かけるの?」

「ああ、コンビニに行こうと思ってな」

「あたしも行く。ちょうど飲み物がほしくなってたから」


 コンビニにたどり着き、店の中に入る。


「いらっしゃいませー」


 コンビニに入ると、レジカウンターの向こうから千佳さんが声をかけてきた。客が俺だと気づくと、にこりとさらに微笑んだ。

 俺も手を軽く手を振って挨拶を返すとブックコーナーに向かう。

 唯が聞いてきた。


「お姉さんと知り合いなの?」

「ゲーム友達だ」

「へえ」


 俺はいつものサタデーを読み、唯は唯で、ジュースを購入していた。千佳さんと何か会話をしたようだった。

 そのまま、日の出公園の中に入る。唯は走るでもなく、ゆっくりと歩きはじめた。このまま歩いていけば、道路を挟んで俺の家にたどり着く。


「ヒロ君、人付き合いも広くなったね」

「そうか?」

「三瀬さんと一緒にダンスの練習をする仲になっているし、佐々木君とも仲がいいし。さっきのコンビニのお姉さんとも友達なのよね。そうそう、大人っぽい女の人と楽しそうに歩いていたという噂もきいたよ」

「うわ、よく知っているな」


 三瀬やコンビニのお姉さんの千佳さんのことはわかるとして、大人っぽい女の人って、泉先生のことだよな。


 いやああ、びっくりだ。

 どこで誰にみられたんだろう?


「自然に耳に入ってくるのよ。同じ高校だし、近所だし」

「そ、そうか」


 大人っぽい女の人が泉先生だと知られているかどうかは怖くて聞けない。


「誰か付き合っている人はいるの? 二次元じゃなくてリアルなほうよ」

「俺は付き合っているやつはいないぞ」

「それじゃあ、気になる人はいるの?」

「気になる人かぁ」


 ある意味一番気になるのは、今しがた胸キュンターゲットになった唯なのだが。


「いるの? 誰よ、教えてよ」

「言わない。言う必要がないだろ」

「ということは、いるのね」

「まあな」

「教えてくれてもいいじゃない。ケチね」


 怒った表情を浮かべたあと、唯は俺がまったく想像していなかった表情を浮かべた。


「でも、安心した」


 それは微笑みだった。裏表のない心からの笑みに見えた。


「安心? どうして唯が安心するんだ」

「ヒロ君がギャルゲーにはまったきっかけって、小学校の卒業式に同じクラスの女の子に告白して振られたことがきっかけだったんでしょ? そのトラウマから解消されたんだなって」

「あれは関係ないぞ」


 即答した。

 嫌なことを思いださせるな、まったく。


「もしそうだとしたら、あたしも責任を感じていたの。あたしがヒロ君を挑発したからだもの」


 俺はあの時の記憶を追い払うように大きな声を出した。


「唯が責任を感じるのは見当違いだ」

「え?」

「自信をもって言ってやる。遅かれ早かれ俺はギャルゲーに手を出していた。だから唯が気にかけることはないぞ。


「目の前にゲームがある。ならば俺はそのゲームをやる。なぜならば、俺はゲーム好きだからだ」


 言い切る俺。そんな俺に唯は目をぱちくりさせ、「あはは!」と、豪快に笑った。


「ヒロ君らしい言葉だね。ほんとうに」


「ヒロ君はヒロ君だね。あたし、小学校の時、いつもヒロ君の背中を追っていたんだよ」

「そうだっけ?」

「たとえば、小学校4年生のころに、体育の授業でバドミントンをやっていてヒロ君に負けてそれが悔しくて、テニスクラブに入ったことがあったな」

「そんなことがあったっけ?」


 小学校のときの記憶は本当にあいまいだ。

 それでもおぼろげに記憶をたぐる。小学校4年生の頃といえば、ちょうど、家族でテニスゲームにハマっていたころだ。

 ステックを振ってスマッュを決めたり、サーブたりしていたな。右持ち用と、左持ち用の設定ができて、最終的にはどっちでもできるようにマスターしたんだった。

 ということは、俺のゲーム好きは、親の責任でもあるということになるな。

 そう考えると、DDRもカラオケも家族から影響を受けてやりこんでいる。唯一俺が自分で手を出したのは、ギャルゲーだった。そこから自分の世界が広がったのだ。

 そんなことを考えている間に、唯は言葉を続けた。


「中学校三年のとき、初詣でばったり出くわしたときに、射的で競ったでしょ? あのときもわたしはヒロ君に勝てなかった」

「それはゲーセンで射的の腕をあげていたからだ」


 ついでに、その射的でとった景品は俺にとって必要のないものだったから唯にあげたことを思い出す。


「あのあとあたし、ヒロ君に負けたのが悔しくてアーチェリー部に入ったの」

「アーチェリー? 唯がアーチェリーをやっていたなんて初耳だ。中学三年でアーチェリー部って、半年しかできないじゃないか」

「そうだよ、少ししかできなかった。でもそれでよかったのかも。やってみて分かったけど、アーチェリーとかダーツとか、物を投げる系が苦手みたいだから、やっていてもきっと続かなかったわね」


 肩をすくめてみせる唯。


「ヒロ君はいつもあたしの前にいる。あたしが追い越したときには、違う場所にいるのよ」

「唯、俺のこと、過大評価してないか」

「ヒロ君こそ、自分のこと過小評価しているよ」


 ノエルが隣でうんうんと頷いた。


 公園沿いの道路にたどり着いた。


「じゃあ、あたし、家に向かいながらもう一走りするわね」


 道沿いに踵を返したところで、唯は誰かとぶつかった。


「キャア!」


 小さな悲鳴を上げる唯。


「あ、ごめん。大丈夫?」


 涼やかな声で謝る人物。


「お前……!」


 俺は口の中で呻いた。そいつはブラックエンジェルのアニスだったのだ。


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