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ぬしさま  作者: 里桜子
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私の彼は……

 無駄だ…盛り上がる目の前の二人を見た万里は、ふぅっと一人ため息をついた。ここで肯定の意見を言っても否定の意見を言っても、いや、息を吐くだけで話のネタにされそうだ。

 しかたない、二人が盛り上がり切るのを待つことにした万里は残りのおにぎりを口の中に押し込むと、コーヒーで流し込むようにして喉の奥へと押し込んだ。

 コーヒーとお米が口の中で混じって…うう、美味くない。

 それでも、どうにかこうにか食べて立ち上がると、横山くんとふざけていた由香里が万里を見上げた。

「帰るの?」

 うん、これ以上ネタにされたくないからね、そう言いたがったが、口から出たのは違う言葉だった。

「うん、夕方からバイトだし。」

 レポートは何とか形にはなりそうなところまできたし、あともう少し。あとは家でも出来る。

「帰るの?待って、渡したいものあるんだ。これ、貰ったんだけど……」

 由香里はそういうと、カバンに手を突っ込んでゴソゴソとさばくり始めた。

「何?」

 横山くんが由香里のカバンを覗き込む。「関係ないから」と、さっきまで二人で仲良くしていた由香里は隣の横山くんを見ながら素っ気なく答えて、万里の方に向いた。

「映画のチケット。ペア券もらったんだけどさ、私、都合がつきそうもないんだよね。」

 また、これをネタにからかうつもりなんじゃないだろうか、なんだか怪しい、と思いながらも万里は由香里が差し出した白い封筒を受け取った。

 中身は確かに映画のペアチケットだ。しかも、観たかったやつ。

「恋愛モノじゃないんだ?」

 さっきまで由香里のカバンを覗き込んでいた横山くんは今度は私の封筒を持つ手元を覗き込むようにしてそう言った。

「あー、万里は必要ないじゃん?今はさ」

「そうだな」

 何が可笑しいのかふたりは再びゲラゲラと笑い始めた。そんな二人を万里は、怒るというより呆れた目で見つめた。

 しかし、このチケットは正直、嬉しい。観たかっただけに。

「ありがとう」

 万里は、二人の盛りがりをぶった切るように由香里にお礼を言い、そしてそれを自分のカバンにしまった。

「観に行ったら清良くんの感想聞かせてね、じゃね」

 そうきたか、何事もタダってモノはないもんだ。

 由香里は手を振った。少し遅れて横山くんも手を振る。万里も苦笑いをしながら手を振った。 


 大学の門を出てから改めて万里は校舎を振り返った。

 この映画は前から観たいとは思ってた。素直に嬉しいとは思う。けれども清良と行くのがどうかと言われれば話は別だ。

 一緒に行きたいなんて例え冗談でも清良に向かって言えることじゃない。でも、だからって気を使ってくれた由香里の気持ちも嬉しいと思う。

 本当は清良と一緒に歩くくらいはしたいとは思う。手をつなぐとか腕を組むとかそういうものに大して希望はないけど、それでも家の中にいるだけというのは寂しい。

 ってか、自分たちのやっていることは付き合ってるうちに入らないんじゃないだろうか。

 万里は清良の前で吐けない意味を込めた溜息をついた。一つ吐いて、もう一つため息を重ねる。二つ目は好きな相手が神様だと言うのに人間と同様に考えてしまう自分に対して。

「あーバイト行こっ」

 どうしようもないことに行き当たった万里は歩く足を速めた。こんな気分の日は、がむしゃらに働いて、ヘトヘトになって疲れて寝てしまうに限る。

 考えても考えても考えてもしょーがないじゃん。相手は神様だ。


 その日、万里はバイトの帰り道、スーパーに行って大量の食材を買い込んだ。やけ食いならぬやけ料理の為に。

 鍋一杯のカレーを作っちゃる。玉ねぎを飴色になるまで炒めて、市販のカレールーなんか使わないで、本格的に作ってやる。

 そんな思いを胸に万里は荷物を抱えて料理の手順を考えながら家路についた。

 とりあえず、考えたくない事から逃げるには全然関係ないことに集中するのが一番だ。

 自分の気持ちは自分で解決するしかない、皆、自分のことで精一杯なのだ。由香里も、自分も、そして、多分、神様の清良も……。それは誰を責めても仕方のないことだった。

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