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胸キュン☆ゲット大作戦  作者: 中嶋千博
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不思議少女

 心境を言い当てられ、内心ぎくりとする。


「えっと……君、へんな恰好しているけど、これからお遊戯会でもあるのか?」

「へんな恰好とは失礼ですね。この恰好はわたしの制服です。

 それに、わたしがどんな格好をしていようが、わたしの姿は小林博士様にしか見えないんですよ」


 エヘッと笑って見せる少女。


「そんなわけないだろ」

「疑うなら、他の人に聞いてみてください」


 ちょうど犬の散歩をしているおじさんがいたので、そのおじさんに声をかけてみる。


「あの、すみません」

「うん? なんだね?」

「ここに変な恰好をした女の子がいますよね?」


 俺は少女を指差した。


「は……?」


 おじさんは俺が指差したあたりを見て不思議そうな表情を浮かべると、次には気味の悪いものでもみるような目線を俺に向けた。


 そんなおじさんの足元で、チワワと思われる小型犬が少女のほうにくんくんと鼻をならしている。


「何もないぞ」

「へ?」

「からかうのはやめなさい。これだから最近の若者は……」


 逃げるようにそそくさとチワワを引っ張って去って行くおじさん。


「うっそ……」


 たらりと背中を冷や汗が流れた。


「だから言ったでしょう? わたしの姿は小林博士様にしかみえないって」

「これはなにかのドッキリか――?」


 善良な男子高校生をだまして笑い飛ばすタチの悪いドッキリじゃないか。隠しカメラがないかと、あちこち見間渡す。


「ドッキリじゃありませんよ」

「ほんとうに俺にしか見えないのか?

 どうして、なぜ?

 俺は説明を求める!」

「ここで説明してもいいですけど、いいんですか?」


 何がいいんだと言い返そうとしたが、すぐに少女の言いたいことが分かった。

 大学生くらいの男の人が俺に声をかけてきたのだ。


「君、大丈夫? 具合が悪いなら救急車を呼ぼうか?」


 ジョギングの最中をしていたのだろう。ジャージランニングシューズといういで立ちだ。俺の近くにいる変な恰好をしている少女にはまったく目線を向けない。


「あの、ここに女の子の姿が見えませんか?」

「み、見えないけど……」

「そうですか……」


 ほんとに見えないんだ。あり得ない現象に感情がついていかず、頭が真っ白になる。


「ほんとうに大丈夫か? 顔色が悪いみたいだけど」


 お兄さんに話しかけられてハッとする。


「……大丈夫です。ちょっと勉強のし過ぎで幻覚が見えたみたいです。今日は早く帰って寝ます」

「それがいいよ」


 お兄さんは言うと、ジョギングをしながら去って行った。


 ポカンとしながらその後ろ姿を見送る俺に、少女はかわいらしい笑みを浮かべた。


「本当に誰にもみえないんですよ。わたしは嘘をつきません。嘘をついたら神様から罰を受けてしまいますからね」


 少女の笑みは、今の俺には化け物の笑みに見える。


 家に帰ってゆっくり話を聞きたいところだが、家族の誰かがいたら、いろいろとめんどくさい。特に妹がな。

「何一人でしゃべっているの、お兄ちゃん、きもーい!」


 なんて言われるのは火を見るより明らかだ。


 歩きながら何人もの人とすれ違うが、誰も少女の姿は見えないらしい。こんな変な恰好をしているのに、誰も少女に目をくれない。


 俺たちは公園内の池のほとり、日陰になって人があまり寄り付かないところに移動した。


「さて、説明をしてもらおうか」

「はい。まずは自己紹介からですね。わたしはエンジェルのノエルといいます」

「エンジェル? ……天使か?」


 俺はおもいっきりいぶかし気にノエルと名乗る少女を見つめた。


「はい、そうです」


 大仰に頷くノエル。それと同時に、背中にしょっている偽物の翼が小さく震えた。


「ただし天使という単語は認識範囲が広すぎです。大天使のミカエル様やガブリエル様も天使ですし、わたしみたいな御使いも天使といっちゃあ天使です。

 なのでわたしのことはエンジェルという存在だと認識してください」

「同じものじゃないのか? 天使は日本語でエンジェルは英語という意味で」

「認識の差別化ができればそれでいいんです。

 わたしが言うエンジェルは神様や天使様に仕えている存在です。

 わたしが仕えているのは女神アフロデーナ様なんですよ」


 自慢げに、ない胸を張るノエル。


「アフロ?」


 俺の脳裏にもじゃもじゃのアフロヘアが思い浮かんだ。


「アフロデーナ様です。アフロデーナ様は愛の女神ですよ」

「ふーん」


 アフロデーナという女神がどんな奴なのか知らないから、そっけない返事になる俺。

 そんな俺の反応にノエルは不服な表情を浮かべたが、すぐに真面目そうな表情を作った。


「小林博士様に手伝ってもらいたいたいことがあるのです」

「な、なんだよ?」


 俺は身構えた。嫌な予感しかしない。


「わたしと一緒に胸キュンを集めてください!」


 胸キュン?


 なんじゃ、そりゃ?


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