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飛光少年A(1)
ハサミとペンチで切れ込みを入れたのに、一向に千切れる気配がない。強く引っ張るたびに聞こえる悲痛な叫びは、赤子の泣き声によく似ていた。
ぼくには尻尾がないから、猫の気持ちは分からない。ぼくが分かるのは気持ちの良い高揚感と快楽だけだ。
ガスコンロで焼いた肉球は二倍に腫れあがり、洗剤を掛けた背中は、そこだけ変色している。ぐったりして死んでいるようにも見えるが、強く尻尾を引っ張ると面白い鳴き声をあげてくれる。これだからやめられない。洗剤やら内臓やらが発する、生ゴミのような香りすら、ぼくの興奮を煽った。
不意に始まった痙攣に、もう長くないことを悟る。もっと遊んでいたかったのに残念だ。まぁいいや、ぼくもそろそろ限界が近い。床に垂れた血液を舐めとると、懐かしい鉄の味が口に広がった。うっとりと目を閉じて、ぼくは昔を思い出す。
舌打ちをして、尻尾を掴んだまま立ち上がると、実にあっけなく終わってしまった。
ぼくには尻尾もなければ羽もない。蛾になんてなれていなかった。ぼくはあの頃と同じ、幼虫(ダメ宮)のままなんだ。