tears
「馬鹿よね……」
普段、こぼすのといったら愚痴くらいの自分が、なんで涙なんかこぼしてるんだろうと思うと、そっちのほうが悔しくってどうしても涙が止まらなくなった。
「ほんと、あんたって馬鹿よ」
ぐったりとして意識を失ったまま、ベッドの上で返事もしないあんたに何を言ったってしょうがないんだろうけれど、だからといって黙っていられるほど今の私は優しい気持ちにはなれない。
だって、これまで散々言ってたんだ。
自分の事、ちゃんと管理して欲しいって。
頑張るのは構わないけれど頑張りすぎるのはダメだって、ずっとずっと言ってたんだ。だけど、いつだってあんたからは生返事ばかり返ってきて、本当は胸ぐら掴んでひっぱたいてやりたい気分だった。
そして結果、これだ。
倒れたって聞いてすぐに飛び出して来たから、おかげであんた以外に誰にも見せたことのないスッピンの顔をあちこちにさらす羽目になった。
まったく……突然、深夜の病院に呼び出される身にもなれって思う。
一体どんな気持ちで私がタクシーの中、何度もあんたを罵る言葉を吐いたか。もう絶対に嫌いになってやるって、つい今しがた何十回目かの決意してからこの病室のドアを開けたんだ。
そして――
「……はっ、ううぅ」
唇の間からこぼれるのは、過労で倒れたあんたに掛けるきつい一言ではなく、嗚咽。
目からこぼれるのは、ホッとしたおかげで溢れてしまった涙の雫。
「馬鹿……」
目が覚めたら、あんたの事をいっぱい怒ってやろうと思った。
でも、今は――簡単に嫌いになれないからこそ流してしまう涙が悔しくって、悔しくって。だから、もうちょっとだけこのまま泣くつもりだった。
あんたが目を覚ましたら、いっぱい怒ってやるつもりだ。
それまでにはちゃんと泣き止んで、いつもの私を作るのだ。心配してる顔なんて、あんたなんかに見せたくもないし、見られたくもなかった。