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胸キュン☆ゲット大作戦  作者: 中嶋千博
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海か山かで喧嘩する

 水曜日、二ノ宮が暗い表情で登校してきた。


「二ノ宮、どうした? 気分でも悪いのか?」


 二ノ宮は俺のほうにのろのろとした動作で振り向くと、一言、言った。


「清羅ちゃんと別れた」

「なんだって? これまたどうして?」

「……」


 それ以上は言いたくないというように、無言で首を横に振ると、自分の席に座る二ノ宮。

 この世が滅ぶかのような絶望ぶりだ。


 午前中の二ノ宮はずっとそんな調子だった。こんな二ノ宮は俺の手に負えない。俺は昼休みに入る前に助っ人にメールを打った。


 『ヘルプ! 二ノ宮の様子がおかしい。清瀬と別れたそうだ』


 これでやつはすべてを察してくれるだろう。


 昼休みになった。


「昼飯は食べられるか?」

「……うん」


 まだぼうっとした様子で二ノ宮は返事をした。

 食事をしながら、ぽつぽつと二ノ宮は話をし出した。


「昨日は塾があって塾の帰りに、今週末にある3日連休のうちのどこかで遊びに行きたいねという話になったんだ彼女は海がいいといい、俺は山がいいといった。

 意見の不一致から喧嘩みたいになって、気付いたら別れるということになっていた」

「急な展開だな」


 俺の隣で同じく二ノ宮の話を聞いていたノエルが顔色を曇らせた。

 口の中で何事かをつぶやく。


「これはもしかしたら……」


 無気力に言葉を続ける二ノ宮。


「けれど悔いはないのだよ。男として一回り成長した気分だ。ほほほ」


 なんとも痛ましい笑顔だ。


「謝って、よりを戻したらどうだ?」

「あんな大喧嘩をしたんだよ。いまさら前みたいな仲にはなれないよ」


 弱気な発言。うーむ、こういう相手にどういう声をかけてやればいいものか。

 ゲームにも失恋した男のシュミレーションなんてないしな。


 とここまで考えて俺自身も、千佳さんや三瀬や泉先生に対して、失恋のような感情を味わったことを思い出して、気分が沈んできた。

 俺の場合は、その都度、新しい胸キュンターゲットが現れ、そちらに気を紛らわせながら、心の傷を癒していったのだ。

 ということはだ、新しく好きな人を見つければ二ノ宮の今の心境は解消できるのでは?

 しかし、アニメや小説じゃあるまいし、都合よく新しく好きな人ができるはずもないよなぁ。


 そこにようやく助っ人がやってきた。


「お二人とも、ずいぶん、うかない顔をしているわね」


 唯である。ヘルプメールは唯に送っていたのである。

 唯は片手にかじりかけの焼きそばパンを持っていた。

 唯は近くの空いている椅子を勝手に近くに引っ張ってきて座った。


 唯一人でここにきたことを確認しつつ、それでも唯に聞いてみる。


「唯、いつも一緒にいる友達は?」

「学食よ。あたしだけこっちに戻ってきたの。ヒロ君のメールがあったからね」


 唯は言うと、二ノ宮に向き直った。


「清羅ちゃんと別れたんだって?」

「平野さんにも話したのか?」


 責めるような目線を向けてくる二ノ宮。


「恋愛の相談は俺には不得手だからな。唯はこれでも女子だ。女子側の意見を聞くのもいいだろう」

「ヒロ君、これでも女子ってどいうことよ? あたしはどこからみたって女子じゃない」

「普通の女子は焼きそばパンを食べながら、廊下を歩かないぞ」

「時間節約のためよ」


 詫びれもせずに言う唯。唯はそんな話をしているうちに、焼きそばパンを食べ終わり、もう片方に持っていたいちごカフェオレのストローに口を近づけて、一口すすってから、再び、二ノ宮に向き直った。


「どういう別れ方をしたの?」


 二ノ宮はまたたんたんと話した。


「昨日は塾があって塾の帰りに、今週末にある三日連休のうちのどこかで遊びに行きたいねという話になったんだ彼女は海がいいといい、俺は山がいいといった。

 意見の不一致から喧嘩みたいになって、気付いたら別れるということになっていた」

「なるほどねぇ。お互い感情が高ぶって引けなくなったというところかしら。二ノ宮君は別れたくないのよね?」

「別れたくない、と思う」

「なに、そのあいまいな言い方は?」

「なんだか気持ちが変なんだ。清羅ちゃんを思うと真っ先に思うのは、清羅ちゃんが好きだというこど。その後清羅ちゃんのことがとても嫌いだと思ってしまうんだ」

「なにそれ?」

「喧嘩したときのことを思い出すと、すぐにその時の気持ちがぶり返して清羅ちゃんのことなんて大嫌いだ。顔もみたくないと思うんだよ」

「じゃあ、このまま別れるでいいじゃない?」

「別れたくない。うわあ、僕はどうすればいいんだ」


 二ノ宮は机にふせった。


「ここで一人もんもんと考えていても解決しないわ。二人で話し合いましょう」

「会ったら、僕はまた、何を言い出すか分からない。これ以上清羅ちゃんに嫌われたくない」

「あたしたちが仲をとりもってあげる。こういう話は長引けば長引くほど、取返しが付かなくなるわ。二ノ宮君、次に清羅ちゃんと会うのは何時?」

「もう、会えないよ」

「次の塾の曜日を聞いているの!」

「それなら今週の木曜日だよ」

「木曜日ね。その日、清羅ちゃんを捕まえてゆっくり話をしましょう。あたしも同席するわ。ヒロ君もね」

「俺もか」

「頼むよ、小林。平野さんだけだと不安だから」

「しょうがないな」

「あたしだけじゃ心配ってどういう意味よ?」

「男の仲間がいて欲しいんだよ」

「なるほどね」


 その日家に帰ると、ノエルが気になることを言ってきた。


「博士様、二ノ宮さんと清羅さんを喧嘩させたのはブラックエンジェルかもしれません」

「なんだって?」

「前にも言いましたよね。ラブラブなカップルにわざと喧嘩をさせてそこに生じる憎悪と嫌悪の感情を集めるブラックエンジェルがいるって」

「今回の二ノ宮の件がそれだと言うのか?」

「海か山かで喧嘩別れになるなんて、唐突すぎます」

「まあ、そうだけどよ。男と女の痴情のもつれって、いういうもんじゃないのか?」

「うまっ! 痴情だなんて、博士様、おませな言葉を知っていますね」

「うるさい」

「もし、ブラックエンジェルが影で動いて、二人の感情を愛情から憎悪に変化させたのなら、やっかいですよ」

「どうしてだ?」

「ブラックエンジェルの仕業で、一度こじれた感情を元に戻すことは難しいのです。わたしが本来のエンジェルのキューピットの力を持っていれば、その矢の力をもって、再び相手に恋をさせることは可能ですが、今は見習いエンジェルなのでそれはできません」


 俺はノエルの言葉を理解し、咀嚼し、自分の中で解をもとめた。


「こじれた感情を元に戻すことは難しいが、できなくはないんだな?」

「はい」

「じゃあ、和解の場を設けるという唯のアイディアは言い当て妙なんだな。唯はこういうトラブルを解決するのが得意なんだ。やつならこじれた感情を元に戻すことができるかもしれない」


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