第一部:変化と夏ー2
夏休み初日の事だった。
母から聞いた話によると、兄は都会の方の大学に通っており、普段は一人暮らしだが夏休みは帰ってくるという。
最初は兄がいたことに驚きはしたものの幾つか心当たりがあった。
私が生まれる前のアルバムにちらほらと写っていたから。
バックがいつも父、政晃が経営している民宿だったので良く遊びにくる近所の子だと思っていた。
写真のなかの兄は小学五年生ぐらいか
短く刈り込んだ色素の少し薄い髪
小学五年生にしては少し高い背
程よく焼けた小麦色の肌
外見は沙和とはまったくの正反対だった。
長く伸ばした漆黒の髪
小学四年生にしてはかなり小柄な体
日に少しでも当たれば赤くなるほどの白い肌
何もかも正反対だったからよその子だと勘違いしていた。
正直言って逢いたいと言う感情はわいてこなかった。
実感がなさすぎたのだ。
兄妹なのに兄妹じゃない。そういう感情を沙和は兄に対して持っていた。
「明日お父さんの所に来るはずだから塾はお休みして会ってらっしゃい。」
「明日塾のテストだよ?やすんでいいの?」
パッと顔をあげ、少しだけ期待はしたものの、最近あきらめ癖が着いてきた沙和はすぐに俯いてしまった。
「テストなの?どうして言わなかったのよ」
「どうしてって……」
「まぁいいわ。塾が終わったらお父さんのとこに行ってなさい。帰りに迎えに来るから」
それだけ言い終わると忙しそうに大量の資料と共に書斎に籠もってしまった。