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ぬしさま  作者: 里桜子
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供物

 ベッドに寝ていた万里の頭の中にぐわわんと鐘が鳴り響く。

 目覚まし時計よりも強烈なそn刺激に万里はベッドからムクリと起き上がった。この音、またもやエロ主か。

 今何時だ?と思って時計を見ればもうすぐ7時という場所に針が差している。夏休み中の万里にとってはまだ早朝だ。

「あのね、もう少し優しく起こせないわけ?まだ朝早いんだから」

 目を擦りながらリビングにいけば、テーブルの上でオオサンショウウオが洗面器の縁に手を置いてこっちを見ていた。

「何を言うておる。とっくにお天道様は上がっているではないか。怠け者め」

 時代劇でもそんな言葉使わないっつの。そう思いながら万里は洗面器の前に体操座りで座ろうとすると、もう一度ぐわわんと頭に大きな鐘の音が響く。

「何すんのよ!」

 二度も鳴らされ、流石に目が覚めた万里はエロ主に大声で怒鳴った。

「何だその足は!座る事もできんのか」

 ああ、もうウルサイ…万里はうんざりしながら正座に座り直し半ばヤケクソで膝の前に手をついた。いわゆる三つ指というやつだ。

「御用はなんでしょうか」

「初めからその態度で臨め。まったく躾がなってない」

「だーかーらー御用がないなら、呼ばないで欲しいんですけど」

 前置き長すぎ。万里は段々とイライラしてきた。

「おお、そうであった。あんまり態度がなってないから忘れるところであった」

 そんな忘れるような用なら、始めっから呼ぶなよっ!万里は心の中で毒づきながら頭を下げた。まずい、昨日は怒りのあまりよく眠れなかった。じっとしてると眠ってしまいそうだ。

 万里がそのままの姿勢で身体を傾けると、エロ主はチッと舌打ちをしてから「腹減った」と頼むにしてはあまりにもデカイ態度でそう言った。

「人に頼む時は下手に出るって知らないの?」

 幾度となく繰り返した言葉を無駄だと分かっていても、もう一度繰り返す。

「それは対等な関係の場合のみに使われる態度だ」

 偉そうな上に口が減らない。そうですか、昨夜お金をもらった以上は少なくとも居候ではないかも知れないが、少なくとも店子ではないのか?という万里の言い分はこの口調の前では木端微塵に砕けそうだ。

 万里は立ち上がると背中をポリポリと掻きながらキッチンへ向かった。言い争うより大人しく朝食を出して寝なおしたほうが良さそうだ。

 後ろから「手は洗えよ」と声が飛んでくる。

 くそう、埃でも入れてやりたい。そんなことを思いながら冷蔵庫からお皿と牛乳とシリアルを取り出してエロ主の待つリビングに戻った。

 机の上に乱暴に皿を置き、シリアルを入れて牛乳を注ぐ。

「何だ、これは」

「だから、朝ごはん。栄養バランス、食物繊維、共に問題なし」

 そもそも万里は朝食は食べない日の方が多い。

「何をいうておる。こんなもので力がでるか、コメはないのか」

「ない」

 万里ははっきりと言い切った。その後で「食べてないじゃん」と付け加える。

「何を言うておる。供物を与えるのは下女の仕事だ。それに私は精気を食すのだ」

 なるほど、そのものを食べるわけではないのか、それにしても、だ。

「動いてるわけでもないのに」

 洗面器の中のオオサンショウウオを睨みつける。

「人間の姿になるのは精気を使うのだ。しかたない、今朝はこれでガマンをしてやる。明日からはキチンと供物を用意せよ」

 キチン…とってまさかごはんと味噌汁を用意しろとか言うんじゃないだろうな、万里はうんざりと肩を落とす。どこまで図々しいのだ。

 しかし、このエロ主の図々しさはこれだけじゃなかった。奴は禊とかいって、シャワーまで使ったのである。

 やはり、トンデモないものを拾ってしまった…万里は怒りを通り過ぎて、なにか、悪霊でも憑かれたような暗い気分になった。 

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