飛光少年A(2)
教護院で知り合いだった長谷川くんが死んだらしい。
保護司の人から電話が来たときは、動物虐待がバレたのかと肝を冷やしたが、どうやらそれは杞憂にすぎなかったようだ。
せっかく保護観察期間が終わったのだから、おとなしく過ごさなければならない。
「あ、木場さん。お久しぶりです」
中学校の制服だろうか、紺色のブレザーに濃い赤色のネクタイ。短いスポーツ刈りは、嫌みもなく爽やかな印象だ。
彼――平田くんとは教護院で同室だった人物だ。情報に強く、あまり親しくはなかったが、よく話をした。
「高校生になれたんですね」
「ええ、まぁ」
三つ年下であるはずの彼に、既に身長が越されていたことに気分を落としながら、ぼくは辺りを見渡した。
「吉谷くん、来てませんね」
再び首を伸ばして人混みに目をやるが、彼の姿はない。
吉谷くんとも昔同室で、あまり親しくはなかった。一度だけ面と向かって「君を崇拝していない」とか言われたことがあった程度だ。
なんのことだか、当時はよく分からなかったが、ぼくの事件に触発されたとか思われていたらしい。警察はやっぱり偉そうなのだ。決め付けてかかって質問する。質問というより、こっちが頷くのを脅迫しているだけだ。
平田くんは怪訝な表情をしてぼくを見下ろした。
「え、知らないんですか? 戸狩さん、この前バスジャックしたんです。ニュース見ないんですか? 気狂い病院にも入ってたらしいし――」
平田くんは吉谷くんのことを「戸狩」と呼ぶ。改名前のその名前で呼ばれることを吉谷くんはひどく嫌がっていた。
「……バスジャック」
よく覚えていないが、先月のゴールデンウィークあたりにそんな事件があったように思う。テレビや新聞を、あまり読んでいないことを知られてしまったようで、ぼくは居心地を悪くした。
それにしても、あの吉谷くんがまた警察に捕まっていたとは驚きだ。
恐縮しているぼくなど気にもしない様子で、平田くんは言葉を続ける。
「ネンショー送りにされて、首吊ったらしいよ。先生が怖いって噂の――もしかしたら戸狩さんも行くことになるかも」
チラリと、長谷川くんの遺影に目を向ける。その綺麗な顔立ちは、真面目な表情でこちらを見返しているような気分がした。
「でもきっと満足してます。長谷川くん、何かをやり遂げたことなんて、なかったじゃないですか」
長谷川くんはきっと、背中を押されたがっていて、そして多分気付いて欲しがったのだ。
ぼくが言うと、平田くんは口角をあげ、口もとを隠した。
「さすがにそれは不謹慎ですよ」
笑いを隠しているのが丸分かりだ。そちらのほうがよほど不謹慎だと思いながら、ぼくは彼をまた、羨ましくも感じた。
高校生は凄く大人だと思っていたのに、いざ自分ががそうなってしまうとまだまだ随分子供である気がした。
しかしそんなのはきっとぼくだけだ。他のクラスメイトたちは色んなことを考えて生きていて、ぼくよりずっと早く大人になってゆく。
葬式で会った彼らは、ぼくと同じで、だからとても安心した。
彼らとであった場所は、あんなに嫌っていたのに、また戻りたいと思い、懐かしくなった。
十四歳にも戻りたかったし、82年生まれのぼくたちが今見えているものが見えていない平田くんに羨望を覚えた。