あいつの存在は幻だったのか?
月曜日、朝になってもノエルは姿を見せなかった。
少し心配しながら、学校に登校する。
廊下で三瀬と会った。
「小林君、おはよう」
「おはよう、三瀬」
おおお?!
周りから驚きの声があがる。そんなに俺が三瀬と会話するのがおかしいか。
奇異の目線を無視して、俺は自分の教室に入った。
休み時間に唯がやってきた。
「ねえ、あたしの気のせいかもしれないけど、昨日、三瀬さんとゲーセンにいなかった?」
くう。見られていたか。
「たまたま三瀬と会ってな。なりゆきでゲーセンに行ったんだ」
「やっぱりあれ、ヒロ君だったんだ。いつから知り合いになったの?」
「三瀬が俺にハンカチを貸してくれたことがあっただろ。あの時からだよ」
そこに二ノ宮が話しかけてきた。
「一緒にゲーセンって。それ高校生のデートコースじゃないか。二人は付き合うことになったの?」
「うっそ!」
唯が大仰に驚く。
「ヒロ君が三瀬さんとお付き合い? 美女と野獣ならぬ、美女とオタク。信じられない」
「付き合っていない。変な噂を流すなよ。三瀬に失礼だろ。昨日のゲーセンは本当にたまたまだ」
「そうよね。ミス誠進の三瀬さんがヒロ君にほれるはずないものね」
唯がうんうんと一人で納得する。
結局この日、ノエルは俺の前に姿を現さなかった。
そして次の日も、その次も。
こんなに何日も姿を見せないと、さすがに心配になってくる。
胸キュンを集められない場合、消滅してしまうとノエルは言っていたが、消滅する日はまだ先のはずだ。
ノエルの身に何かあったのか?
「ノエル、いるなら姿をみせろ!」
「俺の中心で世界を罵る」と叫んだ日の出公園で、ノエルの名を叫んでみたが、ノエルは姿を現さなかった。
それどころか、その場にいたすべての人たちから奇異な目で見られてしまった。
ノエルのやつ、本当にこのまま、姿を見せないつもりかよ。
ノエルがいなくなっても、眼鏡でなくコンタクトレンズを使用し、髪型も毎日セットするようになった。髪型のセットも最初のころよりも手慣れてきた。
ノエルがぴったり俺についていちいち注意していたことが、ここにきて習慣化できてきたらしい。
コンタクトレンズをはめたり外したりするのはいまだに面倒くさいが、たまに怠けようとすると、「コントクト!」とノエルがまなじりをつりあげて叫ぶ声が耳の奥で聞こえるような気がした。
三瀬とは、廊下などで会ったときに、簡単な挨拶をするようになった。
「ダンスクラブに通い始めたんだってな。小耳にはさんだぞ」
「ええ。今はピアノ教室と並行しているけれど、そのうちダンスにしぼろうと思っているの」
「一緒にゲーセン行ったとき、三瀬は初めてのDDRをクリアしていたもんな。リズム感があるなと思っていたんだ」
「わたしもその時そう思ったの。小林君のおかげで好きなことを見つけることができたわ」
見た者なら誰も胸キュンしてしまうだろう明るい笑顔を三瀬は見せてくれた。
千佳さんとも、三瀬ともノエルからのプッシュがなければこれほど親しい仲にならなかっただろう。
二人とも、本気の恋にはいたらなかったが、二人と出会えたことで、俺の日常が今までより、楽しいものになったのは事実だ。
そして気づかされる。いかに俺が他人に対して無頓着であったかを。
友達は少なく、勉強以外に余った時間はゲームに明け暮れる毎日。リアルの他人より、ゲームの人物との会話に重点を当てていたのだ。
ノエルとの出会いは俺の人生においていい方向に向けてくれたのだと思える。
日々は緩やかに過ぎていく。
泉先生の数学の授業を普通に受け、二ノ宮と女子に聞かせられないバカな会話をし、唯とはどうでもいい話で笑いあい、三瀬と会えば二言三言挨拶する。
そして泉先生とは何の進展もなく、夏休みに入った。




