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ぬしさま  作者: 里桜子
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ちくわの気持ち

 色々悩んだって、結局、清良には何にも言えないんだから。好きって気持ちを持つとすごく臆病になるってことでもあるんだ。

 万里はそんなことを考えながら机に両肘をついて目の前でごはんを食べている清良を見つめた。

 食べてるっていっても眺めているだけだけど。

「美味いな」

 一生懸命料理を作った時には褒めるどころかテレビ何か見てそっぽを向いている時が多いのに、時間がなくてコンビニで買ってきたときだけそんなこと言うんだから、かわいくないっていうか、もしかしたら嫌味?万里は口を曲げたが、清良の言い分に負けたくはなかった。

「そう?コンビニ弁当も凝ってるからね、そんなにおいしいなら毎日買ってこようか」 

 万里のトゲのある言葉に清良は顔を上げたが、口端の片方を上げただけで変化を見せない。

 くそう、こうなことでダメージは受けないか、心の中で舌打ちをする。

 しかし、一応、気は使うことにしたようで、中に入っていたちくわを箸で持ち上げた。

「これは、そちが作ったものと同じ味だ」

 清良が言いたいことはわかる、多分、自分が作った時と変わらないくらい美味いと言いたいのだ。でも、そうだとしてもその例えは可笑しい。

「ちくわは加工品だから、どこで食べてもそんなに味なんか変わらないと思うよ?」

「ちくわと申すのかこれは」

「そう、スーパーで売ってるやつ」

 流石に清良も悪いと思ったのかテレビを見るふりをした。すこしばかりダメージを受けたらしい、そう思った万里は。清良に追い打ちをかけた。

「ふぅん、ちくわが好きなんだ。そんなに好きなら毎日ちくわにしようか」

「可愛くないな、そちは」

「清良が可愛くしないんじゃん」

 ほんとだよ。と万里は思った。もっと清良が自分を褒めてくれたら、優しく接してくれたら、本物の神様みたいに広い心で接してくれたら、もっと素直になれるのに、清良は全然優しくない。

「バイトとか申すものが忙しいだろうと気を使ってやっているのに、その物のいいようはなんだ」

「そう、気を使ってくれていたんだ。どうもありがとう。じゃ、毎日ちくわでいいよね」

「なんだ、その言いようは」

「なによ、甘えてあげてるんでしょ?」

 そう、私は甘えてる。万里は清良を見た。

 自分の気持ちが空回りをしているのが分かる。好きなのに、違う、好きだから。一緒にいたいのに、自分のものにしたいのに、願いは叶わない。

 それは、仕方のないことなのに。相手は人じゃないんだって諦めないといけないのに、私はどこかでまだ皆のようにデートしたり、遊んだりしたいと望んでる。

 しかも、そんな気持ちなんかお見通しのくせに、清良は何にも言ってくれなくて、それが私に神様清良が課した試練にも感じて、同じ立場で見てくれてないせいだって思えてきて、そうだよ、イラついてる。その行き場のない感情を清良に当ててる。

「まことに可愛くないことだ。こい、甘え方を教えてやる」

 清良はそういって、万里の手を引き寄せた。ころがるように清良の腕の中に入った万里は自分の頬が赤くなるのを感じた。

 ずるい、こんなことして、また誤魔化そうとして。

 万里はとっさに清良の胸を押したが、清良はびくともしなかった。

「私が信じられぬか?万里」

「何を信じろっていうの?」

 清良の大きな掌が万里の背中を優しく何度も撫でていく。

「私は今、万里を抱きしめている。他の誰でもない、万里を、だ」

 清良の声は何かの呪文のようだ、と万里は思った。その呪文で開くのは何の扉なのだろう。

「そんな、難しい事、わからない」

 もっと、簡単でいいのに、簡単な言葉でいいのに。

「私は万里を選んだ。それが不満か」

 不満なわけない。でも、一方でそれが不安をかき立てている。

「不満じゃないよ」

「私は前も後もない、そこにただ在る者だ。万里がいる限りはここにいる」

「ずっと?」

「迷惑か?」

 万里は首を振った。

「約束して」

「人は面倒だな」

 そうだよ、面倒なの。清良のことを思うだけで自分の気持ちがコントロールできないの。

 万里はそう返事をする代わりに清良の懐の奥へと入り込んだ。

 月を掴んだって思ってていいのかな、私だけのお月様だって、思っていいのかな。

「仕方ない、こんなふらついて頼りない娘を置いて行くわけにはいくまい」

「何よ、それ」

「ここに居たかったら、そのままでいいということだ」

「そうやってすぐ子ども扱いして丸め込む」

 清良の指が私の髪の中に入り込む。私の髪が清良の指に絡んで、清良が少し笑ったのがわかる。

「丸め込めるような可愛げのある娘ではあるまい」

「可愛くない私が好きなんでしょ?」

「どうだったかな」

 もう、どうあっても「好き」だって言わないんだから。本当に意地悪。

 でも、そっちがその気なら私にだって考えがあるんだから、絶対、絶対、言わせてみせるから「好き」だって「愛してる」って。

「ねぇ、もし、誰かが清良に願いを掛けたらどうする?」

 泉の神様の清良に願いを掛けたら、そしたら清良は私のものじゃなくなる?

「そんな声は聞こえぬ」

 ホント、ずるいの。でも、いいや、この腕の中が気持ちいいから許してあげる。その代り、お願い聞いてくれる?

「今日はこのままでいてくれる?」

 このまま抱きしめていて。髪を絡ませていて。

 清良は何も答えなかった。その代り、ただ、黙って万里を抱きしめた。  

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