プロローグ
ある日──地球に飛来した隕石と共に現れた『精霊』という未知の存在。
その存在が認識されるようになったのが今から数十年前。
100m走をチーターが駆けるかのように疾走したい──鳥のように空を自由に飛んでみたい──透明人間になりたい──拳で岩を打ち砕けるようになりたい──誰もが一度は抱いたことのあるであろう願いを、そいつは実現させた。
あるものは己の脚で、時速、数十キロのスピードで走る自動車と並走し、高さ数mの壁を、発達した下半身の関節と筋肉のバネを総動員し、膝を軽く曲げ、まるで伸びでもするかのようにして跳躍し、乗り越えていく。
またあるものはその場でふわりと宙へ浮かんでゆき、フィギュアスケート選手がスケートリンクで踊るように、空を縦横無尽に駆け巡った。
妄想の枠の中でしか成しえなかった偉業を、現実のものとした未知なる存在は、いつしか様々な意味を込められ──『精霊』──と呼ばれるようになった。
ヒトの身体機能や五感などの肉体に直接影響を与える肉体侵食型、通称BEタイプ。
ヒトの肉体へは直接影響を与えないが、精霊を実体化させることが可能で、超能力のような力を持つものが精神侵食型、通称SEタイプ。
どちらもヒトとしての見た目に関しては、大きな違いは無いが、精霊の姿が確認できるか否かで大きな違いを持っている。
精霊は空気のように、どんな場所にも漂っているようなイメージが、今の時代は一般的だ。
が、その姿を確認できるのは、SEタイプの能力者が持つ精霊のみとなっている。
つまるとこ、誰もが目で直接見えるような精霊は、SEタイプの精霊のみということである。
その姿は様々なものがあるが、寄生しているヒトの持つイメージが強く影響しているとされている。
そのような違いを持つためか、SEタイプはBEタイプに比べて珍しいという認識だ。
実際に世界で初めて、能力を持つ人間で確認されたのがBEタイプであり、次いでSEタイプが確認され、双方の違いを明確にし、BEタイプ、SEタイプと分けて呼ばれるようになった。
そしてそれに伴って生まれたのが──『精霊侵食判定試験』──
しかし、この試験では能力がどのようなものであるかまでは判断が難しく、BEタイプであるか、SEタイプであるかという違いしかわからない。
BEタイプであればまだ、肉体に直接影響を与えるものが多いため、能力の詳細もわかるものの、SEタイプになると、能力の可能性が多岐にわたるため、断定が難しい。
この試験が行われるようになってからもう20年近く経つが、どのような者であれ、BEタイプかSEタイプかの断定であれば完璧に行うことができていた。
まかり間違っても、何も反応が出ない、タイプの判別ができない、精霊の寄生自体確認できないなどということはありえないはずだった。
「きみにはなにもない」
大川理久──もとい鬼山理久となる少年は、この試験を機に様々な人間の思惑や事件に巻き込まれることとなる。