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ぬしさま  作者: 里桜子
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同棲してんの?

 間違いない、あれはミツさんだ。

 翌朝、万里は犬井家の蔵から勝手に持ち出したスケッチブックを開いた。

 顔は見てないけど、手の形、肩の感じ、絵と同じだ。

 正夢、タイムスリップ…色々な言葉が頭を巡る。まさか。そんな小説みたいな話と万里は慌てて否定する。

 けれどもこの半月程の間に身に起きた事柄はすでに十分ファンタジーの域に入る。ないなどとは言い切れるだろうか。


 夢の中の出来事を思い浮かべながら、大学のカフェテラスでコンビニのおにぎりを食べていると向かいの席に由香里が座った。

 満面の笑みを浮かべて。万里の脳裏に嫌な予感がよぎる……。

「万里ったら、スミに置けないんだから」

 来るだろうとは思っていたが、いきなり顔を近づけられて驚いた万里は思わずご飯粒を喉に詰まらせた。

 ご飯粒を口からこぼしながら派手に咳き込む万里に自分でやったくせに由香里は驚いて自分が買ってきたパックコーヒーを万里に差し出した。

 遠慮なく貰うから、まったく。ティッシュは?ないの?

 万里は横目を細めながら、汚してしまったテーブルを由香里から奪ったティッシュで拭き清める。

「何よ、睨むことないでしょうが」

 睨まれるような事してないとばかりに由香里は両手を少し上げて肩をすぼめた。

「……くだらないこと言うからでしょうが。」

 仕草は変えず、今度は由香里は片眉を上げた。その姿は何故かひどく得意げだ。

「くだらないねぇ……ラブラブじゃん。」

 万里は落ち着くように深呼吸する代わりに由香里がくれたコーヒーのストローを勢いよく吸い込んで喉の奥に咳を流し込んだ。

 やっぱり、そうきたか。

「もしかして、同棲してんの?」

 そんなこと身を乗り出して聞くな。しかも周囲が振り返るほどに声がデカイ。

「違うよ。偶然、来てただけ。」

 そう、偶然、人の姿で私を待ってただけ。いつもはオオサンショウウオの姿だもん。

「いいねぇ。合鍵の仲かぁ」

 由香里の瞳がピカリと光る。夢見る乙女のように。いや、実際そうかもしれない。経験ないんだろうし。とは言っても私も人の事は言えない。十分に初心者マークだ。

「そう言えばさ、由香里、正夢ってみたことある?」

 万里は話題を変えた。別に清良の事を聞かれたくなかったわけではないが、昨日の夢の方が今の万里の記憶に刺さっている。

「んーー」

 由香里は自分が買ってきたサンドイッチの袋を開けながら視線を上に向けて視線を泳がせた。

「どうかなぁ。テストの前とかだと、やってなーい、なんて夢は見るけど…正夢ってことはないな」

「ああ、あるね、それ、問題が分からなかったりするんでしょ?」

 それは、それで嫌な夢だ。でも、そういう感じでもなかった。もっと、何ていうか、現実味があった。体温や吐く息さえもわかりそうなくらい。

 片肘をついて頬杖をついて溜息を吐く万里を見る由香里の目がキラリと輝いた。厄介なことにゆかりの頭の中でため息と清良が結びついてしまったらしい。

「前世からの因縁があると夢に見るらしいよ」

 ニヒヒと由香里が意味ありげな視線を向けて笑う。

「別に、清良の夢を見たワケじゃないよ」

「へぇ、清良くんって言うんだ。彼」

 しまった、と万里は口を押えた。自分で話を振ってしまった。

「おう、万里、同棲してんの?」

 さっきの由香里のデカイ声に引き寄せられた横山くんがそう言いながら由香里の隣に座ってきた。

 由香里側の仲間が増えちゃったよ。万里は内心、もう一度ため息をつく。

「そうなのー。情報料はこれでいいから」

 仲間が来た由香里はそう言って、横山くんが持っていた買ったばかりでまだ飲んでないペットボトルを取り上げて横山くんが文句を言う前にさっさと蓋をあけて由香里はひと口飲んだ。

 素早い。

「何だよ、由香里ぃ」

 でも、横山くんは、口では文句を言いながらも実はそんなことどうでもいいように、さっき由香里がそうだったように身を乗り出すようにして万里の方にのめり込むように身体を寄せてきた。

「で、同棲?」

 近いって!万里は横山くんが身を乗り出した分だけ体を引いた。

「ついに万里の鉄の鎧を溶かす男が現れたんだよー」

 迷惑顔の万里の代わりに由香里が生き生きと何でも知ってる風に答える。

「うそうそ、どんな奴?」

 当人であるはずの万里をほったらかしで由香里と横山くんは盛り上がっていく。

「夢に見るくらい好きなんだって。」

 おい、こら、誰がそんなこと言ったよ。話を盛るな。

 万里は、手に持ったままだったおにぎりを大きな口をあけて一気に半分くらい口の中に入れ込んだ。万里が苦虫を噛んでいるような顔をして食べている間も目の前の二人は当人を置いてどんどん話を進めていく。

「万里をそんなに可愛げのあるヤツに変えるヤツなんて見てみたいな」

「それがさぁ。すごいイケメンでさー」

 こういう時、何気に本音が出るよね。二人とも鉄の鎧とか可愛げがない、とか。今まで何だと思って見てたんだ。

 万里はまるで他人事様な顔で由香里からもらったコーヒーをズズズとすする。

 もう、誰にも盛り上がったこの二人を止められない。

「おー、俺よりいい顔してるのか?」

「やだーあたりまえじゃん。イケメンなんだから」

 しかし、ノリで出た由香里の一言は横山くんの顔をひきつらせた。

 万里は合コン好きな由香里が何故、今まで清らかな乙女でいるのか、その理由の一端を垣間見たような気がした。

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