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短編

明日が最後の……【お題スレ】

作者: まめ太

 出店の屋台は色とりどりのテント屋根で、カラフルな書体の文字が描かれている。道の両脇に隙間なく並んだ店先からは、威勢の良い掛け声やら冷やかしの声が響く。

 さほど広くもない境内に所狭しとひしめいている店を一軒一軒と冷やかしながら、晴美は隣の男に笑いかけていた。妹の晴美。

 男はよく知る人物だ、晴美の恋人であり、俺の親友でもある拓也だ。

 今日は近所の神社でささやかながら秋祭りが行われている。二人でデートがてらに冷やかしに出てきたってところだろう。まったく、俺が見ていることも知らずにイチャイチャしやがって。

 鼻の下が盛大に伸びてんぞ、拓也。


 晴美は、我がで言うのもなんだけど、美人なんだ。

 この近隣ではピカイチだと思ってる。兄バカかな。

 今日は少し華やかな色合いの服を選んだみたいで、秋のトレンドとか言って皆が履いてるブーツを合わせたお洒落をしてる。ずっと、地味な服ばかり着てたから、心配してたんだけど、ようやく吹っ切れたらしい。良かった。


 それに比べて拓也はダメだな、元から地味男だからなのか、ファッションセンスが皆無なのかは知らないけど、ダサい格好にもほどがあるよな。

 ポロシャツにチノパンを合わせときゃ、とりあえず大丈夫ってのが透けて見える服装だ。

 オール・ユニクロ。そんで五分刈り。

 なんとかしろ、お前。


 明日、二人は結婚する。

 それなのに、こんなトコでのんびりしてていいのかよ、式場の手配やら最後の打ち合わせやら、忙しく駆け回ってんのは互いの両親だけで、本人たちはまったくのほほんとしてやがるんだから。

 まったく、いいご身分だよ。見てるこっちはヤキモキしてんのに。


 我が親友ながら、拓也はお人好しが過ぎる面があるからな。少しばかり心配なんだ。

 俺が金の無心をして拝み倒せば、なんのかんので結局貸してしまう。返した試しがないってのに。

 親友だからだ、なんて言ってたけど、割と他の奴にも甘いのはなんとかした方がいいぞ、お前。まぁ、その点、晴美の方がガッチリ抑えてるから大丈夫とは思うけどな。

 頼むから、晴美を泣かすことはしないでくれよ。俺は泣かせっぱなしだったんだからさ。


 ああ、晴美。お前、それ買うのか?

 止めろ、こんなトコでそれ、なんの挑発だ、チョコバナナなんて。

 拓也のビミョーな表情を読んでやれって。

 お前ってほんっと、時々、天然かますんだよな。へらへらして、二本も買うんじゃねーよ、食わされる男の心境を考えてくれ。せめて自分だけ食えって。いや、それ計算でやる女はあざとくて俺は好きじゃねぇが。お前が計算じゃないことくらい解かっちゃいるが。

 なんてゆーか、すまん、拓也。こんな妹で。

 まぁ、こういうところも含めて宜しく頼むわ。


 しかしなんだな、晴美のやつも、どうせなら浴衣でも着てくりゃ良かったのにな。

 今年の夏祭りは着れなかったんだし。て、俺のせいか、ありゃ。

 こんなバカな兄貴に遠慮することもなかったのに。いや、そうでなくても目立つ事は極力避けて通ってたんだっけ。そうしないと、危険だからって。

 昔っから、晴美は俺のせいで損ばっかりしてたよな、彼氏もマトモに作れなかったんだっけか。


 俺はいわゆる不良ってヤツで中学高校と進んでしまったもんだからさ、とばっちりで妹の晴美にはロクな男が寄って来なかったんだ。

 マトモな男は小学校時分から変わらず付き合ってた俺の親友の拓也だけだったよな。

 そーいや、拓也にもずいぶん迷惑かけたな。

 喧嘩相手の報復が、友達ってだけで拓也に向いたこともあった。

 それでもお前ってば、俺のことを心配してて。お人好しなのもいい加減にしないともっと酷いとばっちりを食う事になるぞ。

 ほんとは、それでも親友でいてくれたお前にありがとうって言いたかったのに、憎まれ口しか叩かなかったよな。

 いまさらだけど、ほんと、ありがとうな。


 俺の人生で、本当の友達ってのはお前だけだったよ、いや、マジで。

 いい加減な男だったし、喧嘩は強かったけどそれで粋がって鼻持ちならない奴だったと思う。そこら中に敵ばっかり作って、しょーもねー奴等とつるんで。

 本気で心配してくれたのなんて、お前だけだったよ。

 本気で俺の為に泣いてくれたのもお前だけだった。

 人生舐めてかかって、あげく、俺は高校卒業後にくだらないチンピラになっちまって、人生破綻しちまった。

 とても二人の前に出てなんて行けない。

 拓也。中学時代からお前に借り続けてきた借金、16万8千円だけどさ、このまま踏み倒すわ、悪ぃ。

 んで、このまま、明日の結婚式を見届けたら、こそっと消えちまおうと思うからさ。


 本当に、お前ら二人には迷惑かけっぱなしでごめんな。

 晴美、こんなダメな兄貴で、ほんとにごめんな。

 だけどさ。

 明日。

 お前の花嫁姿だけは見せてくれよな。

 そしたら、思い残すことはもうないから、お前の願い通りに成仏するからさ。

 最後まで我侭な兄貴でごめんな。


 この神社の裏手で俺は刺されて死んだんだ。

 毎日だった花束は、最近、ようやく途絶えがちになった。

 ようやく。


 だから、明日が最後なんだから、間違ってもブーケなんて供えるんじゃねーぞ、お前ら。

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― 新着の感想 ―
[一言] ありがちなのかもしれませんが、こういう兄、妹、親友、展開、全部好きでツボでした。 あやうくホロリとしてしまうところでした。 最後の花束が減って、ブーケはやめろは、全体を締めくくっていて、ああ…
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