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飛光少年A(17)  作者: つなかん
1999年 鱗粉色
7/31

飛光少年A(7)

「おい、」

 駅前通りを歩いていたら、急に肩を叩かれた。

「あ……」

 一瞬、なんと返事をしたものかと言葉に詰まったが、なんとか答えをひねり出す。

「お久しぶりです」

 佐木さんの所為だろうか、どうしてぼくの居場所を知っているんだろう?

 あんなにきっぱりと会わないと言ったのに、どうして彼はここにいるのだろうか。

「教えろよ、あの日のこと、全部――! 俺のこと、覚えてるやろ?」

 古松昴の兄だった。名前は忘れてしまったが、たしかに分かった。彼は以前同じ学校の、付属の高校に通っていたから何度か見かけたこともある。ゆったりとした、大学生風の私服姿も様になっていた。

「少し、落ち着いたらいかがです?」

 掴みかかりこそしないが、道端で大声を張りあげる彼の剣幕は尋常でなかった。

「ええやろ、俺だって泣いたり、笑ったり、そないなことしたって。……もう嫌なんやねん! 母さんに気遣うのも、献花を見んのも、昔話をされんのも! ぜえんぶ、お前の所為なんやねんで!」

 久々に聞く関西の言葉に触発される。苦手なはずの、彼の怒鳴り声ですら、不快に思わなかった。

「ぼくには関係あらへん。お宅のお母様がどうなってるとか、興味ないんよ」

 そう言うと、彼はつくった拳をぷるぷると震わせた。何を思っているのか分からないが、とりあえずご要望に応えよう。あの日のことを話せばいいのだ。

「あのときは、とても不健全なことをした気分でした。なんというか、法に触れた、とかそういう次元ではないことで……もちろん背徳感みたいな要素も多少あったけど、それによって余計、興奮したというか、なんというか。古松昴は容姿端麗だったし、作品として完成されていたというか、そんな感じです。凶器を持っていたのは――誰かを殺そうと思って……あのときは金槌も持っていた」

 今だって凶器はそこらじゅうにある。カッターナイフ、安全ピン、尖った鉛筆、定規、盤陀鏝、彫刻刀、コンパス、全てが武器なのだ。

「おれはたしかに昔は、短絡的で自制心のないところがあった。首を切ったら、――だってそれはずっとやってみたいことだったから、凄く興奮すると思った……性的な意味で……。切るのはわりと機械的な作業で、取り立てて感動はなかった。敢えて言うなら……腕が疲れた。なんていうか、こう、現実が混じってる感じ、背徳感と似た……だから――、だから、凄い良かった。あれ以上はない。あれはぼくの人生で至高な瞬間だった。きっとこれからも、あれ以上の興奮、感慨はない。倒錯的な、そういう……。でも別に、彼じゃなくてもよかった。理由は、怨恨とかじゃないから、人を殺したかっただけなんです」

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