ストーカーではなく見守りなのである
中間テストがテストが終わり、ほっとしてる学生が少なからずいる、ある日の夕方、安奈がうきうきした様子でリビングに現れた。
席に着いてからもにやにやしていて、自分のことをどうぞ聞いてください、といわんばかりだ。
「どうしたの安奈、ずいぶん浮かれているようだけど」
まっさきに質問したのは母さんだ。
「今度の土曜日、友達と映画を見にいくことになったの」
父さんが相槌をうち、俺が質問する。
「映画ねぇ」
「どんな映画なんだ?」
「今、話題のSF映画なの。最初の映画は三十年以上も前に上映されたらしいけれど、今度観に行くのは、その映画のときの時代から300年後の世界の話なんだって」
「それか。俺も気になっててDVDが出たらレンタしようと思っていたやつだ」
本当なら映画も見たいが、映画はお金がかかる。それを俺より先に映画館で観に行くとは安奈め、リッチだな。
「その映画の最初のやつは、父さんもリアルでは見てないな」
「そうなんだ」
「何度かテレビでもやっていたから、それを見たことがあるくらいだな。確かにあのシリーズは面白い」
「母さんも好きよ」
しばらくはその映画の話で盛り上がった。
「それで、友達って誰? 桃花ちゃん?」
質問したのは母さんだ。
「ううん、桃花ちゃんじゃないわ」
「もしかして男の子?」
「……うん」
照れたようにうつむく安奈。
この様子はまさか。
横やりから質問の声を発したのはノエルだった。
「山田君じゃないですか?」
そんなに大声を上げなくても聞こえるぞ。俺にだけはな。
「何度か遊びに来ている安奈と同じ学校の男の子達のうちの誰か?」
「うん」
「あの背が高い子かしら」
「そう、山田君っていうの。サッカー部の男子で陸上部のわたしたちとはもともと時々、話をする仲だったんだけど。最近よく会話をするようになって、それでね。観たい映画の話になって」
「なるほどねぇ。いいわねぇ」
にこにこと相槌を打つ母さん。
「くう。こうやって息子も娘も親の手からじょじょに離れていくのか」
父さんは周りに聞こえる独り言をつぶやいた。
安奈と山田が初デート。
初デートで映画とはなんともうらやましい……、じゃなかった。ますます安奈の胸キュンをゲットする機会がなくなるぞ。
いいのか、俺!
いいのか、ノエル?
「もちろんダメです」
ノエルが言い切った。
安奈が山田とデートをする日になった。この日は安奈は朝7時頃ころに起きて、おめかししていた。そして家を出たのが、8時半過ぎ。
「ちきしょう、なんで俺がストーカーみたいなことを」
俺は安奈の様子を少し離れたところから見守っていた。ストーカーではない。決してない。
「安奈ちゃんが男性のどんなところに胸キュンするのかを偵察するためですよ」
そう、安奈が男のどんなところに胸キュンするかを知るためなのだ。これは崇高な使命であって興味本位ではないのだ。決してないのだ。
今日の安奈は、黄色と白のポーターのキャミソールに、白い半袖のカーディガンをはおり、下はカーキ色のホットポンツだ。
太ももがあらわになっている。
こら、はしたないぞ、安奈。
スニーカーとレースの縁取りのついたくるぶし丈の靴下。
胸元にはシルバーのアクセサリーが光る。
南浦和駅で山田が安奈を待っていた。
「おはよう、小林さん」
「おはよう、山田君。ごめん、待たせちゃったわね」
「俺も今、来たところだよ」
待ち合わせに合流した男女がする会話として、もはやテンプレとなっている会話を、安奈と山田はお互いを見つめ合いながら、うれしそうにしている。
中学二年生の男子のくせに俺より背が高い山田。
そんな山田は、遠くからでもその背の高さですぐにやつだと分かる。
山田は半袖にカーゴパンツといったラフなスタイルだ。ラフなスタイルなのに全体的にさわやかな雰囲気が漂う。これは持って生まれた才能なのか。
「山田君、やりますね」
「へ?」
「一見、なんの工夫もしていないようなファッションですが、全体的に紺色を基調とした色の統一感があります」
「へえ、そうか」
改めてみればノエルの言う通りだ。要は持って生まれた才能もあるかもしれないが、どれくらいさりげなくおしゃれに見せるかというセンスがものをいうのだ。
うーむ。奥が深い。
やつらは池袋ではなく、わざわざ渋谷まで行って映画を観に行った。池袋にも映画館はあるのに!
安奈たちが映画館に入ると、いつ出てくるかわからないので、結局俺もやつらの後を追うように映画館に入る。
周りはカップルや家族連れが多い中、一人映画館。寂しすぎる。
しかし寂しがっている暇はない。俺には任務があるのだからな。
映画は面白かった。安奈たちを見張る任務も忘れて見入ってしまった。映画が終わり、余韻に浸っていて、ノエルにせつかれた。慌てて安奈たちの後を追って、映画館を出た。
が、映画館を出ると安奈たちの姿はすでに視界の中にはなかった。慌てて探しまくる。
そして、ようやく見つける。少し細い道の脇で、数人の男たちに囲まれている安奈たちの姿を。
「なんだ、あいつら」
ただならぬ雰囲気だ。俺は安奈たちのほうにかけだしていた。
「お前ら、何やっている?」
「あん?」
こちらを振り返る男たち。歳のころは俺と同じくらいか。つまり高校生。間違っても中学生ではない。
「あなたたちに渡すお金はありません。通してください」
「嫌だね。無理やりにでもいただくぜ。ついでに女もいただいてやる」
「なんだって?」
俺は口の中でつぶやいた。安奈を下品な目でみるんじゃない。ゆるせん。
「小林さん、逃げるんだ」
「山田君をおいていけないわ」
「なんだい? お前らガキのくせに恋愛ごっこかぁ、あん?」
「待て」
安奈達と男達の間に入ったのは俺だった。
「お兄ちゃん、どうしてここへ?」
安奈が言った。
デート中に年上の男子達に恐喝されているところに、兄が現れたら、まあそういう疑問がわくようなぁ。
しかし、ここで詳しく説明している時間はない。
「ここは俺が食い止める。お前達は逃げろ」
「けれどお兄ちゃん」
「いいんだ。お前たちじゃ歩が悪すぎる。山田は安奈を守るんだ。行け」
「すみません」
「お兄ちゃん!」
山田が杏奈の手を引いて去って行った。
「なんだお前、ミナコーじゃないな」
鋭い目つきで俺をにらみながら言うのは体格ががっしりしている男だ。何か格闘技をしている体型だ。
ミナコーと言ったらこのあたりじゃ三波高校しかない。あまりいい評判を聞かない高校だ。
「どこのやつでもかまわないさ。殴れるんならな」
「もやしみたいな体をして勉強ばっかりしているんだろ? たまには運動しようや」




