第二部:対面―1
「薫ちゃん麦茶とジュースどっちがいい?」
大きめの冷蔵庫を開け、頭を半分ほど突っ込みながら沙和が問う。その問いに当然のように答える薫。
「コーラ!」
冷蔵庫から体を戻し、眉間にしわを寄せながら沙和もまた当然のように答える。
「コーラは無いの」
そういってまた視線を冷蔵庫に戻す
「俺はビール」
「子供がビールなんて……」
聞き慣れない低い声。明らかに薫のものではない。父の声でもない。父の声にしては若すぎる。第一、父はお酒は飲まない。
ゆっくりと視線を冷蔵庫の中から外し、薫が座っている居間のテーブルへと視線を移す。
蝉の声が頭の中で鳴り響く。
薫が呼ぶ声も耳に入らない。
写真と同じ、日に焼けた顔。短く刈り込んだ髪。高い身長。父に似た雰囲気。
目を、奪われた。
「会うのは初めてだろ?よろしく沙和」
私の意識を引き込むような穏やかな声。頷くのが精一杯だった。
「沙和ぁ誰この人だよ!朝見たの!知り合い?」
言葉に詰まる。自分の兄という確信が無かったから。
「俺?俺は沙和の兄ちゃんで暁って言うんだ」
「女みたいな名前」
「薫ちゃんには言われたくないなぁ」
「兄妹そろってちゃん付けかよ」
拗ねたように呟く薫をみて暁は大声で笑う。沙和はまだ視線が逸らせない。
―私の…お兄ちゃん…?
冷蔵庫の冷気が足元に触れる。冷気が逃げて中の温度が下がると鳴るブザーが鳴る。
「早く閉めろよ」
薫の声でハッとする。
「う、うん」
慌てて冷蔵庫の扉を閉める。閉めた後にまだ飲み物をだしてないのに気付いたがもう一度開ける気にはなれなかった。
自分でも分かる程激しい心音。小刻みに震える足。火が吹き出そうな程熱い顔。
悟られまいと必死に震えを押さえ、俯く。それを不思議に思った暁は沙和の目の前に立ち、額に大きなてをあてる。
「熱は…少しありそうだな。大丈夫か?家まで送ろうか?」
沙和は何でもない、とそれだけを伝えると一人で帰ると言いだした。
「帰るんなら送るよ」
そう言って立ち上がろうとする暁を制止し、足早にマンションへと足を進めた。震える足と動機は民宿を離れていくとともに薄れていった。
夜。布団に潜り込みながら今日の事を考える。動悸、震え、紅潮。いままで起きたことの無いことが起こった。原因を考えると浮かんでくるのは初めて逢った兄、暁の姿だった。
「…お兄ちゃん……」
小さく呟く。すると動悸がぶり返す。何だ。コレは。
「……暁…」
頭が痺れる。
コレは何?
私はどうかしてしまったのか。
いや、直感で分かる。
コレは多分
恋。
私が本当に書きたいシーンはまだまだ先ですが、それまで暇つぶしにでもお付き合いして頂ければ幸いです