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宇宙人のスパロボが現代日本で発見されたようです ~国家予算で全力解析(リバースエンジニアリング)します~  作者: パラレル・ゲーマー


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第5話 沈黙の繭(The Silent Cocoon)

2025年12月14日 07:00 (JST)

東京都 新宿区 都庁前広場


 その現象に、前兆はなかった。

 通勤ラッシュが始まろうとしていた西新宿。高層ビル群の隙間から見えたのは、爆発でも閃光でもなく、ただ圧倒的な「黒」だった。


 音もなく、風もなく。

 代々木公園の地下深くを中心点として発生した「絶対不可侵領域」は、物理法則を無視した速度で膨張した。

 コンクリートも、アスファルトも、逃げ惑う人々も、飲み込まれた瞬間に動きを止めたのではない。

 「消えた」のだ。


 半径五キロメートル。

 新宿、渋谷、赤坂、永田町。

 日本の政治・経済の中枢が、直径一〇キロメートルの黒い半球状のドームに置換された。


 後に残されたのは、綺麗に切り取られた道路の断面と、世界の終わりのような静寂だけだった。


2025年12月14日 08:30 (JST)

東京都 立川市

内閣府 立川広域防災基地 災害対策本部予備施設


「官邸、防衛省、警視庁……全滅です。応答ありません」


 広大なオペレーションルームに、内閣府参事官の乾いた声が響く。

 非常招集された職員たちは、誰もが蒼白な顔でモニターを見つめていた。

 そこに映っているのは、空撮映像による「黒いドーム」の姿。

 かつて東京と呼ばれた場所を覆う、巨大な墓標のような黒体。


「物理的な攻撃は?」


 暫定的に指揮を執る総務大臣・桂木誠が問う。


「無意味です。陸自の偵察ドローンが接触しましたが、境界線に触れた瞬間、分子結合が解けて霧散しました。壁ではありません。あれは『事象の断絶』です」


「放射線は?」

「ゼロです。熱源も、電波も、重力波すら漏れてきません。……完全な『閉鎖系』です」


 科学技術政策担当の職員が、絶望的な予測を口にする。


「内部の時間は……おそらく停止しています。あの中は、この宇宙の時間の流れから切り離されている。エントロピーが増大しない、永遠の静寂の中にあると思われます」


 桂木は椅子に深く沈み込んだ。

 総理も、官房長官も、そしてクロノス対策チームの海堂たちも、あの永遠の闇の中に封じ込められた。

 生きているのか、死んでいるのかすら、観測できない。


「アメリカはどう出ている?」

「在日米軍は即応体制(デフコン3)に移行。横田、厚木、横須賀の全ゲートを閉鎖。……ですが、彼らも混乱しています。司令部からのホットラインが鳴り止みません。『日本政府は存在するのか』と」


2025年12月14日 08:45 (EST / 22:45)

アメリカ合衆国 ワシントンD.C.

ホワイトハウス 地下 状況判断室シチュエーション・ルーム


 世界最強の軍事大国の意思決定機関は、重苦しい空気に包まれていた。

 テーブルの中央には、NRO(国家偵察局)が撮影した高解像度の衛星写真。

 東京を抉り取った「黒い穴」が、不気味に鎮座している。


「脅威レベルは『測定不能(Unknown)』。……我々が想定しうる最悪のケースです」


 国家安全保障担当補佐官・ケインが、沈痛な面持ちで報告した。


「対象『クロノス』は、自己防衛プロトコルを起動したと推測されます。外部からの干渉、あるいは環境不適合を検知し、自身の周囲に強固な位相空間シールドを展開。現在、その内部で『再構成(Reconstruction)』を行っているものと思われます」


「再構成だと?」


 米国大統領・アーサー・クレイグが、低い声で問う。


コクーンのようなものです。幼虫がサナギになり成虫になるように。……奴は、より環境に適応した強力な形態へと進化しようとしている」


 ケイン補佐官は、一枚のシミュレーション画像を提示した。


「問題は、その『孵化』がいつ起きるか。そして孵化した『成虫』が人類にとって友好的か否かです。……AIの予測では、敵対的である確率は98%。奴が目覚めれば、次は日本列島そのものをエネルギー源として喰らい尽くすでしょう」


「……それで軍の提案は?」


 大統領が国防長官に視線を向ける。


 国防長官は、躊躇いなく発言した。


「『オプション・カタルシス』の実行を具申します」

「……核か」

「はい。戦術核ではありません。戦略級熱核弾頭(W88)による、多重飽和攻撃です。シールドが物理干渉を拒絶するとしても、核爆発による超高熱とガンマ線の嵐は、位相空間の維持エネルギーを枯渇させ、強制的に中和できる可能性があります」


「効果の保証は?」

「ありません。ですが待っていれば、100%日本は終わります。そして次はハワイ、西海岸です。……『孵化』する前に、繭ごと焼き払うしかありません」


 国防長官は、氷のような目で付け加えた。


「日本政府は事実上消滅しました。今の日本に、この決断を下せるリーダーはいません。……我々がやるしかないのです。同盟国を守るために」


2025年12月14日 23:00 (EST)

ホワイトハウス 大統領執務室オーバル・オフィス


 大統領は一人、執務机の前で窓の外の闇を見つめていた。

 手元には、統合参謀本部議長が持ってきた「核攻撃命令書」がある。

 サイン一つで、横須賀の第七艦隊、あるいはオハイオ級原潜から、トマホークやトライデントが発射される。

 目標:Tokyo, Japan.


 ドアがノックされ、ケイン補佐官が入ってきた。


「大統領。ペンタゴンが回答を急かしています。……ドームの直径に変化はありませんが、内部エネルギー値が指数関数的に上昇しています。叩くなら今だと」


 クレイグ大統領は、ゆっくりと振り返った。

 その顔には、深い疲労と、それ以上の苦悩が刻まれていた。


「ケイン。……君は歴史をどう思う?」


「歴史ですか?」


「1945年。我々は二度、あの国に太陽を落とした。戦争を終わらせるためという大義名分の下で」


 大統領は命令書を指先で弾いた。


「あれから80年。我々は日本と同盟を結び、友人となった。……だが今日、私は三度目の太陽を落とせと迫られている。しかも今度は、敵国としてではなく、友人を『救う』ために」


「……ですが放置すれば世界が危険に晒されます。外科手術が必要です。患部(東京)を切り捨てて、本体(世界)を生かすのです」


 ケインの言葉は正論だった。論理的には、それが唯一の解だ。


「外科手術か。……だが患者の同意はない」


 大統領は首を振った。


「想像してみろ。もし我々が東京を核で蒸発させたとして……生き残った日本人は、我々をどう見る? 『ありがとう、怪物を倒してくれて』と言うか? ……いや、違う」


 大統領は部屋の隅にある地球儀に歩み寄った。


「彼らは永遠に記憶するだろう。『アメリカは三度、我々を焼いた』と。……その瞬間、日米同盟は終わる。いや、世界中の同盟国がアメリカを恐れ、憎むようになるだろう。『アメリカは自国の安全のためなら、友人の首都に平気で核を撃ち込む国だ』と」


「しかし大統領! 躊躇している時間はありません!」

「……いいや、ある」


 大統領は断言した。


「ドームの中の時間は止まっていると言ったな? ならば中の人間は、まだ死んでいない。……日本国総理大臣も、数百万の市民も、まだあの黒い繭の中で生きている。凍りついた時の中で、助けを待っている」


 大統領はデスクに戻り、命令書を手に取った。

 そして、その紙を真っ二つに破り捨てた。


「攻撃は許可しない」


「大統領!?」

「艦隊は待機させろ。封鎖は継続。ドームから何かが這い出してきたら、その時は撃て。……だが繭のまま眠っているなら、手出しは無用だ」

「それは……賭けです。あまりにもリスクが高い」

「政治家とは、リスクを背負うのが仕事だ」


 クレイグ大統領は受話器を取り上げた。


「立川の暫定政府に繋げ。……彼らに伝えろ。『アメリカは友人を撃たない』と。……そして『我々は待つ』と」


2025年12月14日 13:15 (JST)

東京都 立川市 立川臨時官邸


 緊迫したオペレーションルームに、通信士の声が響いた。


「在日米軍司令部より入電! ……『攻撃中止』! 繰り返します、作戦コード・カタルシスは無期限凍結! 第七艦隊は監視任務ウォッチ・オーダーへ移行します!」


 その場にいた全員が息を呑み、そして崩れ落ちるように安堵のため息を漏らした。

 桂木大臣は、震える手で目頭を押さえた。


「……助かったのか」


「理由は何だと?」


 職員の問いに、外務省からの連絡員が答えた。


「ホワイトハウスからの直接指示です。『三度目の悲劇(The Third Tragedy)は許されない』と。……彼らは我々を見捨てなかった」


 桂木は顔を上げた。

 核の雨は回避された。だが状況は何一つ解決していない。

 東京は消えたままだ。

 そして、あの黒いドームの中で「クロノス」という名の神が、静かにその姿を変えようとしている。


「……感謝する、アメリカ大統領」


 桂木は、モニターの向こうの同盟国に祈るように呟いた。


「だが、ここからは我々の戦いだ。……科学班! 外部からの解析を急げ! ドームを解除する方法を見つけるんだ! 中の連中が目を覚ます前に!」


2025年12月14日 14:00 (JST)

東京都 新宿区外縁部 ドーム境界線付近


 陸上自衛隊のNBC偵察車が、黒い壁の目前で停車していた。

 防護服を着た隊員が計測器を向ける。


「変化なし。……いや」


 隊員が計器の針を見て、息を呑む。


「振動しています。……極微小ですが、ドーム表面が脈打っています」


 黒い闇の表面に、青白い幾何学模様が浮かび上がっては消える。

 それは、まるで巨大な電子回路のようであり、あるいは生物の血管のようにも見えた。


 クロノスは、この閉鎖空間の中で、地球上の物質情報、そして「概念」を取り込み、自らのボディを再構成している。


 凍りついた時の中で、進化の秒読みだけが進んでいく。

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