4 前を向くことはできる
4 前を向くことはできる
西野が用意させた車に乗って、目的地に着いたのは夕方だった。
どうやら面会の約束を取り付けていたらしい。このタイミングで俺がこうなったのは、何か因果でもあったのか。
ドラマとかでよく見る、面会室。ガラスの向こうに、彼女はやってきた。
「…花子……」
「……深夜」
花子は、少し疲れた様子でも、あの美貌を保っていた。金髪に緑の目をした姿は、ほんの少し違和感があったが。
「久しぶり、だな…すまん、なかなか、来られなくて」
「まだお前は、私を花子って呼ぶんだな…」
「え……」
「私は後藤花子なんかじゃない。リリアン・マクニールなんだよ」
「…でも、俺の中ではお前はずっと「後藤花子」だ。ついでに言うと、「後藤花子」だろうが「リリアン・マクニール」だろうが、お前はお前だ。俺が、一番大切にしたい、女だ」
「俺もだぜ、校長」
「もう校長でもないだろ」
「俺の中じゃ校長だぜあんたは」
「リリー…いや、花子。君が育てた教え子たちは確かに、君の事をしっかり覚えている。私たちも決して、「後藤花子」を忘れないと誓おう。だから花子、自分を失わないでおくれ。『生きている限り、希望はある』のだからね」
「……ありがとう。でも、大丈夫だ。私は、後悔してない。私は私の手で、終わらせられたんだ。これ以上私も、テオも、苦しむことはない。それで十分幸せだ。でも人ひとり殺したことは事実だ。だから、然るべき償いをして、帰ってくる」
「…分かった。待ってるぞ」
「俺もだ」
面会時間を終え、建物を出た。張り詰めていたものが緩み、涙が溢れる。
「………あー……」
「おい…」
「花子の前では泣かないようにしていたのかな、霧も強情だね」
「う………花子不安にさせるような真似できるかよ…」
「確かに、滅多に人前で泣かない君が泣いたら、花子は間違いなく動揺するだろうね」
「じゃあ俺たちはレアなもん見たってことか?」
「そうだね」
「ち、畜生…」
「まぁ、同じ花子を想う騎士同士、同盟といこうじゃないか!」
「「ナ、ナイト?」」
「おや、お気に召さないかい?」
「くだらねぇ…さて、いい弁護士探してやるか」
「えっマジかよ…さすが金持ちの坊ちゃんはやることが違うな…」
やっと、前を向ける。心から、そう思えた。
あの感覚は、もうない。