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飛光少年A(17)  作者: つなかん
1999年 鱗粉色
6/31

飛光少年A(6)

「取材、ですか? なんの?」

 停学がやっと明けたと思ったらこれだ。電話番号はどうして分かったのだろう? 不思議でしょうがないが、上原さんのことを考えると、世間は狭いものだと感じるので、どこかの縁で知ったのだろう。

「四年前の夏についてなんですけど……」

 神経質そうな、しかし、しっかりとした男の口調。電話をすぐに切ってしまいたい衝動に駆られたが、家に押しかけられるのも嫌なので、なんとか堪える。

「古松昴について、ですか」

 声が震えているのが分かった。昔のことを思い出すのは苦痛だ。

「ええ、どう思っていらっしゃいます?」

「どう思うって言われても……、同情されるから、少しだけ羨ましいです。ぼくは今、生きていて良かったと思っているけれど、彼は死んでしまったから……」

 声だけでなく、受話器を持つ手まで震える。あの夏のことを思い出すのは容易だが、それを言葉にして伝えるのが怖かった。

「今度お会いできませんか?」

 丁寧な口調だが、有無を言わせない雰囲気だ。

 会ったほうが良いのかもしれない。嫌な記事を書かれると、迷惑するのはぼくなのだ。




「青の着色料は、ダイエットにいいらしいですよ!」

 たびたび食事を作りにくるようになった上原さんは、たまに面白いものをもってくる。今日は青色の着色料のようだ。

「あ、でも木場さんには必要ないですよね」

 皮肉なのだろうか、上原さんはぼくの骨ばった指から視線を逸らさない。

「コップって、あります?」

 唐突にそう言い出し、ぼくを見上げる。いったい彼女は何をしたいのだろう?

「……ええ」

 ぼくはそう答え、台所の棚から埃を被ったコップを取り出した。

 上原さんが受け取り、水を注ぎ入れ、着色料も一緒に混ぜた。

 水色が綺麗に日光に反射する。

「あの、何も変わらないってことはないです。何か変わるけど、でも元からあったものは取り出せないし、どう作用するか分からない、って思います。色は消えないけど、水を入れれば薄まりますよ。透明に、近くなる」

 コップからの反射で、上原さんの横顔が青く光っていた。

 このまま夏休みが終わらなければいいのに、と思った。




「今、生きていて良かったとは思ってます。ここにいて、出られて良かった。……でも、自分は自分だし、やられたほうだって悪い。それだけの責任があった。おれは悪くないですよ」

 取材は小洒落た喫茶店で行われた。佐木、と名乗った記者は小柄でひ弱そうな印象だが、見た目に反して語気は強い。威圧感があり、話しづらい。

「遺族の方に会ってみませんか? 謝罪していないでしょう?」

 慇懃無礼な口調で話す佐木さんに、圧倒されそうになる。

 しかしここで、はいそうですか、と謝罪するわけにはいかない。ぼくには、ぼくの意見があり、思想があるのだ。

 ぼくはソーダに浸かったアイスクリームを舐め、口を開いた。

「されるほうが悪いとまでは言いません。でも、されるほうにも責任がある。彼は運が悪かった。事故に遭ったようなものです」

「君がそれ言うんですか?」

 ため息混じりに佐木さんはコーヒーをすする。なんだか自分を否定された気分になって、ぼくは反駁を口にした。

「反省して欲しいの? 謝ればいいの? 謝るだけなら、会ってもいい。そうしたらもう、来ないで欲しい。反省や後悔は多分しない」

 佐木さんの視線が、ギロリとこちらを睨む。それに腹が立ち、ぼくはさらに言葉を続けた。

「それに、あの時間、あそこにいた彼も悪かったじゃないですか!」

 思わず叫んで立ち上がってしまった。店内の視線がぼくに集まるのが分かる。

 謝罪するくらいなら、おばあちゃんのお墓参りに行ったほうが有意義だ。

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