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胸キュン☆ゲット大作戦  作者: 中嶋千博
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昔の男

「一人で遊園地か? 寂しいもんだな」


「どうして一人だと思うの?」


「おまえみたいな堅物を遊園地に誘う男なんていないだろ?

 いたとしたらよっぽどの変わり者だな」


 泉さんの顔色がみるみる青ざめる。

 そんな先生の様子をみて、俺は身体が熱くなった。なんだなんだあのおっさん。

 泉さんを見下すような目で見て。泉さんはお前みたいなださいおっさんがさげすむような女じゃない。

 この体の熱さはすでに知っている。アフロデーナの加護が発動しているのだ。


「ノエル、先生の下の名前、なんて言うんだっけ?」

「小百合さんです。小さな百合と書くんですよ」

「わかった。ありがとう」


 俺は泉さんのところに向かった。


「小百合さん、おまたせ」


「小林君……」


 男は「誰だこいつ?」というように俺を見た。そんな男に俺は無機質な目線を向け、泉さんに問う。


「このおじさん、誰?」

「お、おじさん?」


 男はおじさんと言われて顔色を変える。泉さんが固い声で言った。


「昔のちょっとした知り合いよ」


「へえ、ちょっとしたね」

「お前、なんだよ?」

「おじさんこそ何者ですか? 小百合さんと知り合いみたいだけど」

「同じ大学だったもんだ」

「へえ。大学時代の……。昔の話だね。俺は今、小百合さんとお付き合いしている小林です。どうも~」


 わざと軽い口調で言ってみる。


「付き合ってるだと? あははは。これは受けるな」


 腹を抱えて男は笑った。そのまま目線を泉さんに向ける。


「まだ子供じゃないか。小百合、学生をたぶらかしてるのか?」

「……」


 先生は何も言い返さなかった。


 俺は両手で一つずつ持っていたカップのアイスクリームを花壇の縁に置いて、腕を組み改めて男を見つめた。


「俺、大学生ですよ。童顔なんでよく歳よりも若く見られるんですよね。小百合さんとは俺のほうから告白して付き合ってもらった感じです。

 小百合さんは美人だし、料理もうまいし、俺の自慢の彼女ですよ」


 半分の嘘と半分の真実をまぜる。泉さんの胸からピンクのふわふわがでてくるのが視界の端に映った。


「自慢ねぇ。小林とかいったか、お前、まだまだ若いな。他の女を知ったら、その女のつまらなさが分かってくるぜ」

「小百合さんはつまらなくないですよ」

「そいつ、堅物だろ」


 泉さんを顎で示す男。


「堅物だなんて、おじさん、小百合さんのことをよく分かってないんですね」


 男はけっそうを変えた。


「なんだと?」

「理論が好きで、俺が知らない方程式や法則を知っている。小百合さんといると勉強になるよ。小百合さんを堅物なんて言う人は、きっと小百合さんについていけない頭が悪い人なんだろうな」


 憐れむような目線を男に向ける。


「ガキィ、言わせておけば……」


 男はぎろりと俺を睨みつけた。

 やべぇ。男の腕はその半分は脂肪かもしれないが、俺の倍はありそうだ。

 喧嘩になったら、俺は絶対に勝てないぞ。


 それでも俺は身体を斜めに構え、両こぶしを顎の前にもって構えた。アクションゲームでよく使用する空手家のキャラクターがバトル開始時にこういうポーズをとるのだ。


 一触即発。


 そこに、あどけない子供の声が男にかかった。


「パパー、はやくこっちきて」


 小さな手で男のシャツを引っ張っているのは3歳くらいの小さな男の子だった。


 泉さんが立ち上がり、驚きの声をあげる。


「パパってあなた、結婚したの?」


 男は口の中で小さく舌打ちをした。

 そしてあたりに目線を走らせ、一人の女性に焦点を当てる。


 大柄な女性で、額やほほに汗を浮かばせながら、こちらに向かっているところだった。

 彼女の目線は男に定まっている。

 女性には聞こえない声音で男に聞いてみる。


「でき婚っていうやつですか?」

「うるせぇ」


 ギロリとにらんでくる男。俺はその目線を真っ向から受け止めた。


「まったくもう、いきなりいなくなるから心配したわよ」


 女が男に言う。


「いや、ちょっとトイレにな」


 言って彼女たちの視界に入らないように、俺達から遠ざかる男。


「昼からビールを飲んでいるからオシッコが近くなるのよ」

「パパ、あれ乗りたい」

「ああ、わかったわかった」


 男は今までの俺たちのやり取りを忘れたかのように、ごくありきたりな家族の会話をしながら去って行った。

 俺は泉さんに頭を下げた。


「泉さん、ごめんなさい。彼氏面しちゃって」

「いいのよ。逆にありがとう。小林君のおかけで、溜飲が下りたわ」


 おかしそうに泉さんは笑った。


「大学生とはずいぶんサバを読んだものね」

「すみません」

「まあ、今の小林君なら、それなりに見えるから大丈夫よ」


 俺は何気なく花壇の縁に置かれたままのアイスクリームのカップに目線を移した。表面が解けて、カップの中に液体がたまっている。


「あっ! アイス溶けちゃいましたね。あたらしいの買ってきます」

「いいわよ、食べられるわ。わたしはどちらを手にとればいいかしら?」

「抹茶味がなかったから、チョコを買ってきたんです。俺はバニラでもチョコでもどちらでも大丈夫なので、泉さんが好きなほうを選んでください」

「いいわ。チョコをもらっていい?」

「はい。そのチョコ、ビターチョコらしいです。少し苦いかもしれません」

「苦いほうが好きだからいいわ。ベストなチョイスよ。小林君は気がきくわね」

「それほどでも」


 ノエルのアドバイスの賜物だが、おかげで好感度が増したようだ。

 俺たちは溶けかけたアイスを食べた。


「さっきの男の人ね、大学時代に付き合っていた人なの。一時は結婚まで考えていた仲なのよ。けれど大学を卒業した途端に、一方的にさよならされたの。

 理由もさっきあの男が言っていたとおり、わたしが堅物だったから。もっと気楽な女の子のほうがお好みだったみたい」


 言って自嘲じみた笑みを浮かべる泉さん。


「あの男、見る目がなかったんですよ。見た目もさえないし、あんな男、泉さんには合いません」

「うれしいことを言ってくれるわね」


 泉さんはやんわりと微笑んだ。


「あれでもね、あの人、大学時代はもっと身が引き締まっていて、それなりにイケメンに見えたのよ。そんな見た目に惑わされて付き合っていたわたしもわたしね」


「泉さん……」


 俺はただ、気づかわし気に、先生の名をつぶやくことしかできなかった。

 そこに、観覧車の乗り場の係の人が張りあがる声が響いた。


「今なら待ち時間15分。夜になると1時間は待つことになりますよ。今が乗り時でーす」


 俺たちは顔を見合わせた。俺のほうが先に言った。


「観覧車に乗りましょう!」

「そうね」


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