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胸キュン☆ゲット大作戦  作者: 中嶋千博
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ターゲットはミスコン優勝者

 月曜日の朝、妄想の世界から現世に戻ってきた俺は、家を出ると半分寝ながら歩いて学校に向かった。


「おはよう!」


 途中、元気な挨拶とともに唯が話しかけてきた。

 目線が合いそうになり、あわててそらす。


「おはよう、朝から唯は元気だな」

「中間テストで休みになっていた部活が今日からまた始まるからうれしくてね。

 ヒロ君は……なんかだるそうね」

「ああ、まだ現実の世界に半分しか戻っていない」

「休日はいつものようにゲーム三昧だったのね。ヒロ君らしいわ」


 唯は「あはは」と明るい笑い声をあげた。


「髪型、まだ頑張っているのね」

「まあな。前髪の斜めのラインをいかにキープするか模索中だ」

「女子みたいな発言ねぇ」


 そんな会話をしながら校舎に入り、外履きから上履きに履き替える。

 玄関口は広めのロビーになっており、その一か所で人だかりができていた。


「なんだ?」


 よく見ると、一人の女子を複数の男女が囲んでいるのだった。


「ミス誠進の三瀬さんよ」

「ミスなんだって?」


「三瀬さんよ。知らないの?」

「知らないな」

「去年の文化祭のミスコンテストで、3年生と2年生を押しやって一年生で優勝した子よ」

「ふうん、そうなのか」


 去年の文化祭といえば、ちょうど推理シュミレーションゲームにはまっていた時期だな。


「その三瀬って子の周りっていつもあんなに賑やかなのか?」

「だいたい何人か取り巻きはいるけれど、今日はまた格別ね。ゴールデンウィーク中に発売された『エイトナイン』の街角おしゃれさんコーナーで三瀬さん紹介されたから、そのせいだと思うよ」

「へえ」


 『エイトナイン』は女子中学生と女子高校生を対象にしたファッション雑誌だ。安奈の愛読書でもあるから、名前だけは知っている。余談だがエイトの8と9インの九を足すと17になる。まさに17歳前後の女子をターゲットにしたファッション雑誌なのだ。


 ようやく中心人物が見えた。ふわふわの髪。学校の規則を守るぎりぎりのスカート丈。

眉根をひっそりとひそめ、困ったような笑みを浮かべている。

 さすがはミスコンで優勝するほどのことはある。美少女だ。


「ギャルゲーに出てくるような女の子ってホントにいるのな」

「まったくどこまでオタクなのよ」


 唯がばしっと俺の肩をたたいた。


「痛いぞ、唯」


 思わず唯を睨む。また目線が合いそうになり、あわてて顔を背けた。

 するとそこに壁があり、見事に壁に顔面をぶつけた。


「いてっ!」


 顔をおさえてうずくまる。


「あ、ごめん、ヒロ君。大丈夫?」

「……ああ、大丈夫だと思う。鼻とでこをぶつけただけだ」

「ヒロ君、大変! 鼻血がでてるよ!」


 俺の鼻の下を生ぬるい何かが落ちていくのを感じた。


「うわ、ティッシュ、ティッシュ」


 カバンの中をあさる俺。唯もあわてて自分のカバンをかき回す。

 慌てているためにすぐにティッシュがでてこない。


「これ、よかったら使って」


 差し出されたハンカチを受け取り、鼻に当てながら、相手に振り向きざま、相手に礼を言う。


「ありがと……――っ!」


 その人物と目線が合った。


「ターゲット、ロックオン! 三瀬美月さん、十六歳、誠進高校の女子高生です」


 俺のすぐ近くでノエルの声が響いた。


 うっそ~ん!


「大丈夫?」


 心配そうな表情を浮かべて俺を見つめる三瀬美月。


 うん、美少女だ。

 いやいや、今はそんなことを思っている場合じゃない。


「ああ、大丈夫だ」


 俺は立ち上がった。


「悪い。ハンカチを汚した」

「それは気にしないで。あなた、保健室に行ったほうがいいんじゃない?」

「こんなの、おさえていればすぐに止まるから心配ない」

「ごめんね、ヒロ君。わたしの力が強かったばかりに」


 唯が申し訳なさそうに言ってきた。


「唯の力はそんなに強くなかったぞ。俺がたまたま壁にぶつかっただけだ。気にするな」

「額も赤くなっているわよ。保険室の先生に見てもらったほうがいいわよ」


 三瀬が言った。


「俺が連れて行ってやる」


 そう言ってきたのは顔だけは知っている同じ学年の男子だった。


「いや、いいって」

「来いよ」


 問答無用で、俺は男子生徒に保健室に連行された。俺の耳元でやつは言った。


「人目をひく行為で、美月の気をひこうとするな。わざとらしい」

「そんなつもりはないぞ」


 保健室に俺を連れ込むと、やつはすぐに去って行った。

 保健室の先生に事情を話す。


「おでこはたんこぶになっているわね。立ちくらみや視界が暗くなっている感じはしない?」


「ぜんぜんしません」

「一応、冷やしておきましょう。鼻血のほうは――あら、もう止まっているみたいね」


 だから大したことないって言ったんだ。俺はため息をついた。


 朝のホームルームが終わり、次の授業に入る短い休み時間の間に俺は自分の教室に入った。

 すぐさま二ノ宮がやってきた。


「朝から逆ナンするとは、小林もやりますなぁ」

「逆ナン?」

「彼女ができた僕に対抗したのかな。ミス誠進に目をつけるとはなかなか行動的だね。ほほほ」


 二ノ宮はおおらかに笑った。


「二ノ宮、何か勘違いしてないか?」

「いいって、いいって」


 大仰に頷いて二ノ宮は去って行った。

 何がいいんだ。絶対勘違いしているぞ!


 教師が教室に入ってきて、授業が始まった。

 いったん授業が始まると気持ちを切り替える。

 いつまでも過去の時間を引きずってはいられない。

 昼休みになり、勉強から少し思考を離すと、再び三瀬のことを思い出し、俺は頭を抱えた。


 なんで次のターゲットがよりにもよってミス誠進なんだ?

 今日までその存在すら知らなかった俺だが、あれだけの美人だ。言い寄る男はたくさんいるだろう。すでに彼氏がいるかもれしない。いや、いて当然だ。


 そこに俺なんかがひょっこり割り込んで、彼女を胸キュンさせることができるだろうか?

 否、そんなことができるはずがない!


「三瀬ってどこのクラスだっけ?」


 母さん特製の弁当を食べながら二ノ宮に聞くと、二ノ宮はほおばっていた売店で一番人気の焼きそばパンを飲み込んでから言った。


「平野さんと同じクラスだよ」

「そうなのか?」

「小林、まさか本気で三瀬さんを狙っているのかい?」

「狙うっていうわけじゃないさ。ただ、ちょっと気になってな」

「やめておいてほうがいいよ。三瀬さんは誠進のアイドルだよ」

「分かっている」

「いや、小林は分かっていないよ。誠進ミスコンテスト優勝者ということは、ライバルも多いということだよ。やみくもに三瀬さんにちょっかいを出したら、取り巻きにヤられるよ」


 俺を保健室にされていったやつのことを思い出した。やつは言っていた。「人目をひく行為で、美月の気をひこうとするな。わざとらしい」と。


 あれはけん制だったのだ。


 背中に冷たい汗が流れた。


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