嫁と姑の大戦争が勃発しなかった話。
私の名前は山崎梅子といいます。
月日がたつのは早いもので、今年で60歳になります。
生け花の講師として、ささやかですが収入を得て働いております。
これから、私の息子と奥さんの話をしようと思います。
息子の妻である桔梗さんはよくできた女性です。
なによりも笑顔を絶やさずに人に柔らかく寄り添うことのできる気の利いた女性です。
息子が連れてきたときには、その若さと可愛らしさに随分と驚かされました。
それもその筈、桔梗さんは当時20歳のぴちぴちのお嬢さんでしたから。
息子は当時40歳の20歳の年の差結婚だったのです。
こんな若々しいお嬢さんがウチの息子と結婚するなどうまく飲み込めませんでした。
ですが、最終的に彼女が財産狙いだったとしても受け入れようと決めたのです。
それはなぜかと言うと、これまで息子が女性を家に連れてきたことが一度もなかったからです。
あれは、息子が20歳の頃でした。
我が子の成人に、日ごろ気の強い私も思わず目が熱くなったものです。
同時にこの子が結婚するのを想像して、いもしない未来の奥さんに息子を取られたような気分になりました。嫁と姑との間は、日本の古来より昔からいさかいが絶えません。
かくいう私も夫の姑に随分といじめられたものでした。
あの時は必死で我慢していたものの、今となっては姑の気持ちがよく分かったように思います。
きっと、私も息子に嫁いできた女性には辛く当たるんだろうということは目に浮かびました。
ところが、です。
月日が流れても息子は一向に結婚する気配が起こらないのです。
20代の内はまだまだ遊びたい盛りで家庭に入りたくないのだろうと思っていました。
それでも30代になると、もしや息子は既婚者との道ならぬ恋に身を焦がしているのではないのかなどと
邪推をしてしまったくらいです。
改めて、息子のことを愛の盲目フィルターを取り払いよくよく観察するとどうやら女性が苦手らしいということが分かりました。けれども、息子の部屋には可愛らしい女の子の絵のポスターがたくさん貼ってあるので、決して女嫌いというわけではないようです。むしろその逆でしょう。
息子は、パソコン関係の技術者として日々忙しく過ごしています。
たまの休日もジャージ姿で部屋から出てこようとはしません。
ああ、私は嫁いびりをすることもなく一生を終えてしまうのかと悲観いたしまいた。
そうして、私にも諦観が漂い始めた頃息子は結婚したのです。
私は、あの子が一生独身でいる覚悟を固めていたので大層な朗報でした。
けれども、結局嫁いびりはできなかったのです。
そんなことをして桔梗さんに実家に帰られたら、息子に連れて帰れるだけの甲斐性がないということがこの年になってようやっとわかったのです。
こうして、私は嫌な姑になる機会を一生失いました。
来年には、2人の間に子供が生まれます。
今から楽しみでなりません。